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土壌中の極端な低酸素濃度におけるRhizophora apiculata 実生苗の根系発達
Vipak JINTANA二宮 生夫荻野 和彦
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1992 年 2 巻 1 号 p. 13-22

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抄録
マングロープは高塩分濃度,強酸性,低酸素濃度などのストレスの下に生育している。これらのストレスは互いに密接に関係しマングローブの生長に影響を与えているが,これまでマングローブのストレスに関する研究は高塩分濃度に集中していた。本研究は土壌中の低酸素濃度の影響を明らかにする目的で, Rhizophora apiculata 実生苗を極端な低酸素濃度の土壌と通常の酸素濃度の土壌で栽培し,それぞれの条件下での根系発達を比較した。
2 つの異なる樹齢の幼苗を愛媛大学農学部構内の温室において,直径10.7 cm,深さ42 cm の円筒状のポットに植えつけた。10 個体は胚軸を新しく植えつけ,別の10 個体は植栽後80 日間経過した幼苗である。ポットの縁までホーグランド培養液を満たした土壌に,低酸素濃度条件と高酸素濃度条件を与えるため,各樹齢のポット5 個づつにエアポンプで空気を送った。空気の流入速度は土壌の撹乱を避けるために7 ml s-1 以下に抑えた。他の5 つのポット(2 樹齢グループあわせて10 ポット)は低酸素濃度条件にするために無通気状態に保った。養分溶液は常にポットを満たすように補充した。ポット内の深さ15 cm における溶存酸素濃度を測定したところ,無通気条件では0.6 mg l-1 以下,通気条件で2.2-2.5 mg l-1 を保っていた。各処理区で日中の純光合成速度と葉の水ポテンシャルおよび夜間の暗呼吸速度を1991 年7 月9 日に測定した。実験開始後85日目と115 日目に幼苗を掘り取り現存量を測定した。掘り取った幼苗は丁寧に洗い,主根と側根の数を数えた。根を土壌表面から深さ5cm ごとに分け,直径階別に重量を測定した。根の横断面を顕微鏡で観察し,皮層の細胞および細胞間空隙の断面積を測定した。
無通気条件の栽培では,通気条件に比べて地上部,根とも乾重が減少した。根の乾重の減少割合が5~30% であったのに対し,地上部の減少割合は26~38% であった。しかし両者のT/R 率には有意差は見られなかった。純光合成速度は無通気条件で高い値を示したが,暗呼吸速度には有意差が認められなかった。
無通気条件では通気条件に比べて,側根の数が増加したが,根の全長は短くなった。無通気条件では根が比較的酸素濃度の高い土壌表層付近に多く分布し,直径2mm 以下の細根の占める割合が多くなった。この細根の増加は側根の数の増加と密接に関係している。無通気条件では皮層中の細胞間空隙率が増加した。低酸素濃度条件下で細胞間の空隙率が増加することは,根系への酸素拡散にとって有利にはたらし通気条件では無通気件にくらべて根の伸張速度が速く,根が深くまで貫入した。
以上のように土壌が極端な低酸素濃度におかれるとRhizophora apiculata 実生苗の根および地上部の生長は抑制される。しかし根系発達過程において,比較的酸素濃度の高い表層付近に根を分布させ,側根や細根の割合が増加し,根の全長を短くし,さらに皮層中の細胞間空隙率を増加させ,土壌中の低酸素条件に対する適応を獲得していることがわかった。
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© 1992 日本熱帯生態学会
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