Tropics
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屋久島の経済と自然環境
高橋 良宣
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1996 年 6 巻 4 号 p. 467-477

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抄録

本論文では屋久島の経済の構造的側面を明かにしたい。屋久島における主要経済要因である森林産業に焦点をあてた。日本の他の地域と比較して屋久島には強くて規模の大きい産業がないため,住民は収入源が殆どなく,従って多くの住民が島外に流出している。
このような状況で日本政府は離島振興法を制定し,経済的に離島住民を援助してきたが,屋久島と他との所得格差は依然として縮まらなかった。島の主要産業は林業で,しかも森林の80% は明治の初めに国の所有となった。島民は国が所有する土地を取り戻すために,国を相手に訴訟を起こしたが,長い法廷闘争の後敗訴することになった。規則に従えば島民は生活のために森林資源を自由に利用することができなくなった。千年以上経った屋久杉の伐採は1950 年までは禁止された。しかし,後に政府の森林施業方針が伐採禁止から生産性向上のスローガンの下に伐採推進の方向へ変わり,屋久杉の伐採が始まった。チェーンソーなどの新技術の導入にともなって,伐採量は鰻上りに上昇した。わずか10 年の聞に貴重な屋久杉が大量に伐採された。一方,政府は屋久杉などの自然資源を保護するための政策を打ち出した。島民も森林を全体として保護することの重要性を信じ,その結果が屋久島の森林を世界自然遺産地に登録することにつながった。屋久島は自然でユニークな環境を持っているので日本では熱い注目を集めている。島民が島の自然環境とどのようにして調和を保っているかが多くの人の関心の対象となっているからである。

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© 1996 日本熱帯生態学会
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