抄録
ナマコは,遅くとも 18世紀から,東南アジアより 清国へさかんに輸出されてきた商品である。植民地期における漁民像を再考するにあたって,中国世界を市場とするナマコやフカヒレなどの海産物の生産と貿易の重要性が指摘されてきた。しかし,ナマコ産業そのものの具体的な様相は ,明らかにされていない。本研究は,東南アジア島嶼部 に「伝統」的であると考えられるナマコ産業に着目して,植民地期から現任にいたるまでの東南アジア社会を描写しようとする作業の端緒として,19世紀から20世紀初頭における流通種と現在の流通種とを比較し,伝統的産業の連続部分と断絶部分を指摘するものである。そして,現行の流通種の特徴を,低価格性にもとめたうえで,高級種から低級種へと捕獲対象が変化したことによって,漁村にどのような変化が生じたかについてパラワン州南部のマンシ島の事例を検討する。