Tropics
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シュートフェノ口ジーからみた東アジアの亜熱帯·暖温帯常緑広葉樹林のパターンとその成立
大沢 雅彦新田 都子
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1996 年 6 巻 4 号 p. 317-334

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抄録

熱帯山地林の北限に相当する日本の常緑広葉樹林を構成する樹種は,大きく分けて林冠を構成する亜中形葉のブナ科·クスノキ科などの高木種群と下層を構成する小形葉のヤブコウジ科·ハイノキ科などの低木種群とから構成されている。前者は熱帯山地林のうち樹高の大きい下部山地林を構成する要素であり,後者は樹高の小さい上部山地林の要素である。熱帯山地で異なる垂直分布帯を構成するこれら2 群が北限の日本では同じ森林の階層をすみ分けるかたちで共存するという大変興味深い地理的パターンがみられる。日本に分布するこれら北限の常緑広葉樹はヒサカキ以外はいずれも一回だけ春に落葉(春季落葉)と出葉が同時に起こり,熱帯で普通にみられるような2-3 回の出葉を繰り返すものや,連続的に成長する種はない。季節変化がない熱帯から季節性が強い北限の温帯に向かつてシュートフェノロジーは単純化してしまう。さらに春のシュートの伸長成長を比較すると林冠木は急速で,短期間に終わるが,シュート長は長いのに対して,下層木はゆっくり,長期間成長し,シュート長は短いという違いが見られた。このようなフェノロジーの特性と対応して芽の構造が明らかに異なり,林冠木は鱗片が10-20枚も重なった構造をもつのに対して,下層木の芽鱗は外側が一番大きく, 1-2 枚の鱗片しか見えない。このような特徴的な2群の林冠·下層種群は系統的にも特定の分類群の組み合わせからなり種数のレベルでは高緯度に向かつて貧化していくが,リーフサイズスペクトルでみると常緑広葉樹林の北限まで同じセットが維持され,基本構造は変わらないことがわかる。

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© 1996 日本熱帯生態学会
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