美術教育学研究
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  • ―作家や美術館,保護者,教職員との連携を通して―
    青木 善治
    2021 年 53 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    「自己肯定感」を高めやすい図画工作科の学習活動の特性を生かして,作家や美術館,保護者,教職員との連携を通して,全校体制での取り組みを実施した。その結果,子どもの自己肯定感を高めることに効果がみられた。また,鑑賞の研修会に参加した教師は,鑑賞の魅力を体感し,自分の見方や考え方,感じ方が決して全てではないという当たり前のことにも改めて気づくことができた。これは,教師にとって,子どもを共感的にとらえたり,学習活動を不断に見直し,改善し,子どもと共に創造したりする上で重要な要因である。今回の研修事例が示すように作品を共にみて鑑賞をすることによって,美術が専門ではない教師でも鑑賞の魅力を味わい,多様な見方や感じ方を体感することができる。鑑賞活動は創造性のみならず新しい意味や見方,感じ方,自己肯定感をも育む魅力的な学習活動であることを示した。

  • 新井 馨
    2021 年 53 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    社会へ対応できる資質・能力の育成する教育が求められている現在,教科に閉じた学びではなく社会で汎用的に活用できる能力の育成が目指される。そこで本研究では次の2点を目的として質問紙調査を行った。1点目は小・中学生がどの程度図画工作・美術科と他教科との繋がりを感じ,どのような点に繋がりを見出しているのかを明らかにすることである(調査1)。2点目は日常生活の中で,図画工作・美術科の学習内容がどのように生かされていると感じているかを明らかにすることである(調査2)。調査は,小学校4年生~6年生,中学校1年生~3年生を対象に行い回答を分析した。その結果,図画工作科・美術科と他教科との繋がりを十分感じられているとは言い難い結果となった。また,授業内で学んだことが日常生活に活用されているとは言い難い状況も明らかになり,子供と社会の関係について改めて考える必要性が導き出された。

  • ―プラハ公立小学校での授業「コドモ共和国」を手がかりに―
    家﨑 萌
    2021 年 53 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,共感的に応答可能な他者とは異なる自己の理解では捉えがたい〈他者〉に焦点を当てる。日本とチェコ共和国間で「居場所」の視座から開発実践した交流授業のうち,授業「コドモ共和国」を取り上げ,児童の試行錯誤や変容のプロセスから〈他者〉と「私」の境界が形成される実際を追った。自他の境界形成の場面を分析・考察し,境界が現れる三つの活動の段階,❶分節し難い思いや行為が一体的な出来事として造形物や場に投影される,❷造形物と造形物,造形物と場との関係性を形象化する,❸造形活動や作品を省察する,が確認できた。「居場所」をめぐる造形活動では,自他を内に含む親密な境界が形成される一方,境界外部の「私」と〈他者〉が対峙するコンフリクトを生じること,また,矛盾や齟齬を積極的に言葉に表し,作品や活動を相互に吟味するチェコの授業で見られた批判的姿勢の重要性も示唆された。

  • ―地域社会における文化創造の視点から―
    市川 寛也
    2021 年 53 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,1919年に長野県神川村で始まった山本鼎の農民美術運動について,同時代の思想や制度における位置づけと,現代に至る受容を明らかにすることを目的とする。当時,「農民」には資本主義や都市文明への対抗を象徴するキーワードとしての意味合いが付与されていた。一方で,農民美術は農村振興のための副業として位置づけることで,広く社会へと受け入れられた点に特徴がある。ここには,経済活動を前提とした上で,美術を通して農村社会が抱える課題を解決しようとした現実的な方策が見られる。また,農村における「創造的労働」の実現を目指した山本の理念には,社会教育としての意義も見出される。農民という言葉の持つ意味合いが大きく変化した現在もなお,農民美術は長野の伝統工芸として受け継がれている。100年間にわたる受容の変遷を辿ることで,新たな文化運動が伝統として定着していく地域文化創造のプロセスを示した。

  • ―初等教科教育法(図画工作)の授業実践を通して―
    井ノ口 和子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,図画工作科における鑑賞活動のあり方を探る一つの手がかりとして,学生が子どもの絵をどのように見ているのかの特徴を探ることを目的としている。分析対象は,図画工作科の教科書に掲載されている5作品に対する学生の記述である。「主題」,「材料」,「形・色」,「造形行為」,「共感」の5つの要素に関する記述を抽出し,分析・考察した結果,以下の特徴を確認した。第一に,材料や中心に表されたテーマへの着目に比較して,色・形,造形行為などの造形的な視点に着目した〈見る〉行為が確立していない。第二に,作者の意図を理解しようとする姿勢が強く,鑑賞者自身の〈見る〉視点や共感的な態度が弱い。作者の表現したいテーマや意図を理解しようとするだけではなく,造形的な思考や行為について着目する〈見る〉経験を自らが重ねることを通して,子どもの〈見る〉を豊かに広げることができる指導の検討が課題である。

  • 教師の〈意識-規範・文化〉の観点をふまえて
    宇田 秀士
    2021 年 53 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,美術教育における「遊び」概念について探究する継続研究のうちの一報である。本稿では,美術教育の「遊び」概念における相の一つである〈芸術の拡張〉について,次の2つの基軸,(1)〈芸術概念の拡張〉の視点を持つ美術教育研究・実践者たちの活動内容,(2)ESD,STEAM,教科横断的な学びなどの包括的な学習の中での拡がり,を中心に考察した。「芸術概念の拡がりがもたらす柔軟な思考への誘い」は,現代美術に関心を持つ教師,作品づくりを超えて芸術の意味を子供に体験させたい教師,プロジェクト型の活動や総合的な学びと一体化させて学ぶことに意味を見出す教師などによって支えられてきた。一定の成果があったと言えるが,「遊び」概念のもう一つの相である「主体的な活動を生み出す内発的な動機づけ」との融合が課題である。それは,ときには,遊離してしまう事例も見受けられるからである。

  • 江藤 望, 大村 雅章
    2021 年 53 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,イタリア後期ゴシック期のフレスコ画におけるストゥッコ技法に関する研究である。これまで,シエナ派のフレスコ画に特徴的な漆喰によるストゥッコ技法を調査してきた。特に,円光における漆喰のストゥック技法はシエナ派の特徴の1つとして知られている。2019,20年にサン・ジミニャーノ参事会教会フレスコ画『新約聖書伝』の円光を調査したところ,漆喰が軟らかいうちに型押しするシエナ派の一般的なストゥッコと異なる技法が,一部の画面に採用されていたことが判った。本稿では,同壁画に採用されたこの特異な円光技法について,これまでの研究の成果と当時の技法書に基づき,その具体的な技法を検証した。その結果,シエナ派の一般的な技法ではなく,工房等の別の場所で装飾パーツを作りそれを壁画の施工箇所へ貼り付ける手法であったことが明らかになった。

  • ―川崎市市民ミュージアムにおける「アートツール・キャラバン2017」の実践から―
    大泉 義一
    2021 年 53 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,造形ワークショップにおいて構築される参加者の「重層的な関係」の構造原理を分析し,それへの参画の意味を明らかにすることで,子育て支援の一手段としての造形ワークショップの妥当性を検討する実践研究の第3報である。第1報では,「重層的な関係」を構築する造形ワークショップの主体間の相互関係のあり様を明らかにし,第2報では,それら主体間の相互関係を促すファシリテーションの具体と実践原理を明らかにした。本稿においては,第2報までの知見を援用して実践に取り組み,そこでのファシリテーションが参加者に対してどのような教育的意義をもち得たのか評価している。その結果,子育て支援の一助となる意義として,「楽しさ」が位置付くことを見出している。さらにその「楽しさ」が,プログラムや活動からもたらされるだけでなく,日常とは異なる人々や場や空間との関わりによってもたらされるものであることを明らかにしている。

  • ―食事の絵の系譜からの題材提案(7段階学習モデル)と作品分析―
    岡田 匡史
    2021 年 53 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は第57回大学美術教育学会で既発表の読解的鑑賞研究を基とする。ルネサンスと称す美術黄金期に熟した西洋絵画を,日本の学習者に人類の文化遺産として触れて貰い理解を増して欲しいと願う。今回は,名画諸作が犇めくフィレンツェ派を離れ,ゴンドラで有名な水の都,ヴェネツィアに育まれた画派より絵を選定した。本稿を起筆した昨夏は予期しなかったが,洪水や新型コロナ禍で大打撃を受けた,美術の宝庫ヴェネツィアの復興を祈る。鑑賞材選定の際,馴染み易く普遍的でもある主題として食事を設け,祝宴図に注意を向けた。日本で広く知られるのは,レオナルドの「最後の晩餐」だが,作品規模・描写水準・技法的熟達度・主題解読密度等で何ら遜色なき絵として,「ヨハネによる福音書」2章1-12節に準拠しながら,ヴェネツィア的脚色も楽しめる,ヴェロネーゼ「カナの婚宴」を選び,作品読解を機軸とする7段階学習モデルを提起した。

  • ―茶人がみた土の様子とその重要性―
    金好 友子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,茶の湯における陶製道具の露胎の賞玩について,道具の使い手である茶人の立場から,その重要性と鑑賞の視点を明らかにすることを試みたものである。はじめに,茶書の分析を通して,茶人が露胎にどれほど関心を示していたのか整理した。次に,名物記や茶会記などを手掛かりとして土に関する内容を分析し,露胎の鑑賞の視点について調査を行った。調査の結果,亭主は点前の際にできる限り露胎部分に手を触れず,手の汗や脂を露胎につけないように心掛け,客は拝見の際に土をよく賞玩するように,という教えが多くの茶書で説かれていることが確認できた。これは,亭主・客ともに露胎へ高い関心があり,陶製道具において露胎が重要な鑑賞の視点の一つであることを示している。また,露胎の主な賞玩点は土色,土の粗さ,底のつくり,露胎範囲の四つであることが明らかとなった。

  • ―モンドリアン「ブロードウェイ・ブギウギ」と「木」の連作を教材例として―
    鎌田 純平
    2021 年 53 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,中学校美術科における抽象絵画鑑賞に発見学習を取り入れる鑑賞教育方法の可能性を検証するものである。そこでは,ある作家が抽象絵画を制作するに至るまでの,作品の変遷を生徒に辿らせることで,作家の意図の発見を促すことができるのではないかと考えた。具体的には,モンドリアン「ブロードウェイ・ブギウギ」を鑑賞作品の中心に据え,「木」の連作の鑑賞を通して彼の意図の発見へとつなげようとする授業を構築した。約140名の中学3年生を対象に教師と生徒の対話を中心とする授業を展開した結果,抽象絵画の鑑賞に発見学習を取り入れることの教育的有効性が確認された。大半の生徒は「木」の連作の鑑賞によって,作家の意図について予想を成立あるいは深化させていたことが明らかとなった。また,作品や作家のみならず,抽象絵画に対する見方や考え方も深めていたことが示された。

  • 木下 夕嗣, 上山 輝
    2021 年 53 巻 1 号 p. 89-96
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,ロゴデザインに黄金比を用いるための知識を学ぶソフトウェアの開発と実践についての研究である。黄金比は自然物から古代の建造物にまで見られ,近年ではロゴデザインにも使われている例を目にすることがある。ロゴデザインに黄金比がどのように用いられているのかを調べるため,PythonやAdobe Illustratorによるロゴマークの収集・分析を行った結果,黄金比の性質を持つ図形を基にデザインされたロゴマークが複数存在することが明らかとなった。分析結果を基に,学生自身が黄金比を用いて手軽に試行することや様々な事例を確認できる機能をもつソフトウェアを開発した。学生にソフトウェアを配布して使用前後でロゴデザインをしてもらった結果,ソフトウェアの使用後では黄金比を基に構図を考える傾向が見られた。これらの傾向を踏まえて,開発したソフトウェアの有効性について考察を行った。

  • ―授業課題及びアンケート調査のテキストマイニング分析を基に―
    倉原 弘子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,教員養成課程の大学生の美術館での作品鑑賞に関する意識調査を基に,大学生の現状把握と美術館での作品鑑賞についての意識改革の方法を探ることが目的である。本稿では,大学生が美術館での鑑賞に関してメリット・デメリットと感じることについて,意識調査を行い,結果の分析・考察を行った。その結果,多くの大学生が「本物の作品が鑑賞できること」をメリットだと感じていた。また,大学生がデメリットだと感じていることは,第一に「料金・移動時間」,第二に「他者に対するストレス」,第三に「美術館のルール」といった結果であった。結論として解決できないデメリットもあるが,いくつかのデメリットを別の視点からみることによって,デメリットを回避し,学生の意識改革につながる方法を提案している。今後,美術館での鑑賞の実践を通して,大学生の意識の変化の調査を行いたい。

  • ―工芸題材におけるATLスキルの活用と探究的な学び―
    小池 研二
    2021 年 53 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    国際的な統一プログラムである国際バカロレアの汎用的スキルであるATLスキル(Approaches to Learning skills)を授業当初から生徒に示し,生徒に理解させた上で,学習に取り組ませることにより,生徒がスキルを自覚して学習に生かせるかをアンケート結果から分析した。さらに,自然素材を生かした木工の制作を通して良さや美しさといった概念理解をさせるために「探究の問い」を設定し,問いを考えながら学習を行い,より深い学びができるかどうかを生徒の記述から分析した。その結果ATLスキルについて具体的に説明をすれば多くの生徒がスキルの意味を理解して学習の各場面で自覚していることがわかった。また,探究の問いからは,工芸品の美しさや,工芸の必要性について,制作活動を通して理解を深めていることがわかった。一方学習の内容にATLスキルがどの程度生かされているかについては今後の課題となった。

  • 杉崎 那朗
    2021 年 53 巻 1 号 p. 113-120
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    鉄彫刻が誕生した近代史は,産業革命によって製鉄技術が向上し,鉄材が一般的に普及した時代である。溶接技術は,鉄材を接合するために発達し,彫刻の技法に取り入れられた。初期の鉄彫刻は,鉄材を溶接で組み立てることで,工業的な印象を与えるものである。これは当時の技術革新を象徴していると言えるだろう。しかし,現代における鉄彫刻は多様化し,近代の価値観に沿っていると一概には言い難い。特に着目すべきは彫刻の形態と制作者の関係である。形態は,制作者が鉄という物質にどのようなアプローチを行ったかで決定される。工業技術ではなく,彫刻の技法としての溶接によって生み出された形態は,鉄が持つ本来の性質を引き出すものである。本稿は,主に中原佑介の著述と星野健司の作品を検証し,さらに自作を省察しながら,鉄の溶接による彫刻表現の特質を考察するものである。

  • ―生活世界と他者経験をめぐる危機を内破する知に関する序論的考察―
    清家 颯
    2021 年 53 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,個の表現行為のひろがりが活動を応答的・対話的にすると捉える視座に立ち,子どもが他者とおこなう自己探究的な制作過程のコミュニケーション的行為に生活世界と他者経験をめぐる危機を内破する可能性の一側面があることを示した。現在にまで持ち越された美術教育に関する諸課題と現代社会の状況を捉えて,子どもの生きづらさに繋がる切実な課題の一因とその環境の変容状況に着目した。この状況の打破のために,当事者性を持ちながら,他者への想像力を働かせて関われるようにする教育的方途の必要性が示された。「自分の感じ方・考え方」で経験したことを言葉等を駆使してコミュニケートし,「語りがたい経験」を分かち合える場を自分たちで工夫して創出できる表現活動としなければならない。そこで起きるやり取りが契機となり,相手の全体性を深く知るきっかけとなる他者経験へとひらかれていくことが展望されるからである。

  • ―川喜田二郎の創造性理論を軸として―
    妹尾 佑介
    2021 年 53 巻 1 号 p. 129-136
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,既に存在するモデルに到達することを目指す「キャッチアップ型創造性」に加え,モデルのない分野を切り拓く「フロントランナー型創造性」を付加した美術教育における創造性モデルの構築を目的としている。創造性の性質について先行研究を基に考察した上で,従来の美術教育における創造性の構造を検討し,フロントランナー型創造性を育むために追加すべき要素を考察した。その結果,従来の美術教育における創造性の語義はフロントランナー型創造性と異なり,特に問題発見に関する検討や,他者と協働してモデルのないものに取り組むことに関する検討が不足していることがわかった。そこで従来の美術教育がもつ「表現」と「知覚習得」が循環する構造に,内的世界で起こる「省察」と「発見」や,川喜田二郎の創造性理論の「創造」と「脱皮変容」の循環を加えることで,美術教育におけるフロントランナー型創造性の構築を試みた。

  • ―造形・美術教育における伝統や文化に関する学習の在り方の検討に向けて―
    髙橋 智子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 137-144
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,グローバル化社会の中で,国際的に活躍する人材育成のため,自国の伝統や文化についての理解や継承・発展のための教育の在り方が問われている。平成29年には学習指導要領が改訂され,国内の造形・美術教育の在り方を再検討する動きが顕著になっており,造形・美術教育においても伝統や文化の学習の在り方が問われている。本研究の目的は,造形・美術教育における伝統や文化の学習の在り方を探ることである。本稿では,大学生882名を対象に実施した伝統的工芸品に対する意識調査の報告を行う。大学生の伝統的な工芸に対する知識や興味関心等の現状と課題を分析し,造形・美術教育における伝統や文化の学習の在り方の検討に向けて重要となる視点を提示した。その結果,学校教育における学びの重要性や表現と鑑賞を関連させた題材検討の必要性,幅広い分野からの題材設定の重要性の3つの視点が確認できた。

  • ―素材のリズムと制作行為の相補関係を手掛かりに―
    竹本 悠大郎
    2021 年 53 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,彫刻制作を素材や環境などモノとのやり取りにおける形態の探究と位置付け,その内容と制作者の思考について論じたものである。人間と同様にモノの働きを認める「アクターネットワーク理論」を手掛かりに,作り手の視点からL.クラーゲスの「リズムと拍子」についての著述を参照し,素材と制作行為の関係性を検証した。生命現象としての「素材のリズム」と制作行為は,互いに影響し合う相補関係にある。そして,その検証をもとに西平直が示す世阿弥の稽古哲学を引きつつ,彫刻家の作品と言葉を分析し,モノの働きと制作者の思考を明らかにしていった。制作者の思考にはスキルの習得と,モノとのやり取りによりスキルへの囚われから脱け出そうとする相反した方向性がみられる。彫刻制作において制作者は,この矛盾する二つのベクトルを往還することで,作品とともに自らをつくりかえ,これまでのものの見方を越え出てゆく。

  • ―グスタフ・クリムト作『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I』の題材実践(中学2年生における場合)を通して―
    立原 慶一
    2021 年 53 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本題材実践で生徒は作品を鑑賞して,どのような主題を把握するのか。そうした問いかけがなされた。ワークシートに現れた彼らの回答を分析することで,6類型が認められた。その中でも④不思議美は高回感受組の生徒によって,絵の主題と見なされた。高回感受者と主題の類型の関係を逆算すれば,④不思議美を主題として把握することが望ましく,作品鑑賞のあり方として高く評価されよう。作品の成り立ちを構造的に把握する力と美的能力は,正の相関関係にあることが分かった。作品を情意的に把握することを成就させるためには,ひたすら彼らの美的能力を高めることに話は尽きるのである。美的能力が高い者ほど,作品を美的に評価する切り口が多く自覚されるなど,作品比較のための卓越性を打ち立てられるのである。鑑賞教育で広くねらいとすべきなのが,本稿が定義する「美的能力」を育成することなのである。

  • ―特別支援学級の子どもとの造形活動から―
    寺元 幸仁
    2021 年 53 巻 1 号 p. 161-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,教師が「遊び心」をもって行動することで,結果的に子どもの「学び」に良い影響を及ぼすことについて論じる。担任と同じ教室にいるだけで泣いてしまう特別支援学級のA児に対して,担任はいろんな対応を試したが,変化は見られなかった。しかし,担任が絵を描くという「遊び」を始めた時にA児は変容した。A児が,担任の「遊び心」に触れることで,変容していく様子を担任の記録をもとに考察を行った。その際,麻生武の「遊び」の理論を援用し,A児が「遊び」という「秘術」を学んでいくプロセスを明らかにした。これにより,教師が「遊び心」をもって関わるとき,子どもには,楽しく活動して良いという安心感と,楽しいことをやってみたいという好奇心を抱かせ,主体的な活動の展開につながる効果が期待できるという結論を得た。

  • ―視覚支援の有効性に着目して―
    永井 弘人
    2021 年 53 巻 1 号 p. 169-176
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,窯業製品の加飾技能に焦点化した学習支援の実践研究である。知的障害特別支援学校では,教科領域を合わせた指導を行っており,美術や技術・家庭も合わせて指導し「作業学習」と呼ばれる。陶磁器生産はその一例である。本研究は,作業学習で行われた効率的な技能向上に寄与した支援方法について,その効果を成果物の変容を根拠として検証した。本研究の対象である知的障害・自閉症スペクトラムの不器用さについてはこれまでも指摘されているところであるが,その問題解決に貢献した先行研究として模倣と視覚支援がある。本研究も当初,同様の支援を行ったが,低迷した。そこでオノマトペ等の先行研究を援用するとともに,視覚支援の改良によって成果物は飛躍的に向上した。長期休暇前後の比較検討は,支援方法の有効性をより明確に示唆したと考える。

  • 西澤 智子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 177-184
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,創造性を学校教育の中で育成する手法について検証し,創造性教育の可能性と課題について考察したものである。2019年度,筆者が勤務する高等学校の総合的な探究の時間において,2年生(245名)を対象に9教科をベースとしたチームプロジェクトを実施した。芸術科チームの授業展開の手法を取り上げながら創造性を育むプロセスを考察するとともに,ルーブリック評価から学習効果について分析した。1年間の実践の結果,生徒が地域社会で新たな価値や課題を発見し,それらの達成,克服のために,主体的な学習への姿勢を養うことに繋がったことや,創造性教育が学校教育の中に融合するためには創造性理論体系が必要であると考え,「高松東高校探究学習型創造性学習構築モデル」を基盤にした実践を行った。その結果,探究学習で創造性を培うモデルとして有効であることが分かった。

  • ―5歳児のプログラミング活動の事例分析を通して―
    橋本 忠和
    2021 年 53 巻 1 号 p. 185-192
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    プログラミングには,「手順を最適化する際の発想としての創造性」と「実現したい自分の意図を考える際の発想としての創造性」があると言われる。そこで,本研究では,この2つ創造性を育む幼児のプログラミング活動の内容と展開を構想する手順と留意点を明らかにすることをねらいとした。研究手法としては,まず,辻田嘉邦が,子どもの遊びの過程を手がかりに考案した,「造形活動の側面(メディア・コード・イメージ)」で構成される「学習主題(材料の活用・想の拡充・行為の展開)」の設定の手順に着目した。そして,この設定の手順を参照にした5歳児のロボットを用いた2種の造形活動を構想・実践し,その事例で発揮された幼児の創造性の種類を分析した。すると,「イメージ」を起点とした「想の拡充」を主題とした造形活動が,「幼児の意図」を大切にした創造性を発揮させると共に,論理的思考を高めることを見いだせた。

  • ―大正期及び昭和期の高等科児童作品を対象として―
    蜂谷 昌之
    2021 年 53 巻 1 号 p. 193-200
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,富山県高岡市立平米小学校に所蔵される卒業記念画のうち,大正期及び昭和期に残された高等科児童によるものを対象として,作品の種類や画題の調査を行い,その結果を報告するものである。調査では高等科教育や図画教育の動向を踏まえ,同校高等科児童による図画491点を対象に,作品の傾向や教科書との関連について分析を行った。調査の結果,平米校高等科児童図画作品には,1)主として図画教科書及び図画参考書の模写や静物画,風景画等が含まれていたこと,2)風景写生画やクレヨン画の流行という自由画教育運動の影響がみられたこと,3)初等及び中等教育用図画教科書に掲載された図版と同じものの模写があったこと,4)教科書の模写であっても,児童自身によるアレンジを確認することができ,臨画しながらも創意工夫する姿勢がみられたこと,が明らかとなった。

  • 一鍬田 徹
    2021 年 53 巻 1 号 p. 201-208
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    「ホスピタルアート」や「ヘルスケアデザイン」といった分野が,これからの社会にとってますます重要性・必要性を増してくることは,多くの研究者が指摘するところである。事実,日本でもこの分野に関する学会が立ち上がり,研究会や実践報告,シンポジウムやホームページの開設などが行われ,また大学等の研究機関でも様々な取り組みがなされている。このホスピタルアートは,病院が不特定多数の人が出入りする公共空間という側面もあるため,パブリックアートとして捉えることもできる。病院における彫刻・立体造形作品も数多く存在しており,彫刻の特性である存在感,立体感,空間感,触覚感等も含めて,ホスピタルアートとしての活用の視点から大きな可能性を持つものと考える。そこで本論では,病院における彫刻・立体造形作品の可能性や課題について,著者自身の実践事例を基に,特にアンケートの自由記述に着目して述べる。

  • ―6年生のMy Best Memoryを絵に表す活動を通して―
    藤井 康子, 東 奈美子, 岩坂 泰子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,図画工作科における造形要素等の教科特性を生かしながら外国語活動との教科融合型学習を開発する試みである。CLIL(Content and Language Integrated Learning)の言語アプローチとマルチモダリティ理論を応用し,小学校6年生の外国語活動の単元「My Best Memory」『We can! 2』(文部科学省)と図画工作科教科書の「はさみと紙のハーモニー」『ゆめを広げて図画工作5・6下』(開隆堂)を参考に,My Best Memoryを絵に表す授業を開発して実践した。児童の作品とふり返りシート,学習プロセスの量的・質的な分析の結果,CLIL的アプローチは児童の主体的・対話的で深い学びを実現し,多様なモード(色,形,奥行き,構成,言語等)を駆使したコミュニケーションは児童に複合的な視点から価値や意味を創り出すことを促す効果があることが明らかになった。

  • ―ムナーリの芸術教育メソッドに関する調査と考察―
    藤田 寿伸
    2021 年 53 巻 1 号 p. 217-224
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    ブルーノ・ムナーリによる子どものための芸術教育について,その活動と先行研究を調査し,ムナーリの教育観と教育手法がどのように形成されたか,先行研究を参照しながら考察する。本研究ではムナーリ本人の著書研究と関連文献調査,関係者への聞き取りによってムナーリの教育の概要の把握と後継者たちが展開する「ブルーノ・ムナーリ・メソッド®」を調査し,またイタリアにおいてムナーリの教育がどのように理解されているか,ムナーリによるワークショップ教育と幼児教育の関係性について考察した。日本でのムナーリの教育の周知は遅れているが,ムナーリと日本の関わりは深く,芸術家ムナーリへの関心も高い。ムナーリの影響が指摘されるレッジョ・エミリアの幼児教育への関心が日本では高まっており,ムナーリの教育手法と教育哲学の理解が,日本の幼児教育における創造的教育方法開発のヒントとなることが期待できる。

  • ―M. ブーバーの思想における「関係」の二重性の意義―
    藤本 優希
    2021 年 53 巻 1 号 p. 225-232
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    ブーバーの思想では「芸術家」による作品制作の根源には人間と出合い対話する〈なんじ〉との関係がある。本論の目的は芸術制作において〈われ-なんじ〉〈われ-それ〉の関係が二重に生じることの意義を確認し,教師の役割と美術教師の教師としての資質を検討することである。従来の研究では,ブーバーの教育思想は教師と子どもとの対話を重視する読み方が主であるが,本論では人間の対話的でない面も認識する教師のあり方に着目し,ブーバーにおいて「世界と関係を持つ人間への教育」とされた教育の目的と,「無為の行為」のようであるべきとされた教育的行為について検討を加える。教師は,人間が世界に持つ関係が二種類あることを承認した上で,〈われ-なんじ〉的関わりを持つ者として子どもを教育する。美術教師は関係の二重性を経験する「芸術家」でもあることで,関係の参加者として子どもを育てる資質が備わっているのである。

  • ―中学校美術の振り返り記録を通して創造性の飛躍を捉える―
    古川 拓明
    2021 年 53 巻 1 号 p. 233-240
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は生徒が自分の作品のアイデアに納得し,創造性の飛躍を実感できる題材の開発が目的である。本研究が提案する学習指導上の特徴は,創造性の細分化である。授業導入時から作品のアイデアスケッチの段階において意欲,知識,思考へのアプローチを提示した。本研究は中学生を対象とした題材開発を通して得られた研究成果とその課題についての報告である。提案する学習指導法は作成したルーブリック評価表を用いて,生徒の振り返り記述を分析し,生徒が自覚した学習内容や自己変容の中から創造性の飛躍について検討した。その結果,生徒は難しいと思っていたアイデアスケッチを易しいと感じられるようになり,その後の作品制作に時間をかけられるようになった。さらに生徒が作品を制作していく過程で少しずつ改善していくことが小さな刷新になり,そのことに気づくことで創造性の飛躍を感じられることが明らかになった。

  • ―協働で育むべき資質・能力―
    松井 素子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 241-248
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    現在進行形である先端技術と社会との高度な融合は教育にも大きな変革をもたらす。文部科学省は 「Society 5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」で 学びのあり方の変革を提唱した。中学美術科における協同的な学びである「共同製作」が,Society 5.0の時代にどのような資質・能力を育むかについて検討するために,戦後75年間の各学習指導要領を基にした現行教科書会社三社が発行した(昭和29年から平成28年までに発行された開隆堂出版51冊,日本文教出版54冊,光村図書出版54冊)合計159冊の教科書,3184題材の中から共同製作題材とそれに準じるプロジェクト型題材を抽出し,その割合の変遷をグラフ化して考察した。特に,昭和30年代と現在の教科書を比較した結果,他者との相互作用で自己の価値観を新たにする共同製作と,その活動が社会に開かれたプロジェクト型題材の重要性がより増したことが明らかになった。

  • 松浦 藍, 清田 哲男
    2021 年 53 巻 1 号 p. 249-256
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,創造性と審美の相関性を検討し,美術教育における創造性を明確にするために,創造性と審美を併せた態度の尺度の作成である。そこで本稿では,創造性と審美が中学生にどのように育まれたかを考察するため態度尺度の妥当性を検討した。尚,本研究における創造性は,BeghettoとKaufmanの述べた,経験,行動,活動に対して自分なりの感じ方や見方をするという「mini-c」を用いることとした。4中学校における502名の生徒への2回の調査結果から,3つのことが分かった。1つ目は,今回作成した尺度にはある程度の融和性があること。2つ目は,美的価値を感じ取る力は,日常生活の中で新しい感じ方や見方を促す姿勢と相関性があること。3つ目は,自分自身が主体となる行為等には積極性が見られることに対して,他者や社会等,自分以外の存在への働きかけには消極的であることである。

  • ~効果・素材・手法の検討~
    溝上 義則
    2021 年 53 巻 1 号 p. 257-264
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,病児の造形表現活動の効果や,活動に用いる素材と手法について検討した。その際,病児特有の心理状態に注目し,カウンセリングの必要な子どもに対する非言語的な心理療法として用いられることの多いプレイセラピーとアートセラピーを手がかりとした。検討の結果,ストレスや不安を抱えた病児にとって造形表現活動は,カタルシスや昇華などが期待でき,心理的な面で治療的に働くものと考えられた。次に,造形素材について10冊の書籍を調査した結果,感情を表出する素材として「クレヨン」「絵具」「粘土」など多くが共通しており,子どもに対する心理的なアプローチに際してこれらが有用であることが示唆された。筆者の実践例においては,「みる・ふれる・えらぶ」といった能動的な関与が自己肯定感の育成と他者とのコミュニケーションも期待できる活動と考え,これを手法として提案した。

  • ―中学校と保育士養成校におけるスチレン版を用いた回転版画制作を通して―
    屋宜 久美子, 本村 佳奈子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 265-272
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,一版で多色刷りができる回転版画の特性に着目し,色を扱うことに苦手意識を持つ生徒や学生に対し,その楽しさを感じ色彩の可能性に気づく実践について検討する。中学校と保育者養成校という年齢や環境が異なる二つの学校で実践し,成果を比較して効果を見極めていった。対象となる生徒や学生が苦手と感じやすい要素を考慮し,インクの重ねる順序,版の加工工程,回転による色の重なりを工夫した。その結果,刷りの成功体験による意欲の向上,彫りの工程追加による好奇心の高まり,偶然の重なりによる色の観察が促されるなど,色の変化の過程に注目する状況が生まれた。多色刷りができる回転版画では,色の観察を楽しむ制作過程を通して生徒や学生の苦手意識を軽減し,色彩表現の可能性に気づくことができたと考えられる。

  • 山口 雅英
    2021 年 53 巻 1 号 p. 273-280
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は筆者が考案した紙版ドライポイントの新しい制作技法の学校教材としての有効性について論ずるものである。2018年に筆者が行なった版画指導の実態調査アンケートの結果,図画工作・美術の限られた時間数の中で,版画は「制作に時間を要する」「準備や片付けに手間と時間がかかる」等の理由により,やりたいことが十分にできない,あるいは扱いづらいと考える教員が多いことがわかった。筆者は自身の作品制作の手法として長年紙版画の技法の開発に取り組んできたが,それらを応用することで版画指導の抱える問題の解決の一助となる提案ができると考えた。既存の紙版ドライポイントを基盤に,下絵転写,製版,刷りの各工程に筆者の考案した技法及びこれまでの制作を通じて培った工夫,ノウハウを取り入れ一連の制作プロセスを構築した。その概要と教材としての有効性について論じていく。

  • ―中学生の粘土を用いた表現の一考察―
    山﨑 麻友, 武田 聡一郎, 清田 哲男
    2021 年 53 巻 1 号 p. 281-288
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,乳幼児期から青年期にかけて,粘土を用いた表現活動に見られる発達段階をまとめることを目的としている。本稿では,中学校第2学年の生徒を対象とし,触覚と表現活動との関係から発達段階の検討を行った。調査の方法として,感触が異なる5パターンの対象物を用意し,生徒に視覚を遮断した状態で1つの対象物を手で触らせ,触って感じたことを紙粘土で表わす活動を行わせた。概念あるいは知覚からの再現を含めて,「写実表現」に選好するかを基軸に,ワークシートの記述や表現物,活動の様子の記録による結果から検討を行った。その結果,知識や経験から具体的な名詞を想起できるものを触った場合,「写実表現」に選好することが分かった。一方,具体的な名詞を想起できないものを触った場合,「写実表現」に向かいにくいが,対象物の形が認識できると「写実表現」に向かいやすいことも分かった。

  • ―教材としての意義とねらい―
    山下 暁子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 289-296
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,映画『絵を描く子どもたち』を小学校教員養成課程における視聴覚教材として利用するために,その内容を分析したものである。美術専科ではない学生への美術科の教育は授業科目や授業時間に制限がある。短い時間で授業を行う欠点として,知識的な理解は可能であっても,情動的な部分の理解は十分に伝わらない困難さがある。授業を補うために視聴覚教材を導入するにあたって,本映画を教員養成課程の教材としての使用する意義とねらいについて映像分析から明らかにした。

  • ―ソーシャルデザインからみた美術教育の題材のあり方(2)―
    山田 唯仁, 山本 政幸
    2021 年 53 巻 1 号 p. 297-304
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    新学習指導要領では生徒の主体的な学びとともに地域・社会との連携が重要視されている。中学校美術科の中でもデザインの分野において,社会との関わりから生徒自らが問題解決のための方策を導く学習の題材が必要とされる。本研究では,地域の人々が自ら社会における問題の解決を目指すソーシャルデザインの考え方のうち,地域から社会へのつながり方と,自治的な問題解決の活動の手法をふまえて題材を構想し,教育実践を行った。生徒同士のコミュニケーションに関するピクトグラムの授業と,サステナビリティに関する授業外との関連を図った活動を行い,学校を場とする問題解決の題材において,生徒の生活に着目することや自治的な活動である生徒会と関連させることが有効になる事例を示した。また題材で扱う場の広がりに応じて,美術科の授業外との関連を図ることの必要性を指摘した。

  • ―油彩画とテンペラ画の授業実践から―
    横江 昌人
    2021 年 53 巻 1 号 p. 305-312
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    科学技術の発展により,絵画では新しい画材による表現が主流になりつつある。だが,その一方で現代社会では環境対策と安全管理を強く求められている。このような風潮は美術界にも波及し,産業に関係の深い工芸に限定されず,版画や絵画にも広がり,美術家の健康問題にまで関係する問題である。欧州では,これまで普通に使用できた画材が規制され,日本でも毒性や安全管理上の制限が検討されるようになった。また,世界中でマイクロプラスチックの海洋汚染が問題となり,合成樹脂であるアクリル絵具には,環境問題につながる危険性が懸念される。そこで絵画においても油彩画やテンペラ画など天然由来の材料による,より安全な絵画授業を検討するべきである。筆者のグリザイユ画やテンペラ画の授業での取り組みを報告し,安全で扱いやすく,利便性と共に教育効果の高い技法と,環境に配慮した後片付けの取り組みを明らかにする。

  • ―幼児教育関係告示文・領域「表現」と『小学校学習指導要領解説図画工作編』を中心にして―
    横田 咲樹, 髙橋 敏之
    2021 年 53 巻 1 号 p. 313-320
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,造形遊びの視点から幼保小間の接続の課題について検討するものである。造形遊びは,幼児教育と小学校教育の双方において一般的で日常的な用語である。しかし,指し示す意味内容が異なることから,幼児造形教育と小学校図画工作科教育の接続を見直す際の重要な鍵言葉になると考えられる。本論では,基礎研究の初期段階として,幼児教育関係告示文と『小学校学習指導要領解説図画工作編』の記述を中心に吟味し,幼保小間の接続や連携の問題の所在を模索した。その結果,①小学校教育関係者が幼児教育の造形遊びの実態を把握することが困難であること,②小学校教育における「造形遊び」独自の教育効果や他の教育活動との関連性を再検討する余地があること,③生活科の設立により,包括的な幼保小接続は考慮されているが,その一方で,分析的・具体的な視点が不十分であること,が課題として見出された。

  • 吉川 暢子
    2021 年 53 巻 1 号 p. 321-328
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,香川県高松市にあるNPO法人アーキペラゴが行なっている「高松市芸術士派遣事業」での実践から,その事業における芸術士®(以下,芸術士)の役割や課題について見ていくことにする。「高松市芸術士派遣事業」とはイタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育を参考にした独自の事業である。そこで,芸術士を対象としたアンケート調査から芸術士が活動する上で感じている思いや疑問から,保育現場での実態を明らかにする。芸術士の活動は子どもの学びや興味によって活動内容を臨機応変に選択している。これは,子どもの関心のある出来事や子どもの声を聴き子どもの創造性を広げる題材につながる。それらのことが,子どもの学びを獲得し,保育の質を向上していく手立てとなる。このような芸術士の役割と意義を保育者,保護者,行政と共有し,一体となって取り組んでいくことが子どもの表現を成り立たせるためには必要である。

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