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インドネシア、西スマトラ州における亜山地性熱帯多雨林での強風被害により発生した大量の落葉枝量の分解
米田 健
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1997 年 7 巻 1+2 号 p. 81-92

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抄録
1995年1月と2月に発生した強風により、赤道直下に位置する西スマトラ州パダン周辺の多雨林が広範囲にわたり被害を受けた。被害の程度は、地形と林分構造が大きく関係していたが、ウルガド地区のピナンヒナン固定調査区(PIN)周辺では、1月の強風で強制落葉した林分が各所で観察でき、また2月時にはPIN内に1100m2のギャップが発生した。このギャップでは225 ton ha-1の大量落葉枝が誕生し、幹と太枝からなぞ直径10cm以上の大形枯死材が全体の78%を占めた。リターバッグ実験により、大量落下した葉·小枝起源の微細リターは、強風直後からその重量が分解作用によって急速に減少することを観測した。その減少速度は、微細リター集積量が多いほど高い傾向を示した。
今回の調査結果と、これまでに対象森林で得られた物質循環測度を用いて、強風による大量落葉枝の誕生というパルスが、森林生態系の物質循環にどのような影響を与えるかをモデルを用いて解析した。その結果、養分含有率が高い微細リターの急速な分解が、被害直後から始まる活発な植生回復の、とくに初期段階における栄養塩類源として重要な役割を担っていることが明らかになった。ギャップ地のリターの大半を占める大形枯死材の分解速度は微細リターにくらべ遅く、初期重量の95%が消失するのに要する時間は11年と推定した。リターの構成内容が同じであれば.リター量の多少にかかわらずこの消失時間は一定であった。枯死材リターは栄養分が乏しいため、たとえば窒素の消失時間は基質乾物量のものにくらべかなり遅れる。しかし長期の視点に立てば、徐々に栄養塩を放出する大形枯死材の分解特性は、即効的な肥料効果をもつ微細リターの分解特性と組み合わさることにより、長期にわたり栄養塩を安定して供給することができ、その意味から栄養塩の供給源としても重要な役割をはたしていると評価した。強風起源により発生した大量の大形枯死材が消失するのに要する11年間での炭素収支から、既存のリターを含め100ton ha-1の落葉枝量の誕生が炭素の吸収源になるか発生源になるかの境界値であると推定した。
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© 1997 日本熱帯生態学会
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