Tropics
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酉スマトラ州の熱帯林におけるSwintonia schwenkii (ウルシ科) の風散布果実と樹木の空間分布
鈴木 英治甲山 隆司
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1991 年 1 巻 2+3 号 p. 131-142

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抄録

熱帯林で超出木となるSwintonia schwenkii は風散布果実をつくる。この種の地表に落ちた果実と実生を含むすべての個体の位置を調べ,その分布を比較検討した。調査は,インドネシアの西スマトラ州パダン市近郊の熱帯山麓林にある2つの調査区(合計1.86 ha) 内で, 1988 年8月から10月に行った。Swintonia の果実は,湿重が2gあり,花弁が変化した長さ約6 cm,幅1 cmの羽根を5 枚持っているので,林床に落下したものを容易に見つけ出すことができた。
実生から最高樹高61.7 m の超出木までの個体数は572 本であったが,樹高20m から36m の間の個体は存在せず,高木から超出木の階層と, 20m 以下の低木層に分れていた。樹高32m 以上の個体は8 本であったが,そのうち7 本が開花した。20m 以下の個体は開花しなかった。巌のωの指数によって樹高32m 以上の個体と,20m 以下の個体の空間分布を調べると,両者は排他的に分布していた。有為な差はないが, Swintonia 超出木の樹冠の下にはSwintonia の実生と低木が少ない傾向があった。
果実は,未熟果が6175 個,成熟果が2240 個あった。Swintonia の実生や低木の分布とは異なり,果実は親木の近くほど多く,遠ざかるにつれて指数関数的に減少した。親木の根元から50m以上遠くまで到達した果実は稀であった。
調査区の29 %が林冠のギャップで,残りは閉鎖林分にであった。Swintonia の果実は,風散布であっても遠くまでは飛ばないので,ギャップまで到達した果実は少なかった。実生の個体数は閉鎖林分よりギャップに1.1 4 倍多いだけであり, Swintonia 実生の発生と生残にとって,ギャップの存在が必須のものではないようだ。したがって,ギャップまで果実が到達する必要性も少ない。だが閉鎖林分であっても,同種の樹冠下よりも別種の樹冠下のほうが,実生の生存には好適のようだから,羽根によって重力散布の場合よりも親木の直下に落ちる可能性を減少させることは,実生の生残にとって意義があると考えられる。ほかにマレーシア熱帯ではウルシ科のMelanorrhoea とフタバガキ科が,ガクから変化したものであるがSwintonia とよく似た形態と機能を持つ羽根付きの果実をつくる。いずれも高木から超出木になる種群であり,同じような意義があると類推される。

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© 1991 日本熱帯生態学会
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