抄録
西ジャワ州ボゴール市のボゴール植物園内の林床にはダニと特殊な共生関係を結んでいるカドフシアリの1 種, Myrmecinasp.A が生息している。本種の巣の分布,巣間関係(敵対性) .ワーカーの産卵能力について実験,観察を行い,そのコロニー形態について調べた。植物園内に設置した10m × 10mコドラートによる巣の分布調査ではそのコドラート内に分布するアリ巣の約80%がMyrmecina sp. Aの巣であり,本種は局所的には優占種であった。さらにこれら巣群は以下の3 つの理由から多巣化した単一コロニーであることが示唆された。(1)本種ワーカーは他種であるシワアリTetramorillm sp.のワーカーに激しい攻撃行動を行ったのに対し,同種の異巣ワーカーには常に寛容な行動を示し敵対性は低かった。(2)巣の分布は均一ではなくむしろ集中していた。(3)本種のワーカーが同種の他巣に容易に入り込むことが標識再捕法実験によって示された。本種の女王は麹を欠失した無麹形態であるが,このような無麹女王種で多巣性が確認されたのはこれが最初の報告である。さらにまた本種ワーカーは雄卵生産能力が観察されたものの女王存在下では栄養卵のみを生産していた。我々はアリの多巣多女王性進化について,遺伝的,生態的,歴史的要因を考慮した仮説を提示した。種の侵入と局所的優占化に伴う個体群レベルでの瓶首効果,また既存種の生存の妨害が,アリ多巣多女王性進化と維持の要因となっていると思われる