1996 年 6 巻 1+2 号 p. 117-127
バングラデシュの首都ダッカから約100 km 北の旧プラマプトラ¥河支流の自然堤防上に位置する村において,屋敷地の利用に関する調査を実施した。村の平均的な屋敷地は,中庭(ウタン) .裏の薮(ジョンゴル) .および池(プクール)から構成されている。ウタンは調整作業,家事労働および家畜飼養の場であり, 日当たりがよく果樹,野菜,換金性の強い樹木や観賞用植物が植えられていた。ジョンゴルからはタケをはじめとした木材,自家消費用の燃料,食物,繊維,染料等が入手できる。池は水浴,洗濯,時には調理用にその水が利用されていた。近年では収益性の高い養魚が広く行われるようになってきた。また,池の周りは日当たりもよく,ヤシ類や野菜が多く栽培されていた。屋敷地は樹木の主要な生育地であり,雨季には野菜の栽窮地としても重要であった。果樹は積極的に植えられており,食用以外にも木材や用具材など,多目的に利用されていた。野菜はユウガオやフジマメなどツル性作物が多く,屋根や棚などに這わせて栽培されていた。野菜棚の下やジョンゴルの木々の聞にはクワズイモや果樹の苗などが重層的に植えられ,限られた土地の有効利用が図られていた。
村人の聞には,より現金を得るために商品価値の高い植物や屋敷地内に園地を作って単一的な作物を栽培するような動きも見られる。村人の居住空間であるとともに日々の暮らしのための多様な植物資源を提供してきた屋敷地は,村人の生活にとって重要な役割を果たしていた。