美術教育学研究
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  • ―対話型鑑賞研修会における教師の変容事例から―
    青木 善治
    2019 年 51 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    対話型鑑賞の研修会に参加した教師は,鑑賞の魅力を体感し,自分の見方や考え方,感じ方が決して全てではないという当たり前のことにも改めて気づくことができた。これは,教師にとって,子どもを共感的にとらえたり,学習活動を不断に見直し,改善し,子どもと共に創造したりする上で重要な要因である。今回の研修事例が示すように作品を共にみて対話型鑑賞をすることによって,子どもの作品でも鑑賞の魅力を味わい,多様な見方や感じ方を体感することができる。しかも,同一学校に勤務している職員同士でなくとも可能である。鑑賞活動は創造性のみならず新しい意味や見方,感じ方,自己肯定感をも育む魅力的な学習活動であることを示した。

  • 教師の主導性と子どもの自由度に着目して
    秋山 道広, 寺元 幸仁, 初田 隆
    2019 年 51 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,児童・教師・保護者間での児童絵画に対する見方(評価)を比較検討することによって,今日の絵画教育の問題点や課題の鮮明化を試みた。まず,児童画作品を教師対象の予備調査によって,「指導過剰」「テーマのみの提示」「主たる技術のみの提示」「子どもの自由度の保証」の4つに類型化し,その妥当性を確認した。類型毎に特徴的な作品を選び調査を行ったところ,教師の主導的な指導による完成度の高い作品が,教師と保護者に支持されていることが分かった。とりわけ指導経験が浅く,指導に自信がない教師にその傾向が強く,子どもの支持する絵との開きが見られた。子どもは「完成度」に価値を認めておらず,「作品のイメージ」や,「製作の自由度」に共感を示している。「完成度」の高さを目指すのではなく,技法体験や子どもの自由度が保証された題材に,今後の授業改善への視座を得ることができた。

  • ―プラハ公立小学校での授業「二つのメロディー」を中心に―
    家﨑 萌
    2019 年 51 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,チェコ共和国プラハのドゥホヴァー小学校において,カレル大学教育学部の教員と実施した共同授業の記録,分析,考察からなる。中でも音楽をテーマに設定した造形活動「二つのメロディー」を中心に取り上げ,美術教育,異文化交流の視点から省察する。チェコと日本で同テーマの授業を実施し,プラハで日本の児童作品の鑑賞活動を行った。表現活動では,音楽と一体化するように描く「ドローイング」と音楽全体の印象を表す「色紙構成」の二つの活動を設定した。ドローイングでは場や用具等の設定,身体的な活動が児童の心身をオープンにする導入に適していたこと,色紙構成では三つの作品例から,異文化と向き合ったチェコの児童がとまどいながらも自身の表現を発展できたこと,両国の学校事情,授業方法等の違いを超えて直感的に取り組めるテーマである音楽を通した造形活動の有効性等が明らかになった。

  • 地域芸術論としての側面を中心に
    市川 寛也
    2019 年 51 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,宮澤賢治が1926年に記したとされる「農民藝術概論綱要」で示された「農民藝術」という概念の現代的解釈を試みることを目的とするものである。「職業藝術家は一度亡びねばならぬ」という挑発的なフレーズを含め,生活全体を「四次元」の芸術として成立させようとしたこの芸術論は,抽象度が高いために読み手に応じて多種多様な解釈が加えられる「開かれたテキスト」としての側面を有している。本稿では,1920年代の農民文芸や農民美術等を巡る議論を踏まえ,これを「農民」に限定した芸術論として捉えるのではなく,生活と芸術との統合を志向する理念として位置づけた。また,戦後の宮澤賢治の再評価に関する言説を検討し,時代毎の解釈の変遷を辿った。結論として,かつての「農民」と現代社会における「市民」とを対比させつつ,今日の地域芸術論との接続を検討した。

  • Caroline Prattの史的研究における一考察として
    伊東 一誉
    2019 年 51 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    ニューヨーク市において「美術経験を中心とした学習」を重視するPrattの教育観を実践してきたCity and Country Schoolでは,従来の実験的な性格からの方向転換を余儀なくされている。例えば,教育成果の提示や明確な学校組織の形成,カリキュラムの固定化が推進されたが,この背景にはニューヨーク市周辺の教育的動向や保護者のニーズが関わっていた。本稿では,C&Cにおける90年代以降から近年までの変化を,学校内と対外的な取り組みの2点から取り上げ,時代的要求をふまえた考察を試みた。特にCaroline Prattの教育哲学に対する再評価の動向に,C&Cの実験校としての新たな役割が生まれている。第一に研究視点の変化による役割であり,第二に美術教育の意義の解明,という役割である。Prattの教育観の史的・反省的考察は,美術本来の教育力を問い直し,教育的意義の考察につながっている。

  • 西ボヘミア大学デザイン美術学部でのワークショップ
    稲垣 立男
    2019 年 51 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    2018年7月にチェコ共和国ピルゼンの西ボヘミア大学Ladislav Sutnarデザイン美術学部において,夏期講習会「ArtCamp」が行われた。筆者は同講習会に招聘され,7月23日から7月27日の期間に講座「Bunjin-ga as a conceptual art practice」を開講した。この講座では,18世紀および19世紀の日本美術の流派である文人画と20世紀に登場したコンセプチュアル・アートをモティーフに,講義を含む様々なワークショップを実施した。文人画の特徴である「批判主義」,「アマチュアリズム」を踏まえ,またコンセプチュアル・アートのアイディアやコンセプトの抽出との関連性を探ることにより,これらを受講生自身の制作に繋ぐことを目標としている。本稿では,この講座の意義について述べるとともに,準備過程および実践についての記録を示し,各ワークショップの実施結果について考察する。

  • ―「初等図画工作」授業実践を基に―
    井ノ口 和子
    2019 年 51 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    初等教員養成課程における図画工作に関する科目の授業改善は,美術(図画工作)科教育における重要な課題である。本研究の目的は,「初等図画工作I」における実践を分析し,学生の「図工観」の転換をさせるための有効な教育内容について考察することである。実践事例と学生に実施したアンケート調査の分析と考察から,「単に絵(作品)を描く(つくる)」と考えていた学生の「図工観」が,「つくる(描く)・見る・認める・高め合う」など図画工作の学びにつながるものへと変容し,否定的な「図工観」から肯定的なものへの転換が認められた。この「図工観」の転換を促したのは,授業で実感した「造形活動の楽しさ」であると考えられる。その「楽しさ」の要因の一つとして,友だちとの関わりの中での多様な「鑑賞活動と造形活動」があることを明らかにした。実践事例の分析・考察を重ね,教師の支援や学習環境などの具体的な教育場面についての考察が課題である。

  • ストレスコントロール力に着目して
    内田 裕子
    2019 年 51 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,教科教育学がその存在の裏付けとして来た教育学研究科の改組が進んでいる。これに関連して,図画工作科及び美術科教育の意義を再検討する必要が生じ,各所で研究会や検討会が開催されている。こうした状況を承け,本研究では,図画工作科及び美術科教育の意義を考えるため,学習指導要領において学習の目的とされている「生きる力」に関して,図画工作科及び美術科教育が育む能力について考察を試みた。具体的には,図画工作科及び美術科教育が育むと考えられる「生きる力」のうち,特に,現代のストレスフルな社会において自立するために必要な能力であるストレスコントロール力に着目し,ストレスコントロール力を発揮する「趣味〔taste/hobby〕」に焦点を当て,「趣味」について修得するための図画工作科及び美術科における教育内容及び方法について考察を行った。

  • 浦崎 渉, 隅 敦
    2019 年 51 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    模倣は児童にとって当たり前の活動であり,学習の一つの過程である。しかし,「真似る=絵が苦手な子供」という見方をもっている教育者もいる。そのような模倣する子供像の打破が,子供たちのさらなる創造へとつながるのではないだろうか。本研究では,普段の授業で発生した児童の模倣行動を質的に分析し,そのきっかけや製作の変化,どのように学びにつながっているのかという視点から模倣の意味を明らかにし,教師がどのように関わるべきかを考察しようとした。その結果,製作に行き詰まった状況を模倣することによって乗り越えている様子が多数確認された。また,模倣したことが題材の評価の観点に結びついている事例が39/97事例抽出でき,「発想」につながる模倣は言葉やイメージが対象となるものが多いことや,「技能」に結びつく模倣は教師の「指示」や「示範」がきっかけとなっていることが明らかとなった。教師の関わりのうち「提示」や「同意」は児童同士の模倣を促す働きがあることがわかった。

  • 額尓敦 , 初田 隆
    2019 年 51 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    「リサイクル工作」が果たして子どもの環境意識を高めるうえでどれほどの効果があるのか,廃品(不用品・不要品)を用いた工作を行うだけで,「リサイクル」に貢献しているのだといった安易な考え方が,「リサイクル工作」の可能性を閉ざしているのではないかといった問題意識から,本稿では,「リサイクル工作」のタイプや考え方を整理するとともに,歴史的な変遷や,アンケートに基づく現状の把握などを通して,リサイクル工作の意義と課題を改めて捉え直し,感性的側面から環境意識を高めるための「リサイクル工作」の可能性について,プログラムの開発及び試行実践を通して考察した。ものとの関わりやものへの愛着,ものに宿る神性,経年変化の美しさやブリコラージュの視点などを重視したプログラムの重要性を確認することができた。

  • ―造形教育科目での学生の学び―
    大西 洋史
    2019 年 51 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    現在の大学教育において,学生が体験を通して自らアカデミックな深い学びへと歩みを進めていくためには,体験から学んだことをどう言語化していくかが重要となる。また,学生が自ら意欲的に学び成長していくためには,能動的な学修への参加を取り入れた教育手法と学生による自己評価が有効な方法となる。本研究では,大学での造形教育科目として2018年度前期に実施した「図画工作科I」を取り上げ,学生が記述した「学修のまとめ」をテキストデータ化して統計的な分析を試みた。テキストマイニングによる統計分析の結果からは,シラバスの目標を達成していることや小学校学習指導要領における図画工作科の目標に則した学びの成果が確認できた。また,学修を総括的に言語化する上での課題が明らかになるとともに,学生が自ら作成したeポートフォリオでの振り返りが教育手法として有効に活用できる可能性を示した。

  • 大平 修也, 松本 健義
    2019 年 51 巻 1 号 p. 89-96
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,生活の場との関係をつくり変える造形活動を通して子どもの協働性が変化していく過程を明らかにし,子どもの見方,感じ方,考え方,ふるまい方の共感的形成過程を示すことを目的とする。学級が年間を通じて日常的に関わる校内の場所「私たちの水辺」で,活動を共にする3名が水辺の木陰に“くつろぎの居場所”を協働形成する活動を契機に他のグループへ活動が拡張し「私たちの水辺」が更新される事例を相互行為分析した。生活の場との関係をつくり変える造形活動を媒介とした協働性と共感性の形成過程について,正統的周辺参加,身体の現象学,癒合的社会性の知見から明らかにした。居場所をつくり出す活動の協働性の変化の過程では主体的に協働するアイデンティティの形成と個々人の社会的な共感性の形成が明らかとなった。共感性は子どもの生活の場への浸透を通して学級全体の共感的相互関係を形成することを示した。

  • ―アムステルダム国立美術館の『マグダラのマリア』のアトリビュートから―
    大村 雅章, 江藤 望
    2019 年 51 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は前回に続き,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。ルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法として,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグダラのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。特にアトリビュートである香油壺の表現は圧巻である。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行うなかで,前回は石膏盛り上げ技法に用いられた材料の同定を目的に実験を行った。その結果,パステーリャという材料が使われていたと結論付けた。今回は材料をどのように成形したのか,その方法について実験実証を行い,どのような材料でどのように盛り上げを施したのか,クリヴェッリの技法解明の謎に迫った。

  • ―実践事例から考える子どもの美的経験―
    小笠原 文
    2019 年 51 巻 1 号 p. 105-111
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    フランスにおいては,芸術のもつ教育的な潜在力によって学習システムを再構築するという試みが加速している。現在フランスにおける子どもの芸術活動では,芸術家(あるいは芸術)の自律性が最も重要視されているが,本稿では実践事例をもとに,芸術活動という経験を通して子どもの内面に生起する変容に着目する。その上で,子どもたちにとっての美的経験および,その美的経験をもたらす芸術家について考察を行うものである。芸術活動は常に自己の内面に問いかけ自分と折り合う全体的な統一体を構築し,内面の調和の確立,美的経験をすることに意義がある。芸術家のもつ内面性は,子どもの自発的な追求に対し,受容と独特の聴取を可能にするものであり,芸術家は外面的なことではなく,子どもの内面的な人格との対話者なのである。いわば,参与アーティストの立場は「純粋な贈与者」としての教師であると考えられる。

  • ―集団肖像画の読解的鑑賞の一局面(形式的分析,知識補塡[情報提供],補充課題を中心に)―
    岡田 匡史
    2019 年 51 巻 1 号 p. 113-120
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は連稿後篇となる。前稿でレンブラント「夜警」読解に際し,7段階・15項目で成る鑑賞学習プログラムを提起し,第1・3段階(観察,解釈)を論じたが,本稿では第2・4・7段階(形式的分析,知識補塡[情報提供],補充課題)を扱った。第5・6段階(再解釈,判断&評価)は別の機会に譲る。第2段階で油絵の具の賦彩特性と画面構成上の特質を挙げ,形式的状態に主題把握に通ずる道筋が潜む点に言及した。第4段階の主要論題は,美術史的背景,図像学的特徴,エピソードとした。美術史学習の進め方に関し,藤井聡子・梶木尚美による歴史学習と絵画鑑賞を連結する教科横断型授業実践を参照した。図像学的観点から「夜警」を解す試みや,補助的だが時に主題に直結しもするエピソードの機能も論じた。第7段階(補充課題)では,東西比較,絵を聴く,自画像捜し,ロールプレイ,脱整列型記念写真撮影を概説し,本稿を締め括った。

  • ―絹の天然染色を起点にして―
    筧 有子
    2019 年 51 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,絵画技法と染色技法の共通項として,日本画の模写での一技法である絵絹に天然染色を施す「矢車染め」に着目し,それを応用することで,絵画技法として制作に生かすことを目的としている。まず天然染料をめぐる情報を整理し,この技法を使用した制作実践を通して絵画における応用の可能性を探った。その結果,支持体を絹とした時に,天然染色で色材を浸透させて下地及び描画を行うことは,技術的に可能であると結論付けることができた。この技法は透明度が高く,表面テクスチャーを生かせること,顔料との併用によってマチエールの組み合わせが可能であることがわかった。この浸透型技法のにじみについては,先媒染を行って乾燥までに一気に描き上げるなどの一定の条件が必要である。研究の過程では,染織と絵画の領域による「防染」と「描く」という制作概念の相違について考えるに至った。

  • 香月 欣浩
    2019 年 51 巻 1 号 p. 129-136
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,支援者の態度が子どもの造形活動に与える影響を明らかにすることである。造形活動の現場で子どもたちを夢中にさせる支援者(保育士と教育者などの大人)が存在する。しかしそんな支援者のことを「ベテラン」と呼び,別格視し,その理由も深く考えずあきらめてしまう支援者がいることは大変残念なことだ。支援者の態度が子どもの造形活動に与える影響が明らかになれば,支援者がベテランか否かを問わず,誰もが望ましい支援を実践する契機になると考えた。そこで本稿では,幼児から大学生までの幅広い4つの造形活動を取りあげ,動画記録から書き起こした発話記録と授業後に取った感想文から事例の分析・考察を行なった。その結果,支援者の態度が子どもの造形活動に影響を与えることが確認できた。さらに活動の目的を踏まえた考察が今後の課題である。

  • 大学美術教育の現場を対象とした調査報告書を中心に
    加藤 隆之
    2019 年 51 巻 1 号 p. 137-144
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,テンペラ絵具と油絵具を用いた混合技法に関して,大学美術教育の現場を対象とした継承状況と実践内容を明らかにすることである。美術系大学,美術系短期大学および短期大学部,そして教員養成系大学の絵画を担当する教員を対象に,混合技法の授業開設の有無とその内容等のアンケート調査をおこなった。調査の結果,回答のあった大学の約6割で混合技法の授業が開設されていることがわかった。その指導内容については,基本的な材料の処方が多かったのに対して配合比率は多様であった。さらに,技術的な面でも幅広いテンペラ絵具の用い方が指導されていた。1970年代からの西洋絵画技法への需要にのって普及した混合技法は,絵画学習における一つの手段として認知される一方で,技術的な理由と表現の多様性の中で,授業開設の必要性に明暗が分かれている現状が明らかとなった。

  • ―「図案」の場合―
    亀澤 朋恵
    2019 年 51 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,「文部省師範学校中学校高等女学校教員検定試験」(通称「文検」)の「図画科」(以下,「文検図画科」と略称する)の「図案」の試験問題の分析を行い,戦前期の中等図画教員にどのような「図案」の力量が求められていたのかを検討する。試験問題の分析は出題者であった検定委員との関連,中等教育現場を規定した教授要目との関連から行い,受験体験記の記述にみられる受験勉強や試験の実態を補足してその特質を検証した。その結果,検定委員との関連については,委員の交代とともに出題に変化がみられ,両者の関連が確認できた。教授要目との関連については,基本的には教授要目に即した内容であり,予備試験と本試験の出題構成には一定の系統性もあった。試験では,当時における「図案」教育の標準的とされた知識や技能を踏まえながら,創意工夫の力量が問われた。

  • ―中学生・大学生・教諭を対象とした観察法の実践を通して―
    川原﨑 知洋
    2019 年 51 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,プロダクトデザインの題材について,人間中心設計(HCD)手法の1つである観察法の導入の可能性について検討した。まず,中学校美術科のデザイン領域におけるプロダクトデザインの題材が定着していない理由について,デザイン教育の歴史を概観することで明らかにし,プロダクトデザインの題材開発の必要性について確認した。次に,村田智明のデザインの定義を根拠に,デザイン教育によって子どもたちに付けさせたい資質・能力を,日常生活の中にある目に見えない問題を発見する「問題発見力」であると規定した。観察法による学習経験が,問題発見力を育成するのに効果的であると仮説を立て,中学生・大学生・教諭を対象とした観察法を用いた実践を分析し,本研究における仮説の妥当性について考察した。その結果,問題発見力の中でも特に「価値発見力」の向上に着目することが今後のデザイン教育において重要であると措定した。

  • ―ATLスキル(Approaches to Learning skills)の理論を中心に―
    小池 研二
    2019 年 51 巻 1 号 p. 161-168
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    国際バカロレアのATLスキルは「学び方を学ぶ」ために設定された汎用的スキルで,中等教育プログラムでは5つのカテゴリーと10のクラスターが示されている。世界各国ではコンピテンシーベースの学習が主流となっており,各種のスキルも示されている。本論ではCCRとATC21Sに示されたスキルと,ATLスキルを比較した。その結果,各システムの目的の違いから分類の仕方や位置づけは異なるものの,それぞれのスキルについては大きな違いはないことが確認できた。また,ATLスキルについて,美術の授業を通して生徒はどのように感じているのかを調査したところ,コミュニケーションスキルや振り返りのスキルなど,実際に普段の学習で扱われているスキルについては多くの生徒が伸びたと感じていることがわかった。ATLスキルなど具体的なスキルを示すことは,資質・能力の育成を明確にした次期学習指導要領にも十分参考になることが考えられる。

  • 小林 俊介
    2019 年 51 巻 1 号 p. 169-176
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,保育における子どもの造形的な製作活動が,子どもの発話や非認知的能力の伸長を促すことを実践的に明らかにすることにある。方法としては,子どもの製作活動の質や創造性と,それによって促される発話や非認知的能力(安心,主体性,共同性,興味)の発達との相関を分析し,チャートによってその結果を可視化した。その結果,質の高い製作活動を促すことが,子どもの発話や非認知的能力の発達にとって有効であることを明らかにした。質の高い製作活動は,見立てや工夫,試行錯誤といった創造的行為を内包するとともに,発話や非認知的能力の発達につながる行為を促している。子どもの製作活動における創造性と非認知的能力の伸長を架橋するのはイメージの力であり,保育者は製作活動を促進するイメージを子どもたちが形成し,共有していくよう支援する必要がある。

  • ―彫刻家安藤榮作と高校生との交流の場を創る教育実践を通して―
    西丸 純子
    2019 年 51 巻 1 号 p. 177-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,鑑賞活動における言語と身体的経験の関わりについて,国語教師村上通哉の取り組みの検証を踏まえ,作家の本質的主題理解にまで深まる鑑賞構造を成立させた四つの対話構造i)文章や直筆,絵画を感じ取り自らの思いを伝え合う対話構造,ii)作家と鑑賞者の視点を重ね追体験する対話構造,iii)作家の直接的な身体性が鑑賞者側に浸透する対話構造,iv)対象と同化した自己を省察する対話構造を組み込んだ鑑賞活動を実践し,いかなる対話が介在したかを明らかするものである。彫刻家安藤榮作の協力を得て,i)~iv)の対話構造と同様の要素を組み込んだ鑑賞活動を設定した。検証の結果,日常生活の中で素材と出会い,他者や環境と関わり,作品に変えていく行為の中で,造形行為をとおして世界と繋がっていく作家自身の人間形成の過程を生徒に敷き写すことの重要さを確認できた。

  • ―〈私〉を創造する美術への基礎考察―
    佐々木 昌夫
    2019 年 51 巻 1 号 p. 185-192
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,決して自分の思いどおりにならない,〈私〉とは他なる性質を〈他性〉と呼ぶことにし,ドイツの現代美術家ヨーゼフ・ボイスの個々の作品に見る〈他性〉について検討する。ボイスは,戦争体験での死という〈他性〉と向き合いながら,作品制作をとおして,戦後の美術家としての〈私〉(ボイス自身)を創造したのだと考えられる。この〈私〉の創造ということは,ボイスが提唱した,作品制作にとどまらない「拡張された芸術概念」の範囲に,含まれるのである。一方,現代日本の平穏無事な日常では〈他性〉は見えにくく,日常を疑うことにより,〈他性〉の現前を探究しなければならない。それ故共同体を疑うことによって,芸術が成立する場所に立ち,そこで〈他性〉と向き合い〈私〉を創造することが,美術の働きであることを探る。そのことはまた,現代における美術の新しい位置づけへとつながる可能性を示している。

  • 武田 信吾
    2019 年 51 巻 1 号 p. 193-200
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,異年齢ペアによるこどもの造形活動を,視線分析を用いて調査する。主な目的は,他者観察と,そこで得られた情報を活用する状況を把握することである。また,年齢の違いにより,それらの状況が異なるかどうかを検討する。分析データを得るために,被験者は,視線を向けた部位を捉えることができるアイトラッカーを装着した。データは行動コーディングシステムによって処理し,相手への注視時間とその時間帯を計算した。以下の結果は,幼児(約5歳,7名)と児童(約8歳,7名)によるものである。幼児と児童は,同じテーブルの上で,それぞれが粘土を用いながら造形活動を行った。全体的に幼児は児童を見ていたが,児童側は二極化した。初期段階では,ほとんどの幼児は児童の行動を模倣する行動をとったが,その逆は確認されなかった。以上により,幼児と児童では,他者観察の状況が異なると推測される。

  • ―1980年代から90年代にかけての事例から―
    多胡 宏
    2019 年 51 巻 1 号 p. 201-208
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    盲学校の子供達が制作した作品は,高い評価を得てきた。しかし,教育課程や教材,指導・支援の工夫などの検証については,十分と言えない。特に盲児にとって有効な教科書や指導資料集,事例などの参考書などがなく,各盲学校に任されている。本研究では1980年代から90年代にかけての神戸市盲,沖縄盲,千葉盲,群馬盲の実践とギャラリーTOMの活動を作品集などの資料を基に変遷をたどった。具体的な事例を基に,どのような表現活動があったのかを検証した。盲学校教育はインクルーシブ教育という理念の変更という課題を引き受けるだけでなく,在籍数の減少と教員の専門性の維持・継承という大きな課題に直面している。盲学校の美術教育の今後の在り方について早急な検討が必要であり,表現においては彫刻や絵画という枠にとらわれず目標達成のための手立てを含めた検討が必要である。

  • ―中学3年生における実践を踏まえて―
    立原 慶一
    2019 年 51 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本題材実践の第一段階の鑑賞では彼らに感性的な抵抗感をもたらした。だが,作品に慣れ親しんでそれに倣う制作を行う第二段階では,感性が美術活動における主役の座を知覚や知性から奪い取るまでになっている。生徒はそこでどのようなイメージで制作に取り組んだのか。主題意識が美的特性から成ることによって制作の性格は情意体験的なのか,それとも非美的な知覚的特性や概念的特性から成ることによって制作は非情意体験的なのか,を明らかにした。美的特性1回感受組や0回感受組など能力低位者にとって,当初における作品の主題把握が情意体験とかけ離れている場合,生徒はカンディンスキーの造形法から直線や曲線,円,半円,円弧などのもつ情意的表現性と,画面の領帯性を素直に学ぶことによって,制作の性格が幸運にも情意体験によって塗り上げられたことを確かめた。

  • ―デザインパテントコンテストを事例にして―
    田中 隆充
    2019 年 51 巻 1 号 p. 217-224
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    学生が意匠権の取得までの手続を実体験することが出来るデザインパテントコンテストを授業に取り入れ,デザイン系大学ではない美術・デザイン教育における知的財産教育のあり方を考察した。本稿では,①新規性の高い物品の発想・思考,②コンセプトの生成,③特許情報プラットフォームによる先行調査,④製図の4項目のプロセスを授業で進め項目ごとに考察している。プロセスの初期段階である発想やコンセプト生成では多くの思考が認められた。また,先行調査では類似であるか否かを判断していることから,個々のデザインの特徴を自ら理解していると考える。しかし,意匠出願書類で記載しなければならない製図による表現では,定められた表現方法が要求され,学生がイメージをするデザインを示すために多くの時間を要し,学生の苦手意識が強いことが分かり,今後,デザイン系大学とは異なる授業方法の取組の工夫の必要性があると考えた。

  • 直江 俊雄
    2019 年 51 巻 1 号 p. 225-232
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    英国において学校の実績を評価する指標として2010年から導入されたイングリッシュ・バカロレアは,中等教育修了一般資格試験における生徒の達成度を,英語,数学,歴史または地理,理科,言語,の5つの科目で評価するものであり,学校における美術学習の機会削減につながるのではないかとの懸念が広がっている。本論文では,制度改革の経緯を検討し,英国で実施された3つの調査結果を比較するとともに,1994年から2017年にかけての学校現地調査の結果を踏まえて,5科目を重視したこの教育改革が美術教育に与える意味について明らかにした。美術教育の価値が教科間の自由競争原理の中で試されようとしている英国の現状をとらえることは,美術教育が社会に対してどのようにその役割を主張し,その存立と拡充を図るかという本質的な課題に対して,比較教育の観点から考察の機会を与えるものである。

  • 永江 智尚
    2019 年 51 巻 1 号 p. 233-240
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,中高美術科教員養成での人物モデルを用いた彫刻教育において,造形要素に関わる説明力を向上させるために改善したレポート課題の効果について,検証することを目的とした。なお,改善したレポート課題の主な特徴は,「実習での学びを実習毎に振り返ることができる」「思いや考えを段階的にまとめることができる」「提出したレポートを他の実習参加者と相互に閲覧できる」であった。改善したレポート課題の効果の検証については,彫刻実習に参加した愛知教育大学の学生を対象としたアンケート調査によって行った。また,アンケート調査の分析においては,平均値と標準偏差の比較,およびt検定を用いることとした。分析結果から,本研究で用いたレポート課題は,造形要素に関わる知識理解,造形要素に関わる説明力,観察力の向上に効果的であることが明らかとなった。

  • ―フェルメール《青衣の女》を通して―
    新関 伸也, 村田 透
    2019 年 51 巻 1 号 p. 241-248
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,美術鑑賞ルーブリックの有効性や妥当性について,小学校図画工作科の授業を通して検証し,それらの考察に基づいて鑑賞学習の授業改善に資すること目的とした。実践検証の1回目として美術鑑賞ルーブリックに基づく作品鑑賞の題材開発と実践を研究協力者に依頼し,筆者らはその実践記録やワークシートから分析と考察を行った。第1回目の検証授業は,小学校5年生のクラスで,フェルメール作の油彩画《青衣の女》を対象とした鑑賞題材である。これらの分析の結果,教師のねらいや発問,児童の応答が明瞭となり,また授業の計画と内容の比較が容易となるなど,改善の具体的な示唆を得ることができた。具体的には「題材目標や鑑賞対象の設定」「発問の構造的な設定」に有効であり,題材目標に即した「授業計画の設定」「構造的な発問の設定」「ワークシートの設計」での授業改善の方向性が明らかになった。

  • ―大正11年における北海タイムス社の取り組み―
    根山 梓
    2019 年 51 巻 1 号 p. 249-256
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,現在の北海道新聞社の前身である北海タイムス社が発行した『北海タイムス』に掲載された記事に基づき,大正11年(1922)における同社による自由画教育に関する取り組みを明らかにするものである。北海タイムス社で美術部員であった澤枝重雄は,大正11年2月,紙上で二回目の「自由画私見」を発表した。その目的は,小学校教員に自由画について知らせ,北海タイムス社の主催による二回目の自由画展覧会を成功させることにあった。大正11年,北海タイムス社は公募型の自由画展覧会を主催したほか,当時東京女子高等師範学校で図画科を担当していた岡田秀を講師とする講演会の開催を後援した。余市町にて町内の北海タイムス販売店が主催した自由画展覧会は,北海タイムス社の図画教育に関する取り組みが地方に与えた影響の表れと捉えることができる。そこで澤枝は応募作品の審査を担当し,会場で自由画に関する講演を行った。

  • ―ドローイングを手立てとして―
    野村 亮太, 有原 穂波, 小澤 基弘
    2019 年 51 巻 1 号 p. 257-264
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    図工の授業では,子どもたちの多様な作品から創作の意図や表現の工夫を読み取り,指導することが教師には求められる。本研究では,図工科の教師力育成のための研修を開発し,2名の小学校教員に4か月間で12回のプログラムに参加してもらった。研修では,教員が自身の表現に気づき,実感することを目的に,自由な創作の手段としてドローイングを主にした創作活動を行った。期間中の縦断的な調査の結果,普段から絵を描いていたA教諭は,「取り組みの困難さ」は初め低かったが,課題を見つけ徐々に上昇していった。一方,表現への抵抗感があったB教諭は,「予期せぬ発見」を体験しながらも,「自分の表現の問題点」を見出すことが徐々に難しくなった。本研修プログラムは,いずれの教員に対しても,自分の表現の捉え方を初期状態から揺り動かし,新たな状態へと移行するきっかけを作ったことが示唆される。

  • ―3歳児の「魚釣りに行こう」での活動分析を通して―
    橋本 忠和
    2019 年 51 巻 1 号 p. 265-272
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,社会情動的スキルを幼児期に身につけることが社会進歩の指標に好影響を及ぼすという理由で注目されている。

     本研究では,主体的な「つくる行為」が展開される「ごっこ遊び」に着目し,そこでの造形表現活動が幼児の社会情動的スキルを育む上で,どのような有効性を有しているのか考察し明らかにすることを目的としている。その研究手法としては,まず先行研究や函館地区の教師と幼稚園保護者を対象にしたアンケート等から社会情動的スキル育成と「ごっこ遊び」の現状と課題点を抽出した。そして,その結果と「社会性と情動の学習の社会的能力」や「社会的情動処理モデル」等を観点に3歳児の活動事例を分析し,造形表現活動と社会情動的スキルとの接点を検証した。すると「ごっこ遊び」の造形表現活動が幼児の「基礎的社会的能力」等を育成する可能性を見出すことができた。

  • ―博労小学校所蔵資料及び図画作品の分析を中心に―
    蜂谷 昌之
    2019 年 51 巻 1 号 p. 273-280
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,高岡市立博労小学校に所蔵される昭和40年代から50年代に制作された約4,100点の図画作品を手掛かりに,一地方の学校における図画教育実践の検証を試みたものである。はじめに,昭和中期から後期にかけての図画教育の状況をふまえ,同校の学校関係資料等を参考に図画教育の指導体制や使用教科書,教育活動等に関する調査を行った。それをふまえて,昭和40年代から50年代にかけて制作された作品内容や表現方法を分析し,当時の図画教育実践について考察した。調査の結果,同校所蔵作品には風景画や人物画,静物画などが含まれており,木版画が流行したことや未来都市や物語絵などの新たなテーマが出現し,図画題材の多様化を確認することができた。また,当時,同校では卒業作品を授業や職員研修で活用しており,図画教育の教材として重要な役割を果たしていたことがわかった。

  • 質的成長を促す背景と2018年のプログラムの検証を通して
    濱口 由美, 髙野 牧子
    2019 年 51 巻 1 号 p. 281-288
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,レッジョ・エミリア市のreggionarraを市民表現教育プロジェクトとして捉え,その質的成長を促す背景となる「参加」や「語りのアプローチ」について,乳幼児教育とつながりのある観点から整理と検討を行った。乳幼児教育が中心であった「参加」や「語りのアプローチ」の対象が,保護者の意識変化やレッジョ・エミリア市の教育行政改革によって,生涯教育を意識したものへと変容していることを考察した。また,市民表現教育プログラムの質的成長を目指し,どのような「語り」の場が提案されているのかについて,2018年に実施された3つのプログラムを検証した。その結果,視覚障害の壁を超えて伝え合うお話づくりの場,移民の高校生たちの居場所をつくる語りの場,地域の課題を共有するためのお話づくりの場などが,造形の言葉などを活用しながら提案されていることを明らかにした。

  • 細野 泰久
    2019 年 51 巻 1 号 p. 289-296
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    キューバのアーティスト,タニア・ブルゲラは,10年ほど前から自らの実践を「アルテ・ウティル(Useful Art)」と呼び,各地の美術館と連携してプロジェクトを進めている。Useful Artは,現実の社会のなかで作動すること,緊急性のある社会的な課題へ対応すること,参加者一人ひとりに有益な結果をもたらすこと,アーティストはプロジェクトを始めるが運営は参加者に引き継がれ,持続可能性をめざすことなどの特徴がある。このようなアートのあり方は,学校を飛び出して現実の社会の中で学びその力を活かす「社会に開かれた教育課程」を実施する日本の教育に示唆をもたらす。また,ソーシャル・プラクティスのアーティストが試みるコミュニティ結合は,シティズンシップ教育の重要な課題である。アートの試みは,青少年に既存の社会への適応を促す「社会化」ではなく,公共の問題に対する民主的な参加の文化を養う「主体化」をめざすものである。

  • ―川崎市市民ミュージアムにおける「アートツール・キャラバン」の実践から―
    前沢 知子, 大泉 義一
    2019 年 51 巻 1 号 p. 297-304
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,造形ワークショップ・プロジェクト『アートツール・キャラバン』(以下ATC)を対象にして,造形ワークショップにおいて構築される子供と多様な立場の大人による「重層的な関係」の構造原理を分析し,その参画の意味を明らかにすることで,子育て支援の一手段としての造形ワークショップの妥当性を検討するものである。本研究では,「仮説生成型研究」の手法を用いて,3つの実践について「企画・実践・分析」を通して検討を行う。本稿では,実践1を対象にして,仮説として設定した「重層的な関係」における各主体の関係を明らかにする。参加者に対する質問紙調査における感想から,関係性にかかわる記述内容を抽出し,「重層的な関係」における各主体間の関係を解釈・分析した。その結果,仮説として掲げた「重層的な関係」とは,各主体の相互関係性によって生起しているという考察に至った。

  • 町田 由徳
    2019 年 51 巻 1 号 p. 305-312
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    色光と色光を混ぜ合わせて新たな色を作り出す「加法混色」の原理は,色料と色料を重ね合わせる「減法混色」と比較した場合に体感的にその原理を理解することが困難である。そこで本研究では3D CADソフトウェアの機能を活用し,色光の三原色であるR,G,B三色をそれぞれx,y,z軸に置き換えた3Dのカラーキューブをモデリングし,その中にRGB値で着色した球体モデルを配置して,その色味や色相毎のカラーキューブ上での分布の偏差を観測することにより,加法混色の原理と結果をわかりやすく示す試みを行った。このプロセスを体験した被験者の記述から,文章のみの教材から論理的に加法混色の原理を学習した場合よりも,加法混色の原理や色相毎に含まれる三原色の成分について理解がしやすくなることが示唆された。また副次的な効果として,被験者の色彩認識の傾向を掴むことにも有用であることが示唆された。

  • 松浦 藍
    2019 年 51 巻 1 号 p. 313-320
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,色彩の感情効果を学ぶ活動(以下,色彩感情効果学習と表記)が,その後の生徒の表現活動に与える影響を検討するものである。影響の調査のために,色彩感情効果学習を経験した生徒と,経験していない生徒に,有彩色(絵の具)を用いた着彩活動と,無彩色(鉛筆)を用いたドローイング活動をさせた。その上で,使用した絵の具数,混色の有無,描画対象物の再現性等を調査し,造形的な工夫の傾向を考察した。その結果から,色彩感情効果学習は,主題を説明的に表現するのではなく,想像した内容を表現する傾向を強め,その傾向は一定期間持続することが分かった。しかし,混色によって色数を広げることとの相関は無かった。一方,色彩感情効果学習をせずに,着彩活動だけの経験をした生徒は.混色によって色数を増やす傾向はあるが,主題からイメージを広げる傾向は確認できなかった。

  • 「伝統」と「現代」の境界を越えた再定位の試みとして
    箕輪 佳奈恵
    2019 年 51 巻 1 号 p. 321-328
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    モルディブにおける,観光産業の促進を背景とした1980年代以降の急激な経済発展は,それまで伝統的手工芸やヤシを用いた造形などに限られていた同国の美術文化にも変化を生じさせた。それは,「ファインアートとしての美術文化」がもたらされるとともに,従来の伝統が「観光産業としての美術文化」として新たな役割を担うことになったことを意味する。新たな美術文化の潮流の誕生は,伝統の刷新を意味するわけではなく,歴史的経緯や社会状況,そして国教であるイスラムなど,多様な要素が複雑に絡みあって存在している。本論文は,そのようなモルディブの美術文化を,現代的文脈から考察し,新たに捉え直すことを目的に論考するものである。

  • ふりかえり記述からの分析
    守屋 建
    2019 年 51 巻 1 号 p. 329-336
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校図画工作科における教科横断の汎用的資質・能力育成のための学習環境デザインの研究であり,カリキュラム・マネジメントについての研究である。小学校4年生の1年間の図画工作科の授業から検証を行った。造形遊びの授業と,学期末に行っている学習の振り返りの記述から,教科を横断する汎用的な資質・能力の育成について明示化された文章を抽出している。そこから表にまとめ,一年間の変化について考察をしていった。数値化をして,変化を追うことで,造形遊びを行っていくことによる効果について検証を行った。また,一人ひとりの記述について考察していくことから,造形遊びの中で発揮されている汎用的資質・能力としてのコミュニケーションの明示化と,メタ認知の育成について明らかにした。まとめにはカリキュラム・マネジメントの軸として,汎用的資質・能力を育成する造形遊びの価値について考察をした。

  • ―類型化の試み―
    山竹 弘己
    2019 年 51 巻 1 号 p. 337-344
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,抽象絵画の教育効果を検証し,授業への活用を促進することにある。抽象絵画の実践はこれまで難解なイメージから中学校現場では敬遠されることが多かった。そこで,中学校現場で指導の指標となることを期待した。本稿では抽象絵画を抽象形の形成方法によって3つに類型化し,形成方法別に学習支援することで,抽象絵画への理解を深めたかを検証している。また,主題と抽象形・色・構図を結びつけて視覚化したり,感情移入したりする様子を考察することで,「見立て」や「置換」がそれらへの意味づけ,価値づけにどのように関与しているかを明らかにし,「見立て」や「置換」の有効性も検証した。考察では,生徒感想から抽象形の形成方法による抽象絵画の類型化と「見立て」と「置換」の理解,さらに形成方法別の支援が生徒の抽象絵画の理解に深く寄与していることを明らかにしている。

  • ~教員及び学生へのアンケートをもとに~
    山田 芳明, 大西 洋史, 西尾 正寛
    2019 年 51 巻 1 号 p. 345-352
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    小学校図画工作科の内容A表現の大きな柱の一つである「造形遊び」の学校現場での定着は喫緊の課題である。こうした背景には「教員の「造形遊び」の理解」が影響しているのではないかと考える。つまり,学習指導要領に示されている「造形遊び」の内容と,教員が理解している造形遊びの内容との相違である。そこで本研究では,教員を対象に,自由記述による質問紙調査を行い,その回答内容と,平成20年の「学習指導要領解説図画工作編」における「造形遊び」に関する記述部分とを比較し分析を行うことにした。今回,5府県173名の教員,及び1大学130名の学生から回答を得ることができた。分析に当たっては,KH Coderを使用したテキストマイニングの手法を採用した。分析の結果,両者の間には,「遊び」,「遊ぶ」,「自由」といった用語の使用や,資質能力に関する記述の有無等について差違が読み取れた。

  • 横江 昌人
    2019 年 51 巻 1 号 p. 353-360
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    北陸のような多湿地域では,布であるカンヴァスは湿気の吸収と放出で収縮と膨張を過度に繰り返してしまい,作品の表面に剥落につながる亀裂を生じさせ,絵具の層の構造の脆弱な部分から作品の崩壊が始まる。作品の崩壊を防ぐには保管環境と共に絵を描く側も保管環境を考慮した作品制作が必要である。絵画は支持体に始まり⇒膠引き⇒地塗り⇒アンダードロウイング(下素描)⇒アンダーペインティング(下層描き)⇒オーバーペインティング(上層描き)⇒グレイズ⇒ニスで終わる,重層構造である。本稿ではそのような崩壊を招く現象を支持体と下地の問題として検証し,その解決策として,大作でも軽量で丈夫なシナベニア(合板)とペーパーハニカムを組み合わせるパネルを考案した。また,脆弱性が明らかになったカンヴァスに於いても,木枠の裏空間にぺーパーハニカムを挟み込むことで改善になることを明らかにした。

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