Tropics
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植物地理学的にみたスギ科の歴史と針葉樹落葉⁄常緑広葉樹混交林保護の重要性
西田 治文植村 和彦
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1996 年 6 巻 4 号 p. 413-420

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抄録

9 属の現生属があるスギ科はジュラ紀中期に出現した。白亜紀には世界中に広く分布しており,ジュラ紀以来の絶滅属に加えスギ属とセコイアデンドロン属以外のすべての属が登場した。白亜紀の末期までに,メタセコイア,グリプトストロープス,タクソディウムなど落葉性の属が出現した。第三紀以降スギ科はほとんど北半球の植物になり,温暖な古第三紀には北極圏でも針葉樹広葉樹混交林が発達した。始新世後期から漸新世の急激な気温低下に伴い,北方落葉広葉樹林が南下し,メタセコイアやマツ科のような北方性針葉樹が中緯度地域にまで分布を広げる一方,ヌマスギのような亜熱帯性の樹種は多くの地域で絶滅した。
日本最古のスギ属の記録は秋田の中新世後期からみつかった宮田スギで,現在温帯林を形成しているブナ科,マツ科,カバノキ科,バラ科,カエデ科,ツツジ科などと共存している。鮮新世から第四紀の初期までの聞に,カニンガミア,グリプトストロープス,メタセコイア,セコイア,タイワンスギが日本から絶滅した。同時にイチョウ,アプラスギ(ケテレーリア),イヌカラマツ(シュードラリックス),コンプトニア,フウなど,多くの第三紀要素が姿を消した。主な原因はさらに進んだ気温低下と冬季の乾燥だといわれている。
スギ科は白亜紀以来,湿潤温帯林が継続して維持されてきた地域に残されてきた。スギ属は落葉または常緑広葉樹との混交林に見られる。他の属に比べ広範囲の温度に適応していることがスギ属が日本に広く残されてきた理由のひとつであろう。よく保存された森林は人間を含めた様々な生き物にとっての避難場所である。湿潤温帯林をそれが本来持っている多様性を失うことなく将来にわたり保全して行くことが求められて

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© 1996 日本熱帯生態学会
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