1997 年 7 巻 1+2 号 p. 93-103
アリ植物に住みつくアリ以外の生物についての詳細かっ定量的な調査報告はほとんどないが,アリ植物と動物との共生関係を解明するためには,アリ植物内の全動物相の調査が必要である。我々はパプア·ニューギニアのマングローブ林において,着生性アリ植物Hydnophytum moseleyanumの483個体を対象に,その塊茎部の空洞に住みつく全動物相を調査した。その結果,11種のアリに加え39種の動物(昆虫などの節足動物と,ある種のトカゲ)が見いだされた。必ずアリのいる空洞で見つかる種が7種,アリがいる空洞·いない空洞の双方で見つかる種が6種みられたが,その他の全ての種はアリが住みついていない空洞内においてのみ見いだされた。ほとんどの動物種は着生性アリ植物を偏利共生的に利用し,捕食者や乾燥から身を守る隠れ家として使っていると思われる。着生性アリ植物の存在によって,多様で複雑な空間構造が提供され,樹上の動物相の多様性が維持されていると考えられた。