2019 年 23 巻 3 号 p. 143-147
樹幹注入剤を施用する際,幹に開けた孔から薬剤を注入するため,傷や薬剤による通水障害の発生や木部の変色等の悪影響が懸念されているが,その実態を調査した研究はほとんどない.本研究ではソメイヨシノ,モミジバスズカケノキ,ユリノキに対し,4種類または2種類の樹幹注入殺虫剤を注入し,その後に生じた辺材変色の大きさを調査した.有機溶媒を含むD剤は,ソメイヨシノで500 cm以上,モミジバスズカケノキで100 cm以上,上方まで変色を生じさせた.また,注入孔の高さにおける変色の横断面積は他剤と比べて大きかった.一方,水を溶媒とする3薬剤の中では,注入孔が最も大きく,かつ,薬剤が孔内に残留し易いB剤で変色が最も大きくなり,成分濃度が最も低いA剤で最も小さくなった.しかし,D剤と比べるといずれも非常に僅かな変色に止まった.本研究により,樹幹注入剤による辺材変色は溶媒の影響が大きいことが明らかとなり,樹種によっても変色の大きさに違いがあることが示された.