本研究は彫刻家細川宗英の表現の特質を,制作者の視座から考察し捉え直すことを目的としている。哲学者木村素衛によれば,造形表現は主体と作品との相即で成り立つ形成的な活動であり,そこでは主題が主体と素材との直接的関係によって支えられている。細川は20世紀における素材との関係の変化と近代ヨーロッパ彫刻を時代背景として,初期の制作を石膏直付け技法で行っており,行為の痕跡としてのテクスチュア表現および量的把握を基点とする造形感覚を培った。後の表現は各シリーズにおいて明確な主題を用いて展開されており,いずれの作品も初期の制作経験による造形感覚と主題解釈とが結びついた形成によって独自の造形的特質を得ている。こうした身体的形成表現によって主題は素材や形象との関わりを通して観念的意味を脱した意味をもち,作品は作家の本質的な主体性を伴った表現として確立している。