可視化情報学会論文集
Online ISSN : 1346-5260
ISSN-L : 1346-5252
浸透圧ショックによる赤血球の膨張解析 -非溶血時の解析-
板東 潔大友 涼子清水 裕加里田渕 春歩
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 40 巻 12 号 p. 23-30

詳細
抄録

 赤血球の健常性,および様々な病変を調べるための臨床診断として浸透圧抵抗試験が幅広く使われている.赤血球に低張液による浸透圧ショックを与え,膨張過程における浸透圧差,圧力差,および膜張力を明らかにし,赤血球の浸透圧抵抗特性のメカニズムを明らかにすることを目的とする.赤血球が溶血を起こさない条件で実験を行ったが,この時浸透圧差は体積変化から求めることができる.赤血球体積については,赤血球単体の形状を顕微鏡観察して求める方法を用いた.一方,浸透圧差は赤血球膜に接する位置での内外浸透圧の差であり,これを精度よく求めるために,赤血球内部と外部領域に対して,溶質の濃度に関する一次元拡散方程式を解く計算を行った.計算から求まった体積と浸透圧差の時間的変化について,実験結果と良い一致を示したが,調整パラメータとしての膜透過率の評価も行った.赤血球が初期の両凹円盤から球形まで膨張する過程では,赤血球内圧の増加は無視できるほど微少であるが,球形のまま膨張する過程では膜張力によるラプラス圧が内部に発生する.そこで,この時の内圧と膜張力の増加を計算した.膜張力は面積膨張弾性率を用いて求めたが,溶血を起こす限界張力を超えず,実験と一致する結果が得られた.さらに,浸透圧ショックを用いた赤血球膜の力学特性の評価法の可能性について検討を行った.

著者関連情報
© 2020 社団法人 可視化情報学会
feedback
Top