トランスパーソナル心理学/精神医学
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クンダリニーと統合失調症の思想
デュルケム、プラトン、ユングの思想をもとに
巻口 勇一郎
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2020 年 19 巻 1 号 p. 50-75

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抄録

本稿では、ユング、デュルケムやプラトンらの思想をもとに、クンダリニー症候群と統合失調症の異同について思想的、臨床的な理解をすすめ、理想的な対応についても検討した。霊的覚醒は平たんな道ではなく、クンダリニー覚醒のもつ険しい側面が伴いうる。ユングによれば、自我が健全でありぜい弱でなくても、あまりに強い無意識的原型であるクンダリニーが覚醒すれば病的と評価される状態が生じうる。クンダリニー覚醒は、洗礼の泉をくぐるような苦痛を伴う霊的経験であり、しばしば統合失調症と誤診される。しかし、プラトンによれば知恵によって肉体的な楽から離れる こと、すなわち苦はよい魂の道であり、デュルケムによれば苦痛こそ我々が依存する俗物との紐帯を断たれ、秘儀へ参入する段階にある証である。目覚めたクンダリニーが苦痛を生み出すことから単純に症候群や病気と評価され薬物のみによって抑圧されれば、その経験が熟さないだけでなく身体の発熱や硬直などの悪性症候群等を招く可能性がある。発熱などの身体症状を伴う統合失調症は本来、気づきや悟り、解脱へ向けて開かれた宿命的苦行であるという立場から、その対応には薬物療法のみならず仏法的アプローチ、ユング心理学的アプローチが重要であると主張する精神科医もいる。また筆者の経験などを参照すると、ヒンドゥーにおけるナーガパンチャミープジャやラーフ・ケートゥ(カール・サルプ)シャンティー星供養、ルドラ・アビ シェーカム儀式、プラーナ経典(ヴァラハ・サハスラナーマ等)読誦やヨーガ、ヒマラヤのディクシャなどが滞ったクンダリニーエネルギーを効果的に開放し、シヴァとシャクティー(=ラーフとケートゥ)というように二分された、本来一如のエネルギーを再統合に導くことができうるので、誤診された統合失調症例に今後それらを用いることを検討する価値があると考えられる。

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© 2020 日本トランスパーソナル心理学・精神医学会
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