美術教育学研究
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選択された号の論文の49件中1~49を表示しています
  • ―身近な主題〔地域および復興〕に着目したローカルニュース番組制作を中心に―
    赤木 恭子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,美術教育における映像メディア表現の領域を,イメージの対話的な相関性に関わる自己と周辺世界との媒介作用を検討し,映像メディア表現を活用した創作行為から経験へ至る学修プロセスを追究するものである。本研究では,これまでに,映像メディア表現について,大学での図工・美術に関するカリキュラムや題材,および教材の開発を中心に,学校教育や地域社会との連携による実践を交えた取り組みを実施してきた。本論では,その一環として,熊本大学教育学部の図工・美術(本研究者担当)で2018年度から継続して実践しているニュース番組制作の一部を取り上げる。本論に記す実践では,この番組制作に参画する学生たちに身近な地域や,熊本の震災復興をテーマとする題材において,映像編集とイメージの連なりに着目し,映像メディア表現を用いた創作行為の内的な文脈形成が経験的な作用として対話的な学修行為に至る可能性を考察したいと考える。

  • ―A/r/tographyの視点によるプラハ公立小学校での共同授業研究を中心に―
    家﨑 萌
    2020 年 52 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,2018年3月にチェコ共和国プラハの公立ドゥホヴァー小学校において,カレル大学教育学部の教員と実施した共同授業について,Practice-Based Researchの一つの方法論であるa/r/tographyの視点から分析,考察を行う。制作実践から空間と時間における自己の境界,境界の内側外側の経験等の「居場所の造形」の特徴を整理し,授業研究を通して教育に結びつけるための要素や構造を検証した。その結果,異なる環境や他者と出会う「居心地の悪さ」から,自己の「居場所」が意識化される構造,メタファーと触覚の活用,言葉を開示しない展開等が授業の重要な要素や構造として明らかになった。

  • 池上 貴之
    2020 年 52 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    日本の障がい者の創作活動は久しく,福祉関係者を中心に展開されてきた。2018年,障がい者とデザイナーが協働する就労支援ラッタ・ラッタルの創作活動がELLE DECO International Design AwardsのJapanese Social Design Project部門を受賞した。また,質の高いデザイン商品を展開することで従来の障がい者の創作物の価値を引き上げていることが高く評価され,2019年にはグッドデザイン賞を受賞した。福祉関係者主導だった障がい者の創作活動をデザインに特化した創作活動へ転換したラッタ・ラッタルが注目を集めている。デザインに特化した制作プロセスとそのアトリエ運営は障がい者の創作活動を考える上で参考になる先進的事例である。本稿では実地調査,インタビュー調査などで得られた知見を元に,ラッタ・ラッタルが展開する障がい者の創作活動を支える新たな取り組みの特徴を人材・制作・運営の側面から明らかにし,デザインに特化した障がい者の創作活動の持つ課題を考察した。

  • 市川 加那子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,金属箔を「装飾」とは異なる視点で論じるため,日本画における金属箔の輝きを抑える方法に着目し,その方法と効果について考察することを目的としている。筆者は,日本画の金属箔の輝きを抑える方法として,「裏箔」,「金属箔への絵具の塗布」,「金属箔の表面を荒らす方法」の3点に着目した。これらの3つの方法は,金属箔の輝きを抑えて金属の素材感を弱めるだけでなく,金属箔を色彩として捉えることのできる方法であることが示唆された。さらに,金属箔の輝きを抑え,金色や銀色等の金属箔の色を活かすことで,金属素材や光り輝くモチーフはもとより,それらとは関連のないモチーフの色彩や,画面の絵肌の表現に繋がることがわかった。また,本稿を通して,日本画や日本絵画では,金属箔の輝きを最大限活用する方法だけでなく,金属箔の輝きを抑えることで生まれる色や絵肌を活かす方法が展開されてきたことを提示した。

  • 「生活の芸術化」の理念に基づく実践を通して
    市川 寛也
    2020 年 52 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,伝統的建造物群保存地区における保存物件の創造的活用モデルを構築することを目的とするものである。具体的な方法として,岩手県胆沢郡金ケ崎町の城内諏訪小路重要伝統的建造物群保存地区においてアクションリサーチを行った。近世の城下町を今に伝えるこの地域では,建造物とあわせて生け垣,庭園,エグネ(屋敷林),畑などが一体化した景観を構成している。しかし,地区内の高齢化や空き家の増加に伴い,景観の維持は困難になりつつある。このような状況を踏まえ,本実践では無住状態にあった「旧菅原家侍住宅」を「金ケ崎芸術大学校」として運用することにより,金ケ崎町が推進してきた生涯教育拠点としての活用方策を探究した。その際,「生活の芸術化」を志向した「農民藝術」の理念を援用し,生活の中の一つひとつの場面を広義での芸術と捉え,一軒の家を舞台に創造的な暮らしを追体験する仕組みを構築した。

  • Caroline Prattによる芸術教育研究の一環としてのAfter Program
    伊東 一誉
    2020 年 52 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    Caroline Prattによって創立されたニューヨーク市の私立校City and Country Schoolは,公立校においてその理念の一部を共有し,美術的実践の研究として展開してきた歴史をもつ。「美術経験を中心とした学習」を重視するPrattの教育観は,一般的な美術教育とは異なるものの,全人教育としての美術を志す点では共通している。「After Program」として1935年に開始された公立学校との連携は,のちにBank Street Collegeに移行され,現在まで理論的研究や史的考察が為されている。しかし,50年代以降の米国学校教育をめぐる時代的変化によって,C&Cと公立学校における「美術経験」による連携は,両者それぞれの立場からの変化を余儀なくされている。本稿ではこうした時代的変化について,「美術経験」に対する意識変化に着目しながら明らかにすることを試みた。

  • ―「授業構想力育成」の視点から―
    井ノ口 和子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,授業構想力育成の視点から,初等教科教育法(図画工作科)の授業改善のための視点と方法を提言することである。本研究では,学習指導案に着目し,考察を進めた。この結果,以下の二点が明らかになった。第一に,題材の具体的なイメージ(材料,学習活動など)を「題材で育成したい資質・能力」,「題材目標」,「評価規準」と関連付けて検討する力に課題があることである。第二に,これまでの作品完成を目的とした「図工観」からの転換の必要性を理解していても,具体的な授業構想の場面では「作品をつくらせる」意識が拭えない実態があることである。この現状と課題を踏まえ,「教科の指導法」の授業改善のための視点と方法を検討した。検討の結果,「学習指導案」を授業構想力育成のゴールとするのではなく,理解のための手がかりと捉えることが,学生の授業構想力育成のための授業改善の視点となると考えられる。

  • 内田 裕子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    小学校及び中学校の次期〔2017年告示〕学習指導要領には,新たに「総則」と「特別活動」の文章に「自己実現」の言葉が記載された。他方,中学校の美術科の学習指導要領には,1998年告示学習指導要領から次期学習指導要領迄3期連続して「自己実現」の言葉が記載されている。しかしながら,現在も教員養成課程の美術専攻科では,自己実現を卒業研究のテーマに選ぶ学生が多く見受けられる。周知の通り,美術教育は個性を認め自尊心を育むとされているが,その一方で,美術教育によって自信を失くしたり自尊心が痛手を被ったりする事例もあり,美術教育を通した自己実現の難しさは知られるところである。そこで本論では,児童生徒の自己実現に寄与する美術教育の指導法を検討することを目的に,図画工作科及び美術科の教員養成課程の授業において取り上げる必要のある自己実現に関する知識及び理解内容を整理する。

  • ―中国・内モンゴル自治区の大学生を対象にして―
    額尓敦
    2020 年 52 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,昨年度日本で実施した「感性的側面から環境意識をたかめるための『リサイクル工作』」ワークショップを中国・内モンゴルの大学で試行的に実施し,昨年度の結果と比較しながら分析・考察し,プログラムの有効性を検証するとともに中国・内モンゴル地域での実践可能性を探ることである。プレテストとポストテストの結果をテキストマイニングで分析した結果,リサイクル工作への意識が一定の価値を含んだものへと変容していたことが確認できた。また,感覚横断的な活動への受講者の興味を引き出すとともに,日常生活におけるゴミ問題や資源の浪費などについての気付きを促すことができた。

  • ―そごう美術館『レオナルド・ダ・ヴィンチに挑戦!』の実践から―
    大泉 義一
    2020 年 52 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,造形ワークショップの参加者によって構築される「重層的な関係」の構造原理を分析し,それへの参画の意味を明らかにすることで,子育て支援の一手段としての造形ワークショップの妥当性を検討する一連の実践研究の第2報である。第1報においては,川崎市市民ミュージアムでの実践を対象にして「重層的な関係」を構築する造形ワークショップの主体間の相互関係のあり様を明らかにした。続く本論文においては,そごう美術館での実践を対象にして,それら主体間の相互関係を促すファシリテーションの具体と実践原理を明らかにしている。すなわち,造形ワークショップの実践中に主体間の相互関係について語ったり影響を与えたりしているファシリテータの発話の機能や意味をコーディングすることを通して,その実践原理を帰納的に析出している。さらに,その実践原理を造形ワークショップの実践プロセスに沿ったモデルを提示している。

  • ―継続調査の結果から―
    大西 洋史
    2020 年 52 巻 1 号 p. 81-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,ハサミの使用技能に焦点を当て,幼児期におけるハサミで線や形を切り抜く能力がどういったものなのかを明らかにすることを目的としている。そのために,3歳児から5歳児を対象に2017年から継続して線や形を切り抜く能力について調査を実施した。そして,(1)測定結果の年度間での相違,(2)3歳児入園児と4歳児入園児の比較の2点を検討する。具体的には,3歳児クラスから5歳児クラスの園児129名を対象に直線,折線,曲線,三角形,四角形,円形の輪郭線を正確に切ることを求めた。そして,課題線からの逸脱量を測定し分析した。その結果,①課題の図形からの逸脱量と年齢とは,回帰分析の傾きが–0.22から–0.94となった。②年度間の近似曲線の比較では,3歳児クラスの子どもで若干の差はあるものの課題間での大きな違いはなかった。③3歳児入園と4歳児入園の子どもでは,曲線と円形で,他の課題線との差が見られたという3点を確認した。

  • ―生活画に焦点を当てて―
    大橋 麻里子, 髙橋 敏之
    2020 年 52 巻 1 号 p. 89-96
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,生活画に焦点を当て,保育実践における描画活動を対象とする国内の研究の動向と課題を明らかにするものである。先行研究を概観し,先ず幼児の描画活動に対し,発達段階の観点が大きく影響していることを述べた。次に,先行研究で明らかになっている幼児の描画活動全般の特徴について,それぞれの特徴の意味を生活画に限定して改めて論じる必要があることを述べた。さらに,これまでの学術研究が,描画活動における保育者の援助の改善に十分に還元されておらず,その背景に実践者と研究者の関係性が影響していることが推察された。最後に,生活画を描くことで生じる幼児個人の学びを明らかにするだけでなく,学級全体や保育者にとっても,生活画の活動にどのような意味があるのかを明らかにする研究が求められていることを述べ,保育実践における生活画の活動の位置付けを体系的に論じることを今後の課題として挙げた。

  • 橋本真之の鍛金の実習に着目して
    大平 修也
    2020 年 52 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,人間相互の関係の形成に貢献してきた工芸を,自他の身体,素材,作品,社会文化的な背景との対話によりつくり手が変容し同型的にふるまう共感的な場の生成過程と位置付け,この生成過程を,鍛金に着目して明らかにすることを目的とした。まず,鍛金を形成してきた社会文化的な背景を,金属工芸の歴史変遷より位置付けた。次に,橋本真之の鍛金の制作実習を事例とし,受講生がもの,人,工芸の社会文化的な背景と相互作用的に関わりながら,自分なりのつくり方と造形物とを形成すると共に,金鎚で素材を叩きそれにより発生する音を聞き同型的行為を実践していく過程について,造形的自己変革とあいだの視点から記述分析した。記述分析により,もの,人,工芸の社会文化的背景と対話しながら,受講生各自がつくり方と造形物とを形成し,自他の経験をつくり出すことで同型的にふるまう共感的な場の生成過程を明らかにした。

  • ―ヴェネツィア・ムラーノ派の絵画技法との関連性―
    大村 雅章, 江藤 望
    2020 年 52 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は前回,前々回に引き続き,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。ルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法として,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグダラのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。特にアトリビュートである香油壺の表現は圧巻である。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行うなかで,前々回は石膏盛り上げ技法に用いられた材料の同定を目的に実験を行った。前回は材料をどのように成形したのか,その方法について実験実証を行った。どのような材料でどのように盛り上げを施したのか再現した。今回はクリヴェッリ画業の源流を辿り,技法解明の原点に迫る。

  • J. McN.ホイッスラーと横山大観,菱田春草
    小野 文子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 113-120
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,J. McN.ホイッスラーによるトーナル・ペインティングと横山大観,菱田春草による朦朧体作品,特に欧米滞在中,そして帰国直後に描かれた作品との類似性,そしてその背景について検討する。ホイッスラーが日本美術からインスピレーションを得て制作した作品は,発表当時物議を醸したが,1880年代以降のアメリカにおけるトーナリズムの先駆けとなった。また,大観や春草が,新しい日本画の表現を模索する中で西欧絵画の画法を取り入れた作品は朦朧体と呼ばれて批判された。しかし,大観の述懐によると,1904–1905年にかけての欧米滞在時に開催した展覧会において,彼らの作品は飛ぶように売れたという。トーナル・ペインティングと朦朧体の表現の類似については,当時指摘されていたが,影響関係等については,これまで議論が及んでいない。ホイッスラー,大観,春草,そして岡倉覚三についての資料を整理し,19世紀後半から20世紀初頭にかけてのグローバリズムの中で,東洋と西洋による出会いの中で生まれた近似性について明らかにする。

  • 香月 欣浩
    2020 年 52 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    筆者はこれまで,支援者の態度が子どもたちの造形活動に与える影響について研究を進めてきた。「支援者の態度が子どもの造形活動に与える影響について」(本学会誌51号)では,幼児から大学生まで4つの造形活動を取りあげ,発話記録と授業後に取った感想文から事例の分析・考察を行ない,支援者の態度が子どもの造形活動に影響を与えることが確認できた。本稿の目的は,支援者の態度のひとつである発話が子どもたちの造形活動に与える具体的な影響を明らかにすることである。そこで支援者の「発話」をクラスごとに変え,活動を行なった。その結果,子どもたちの様子,道具の使用行為,道具の状態,作品画面に差異が表れた。このことによって,支援者は自分がどのような発話を行なえば,子どもたちがどのような行動をとるのか,一つの事例を示すことができた。これは保育や教育を行なっていく上で大変重要なことである。

  • ピカソ「泣く女」とセザンヌ「果物籠のある静物」を教材例として
    鎌田 純平
    2020 年 52 巻 1 号 p. 129-136
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,表現形式の実感的な理解から鑑賞作品のより深い解釈へつなげようとする,教育方法の有効性について探ることを目的としている。そこでは,新たな表現形式を確立しようとする作家が,過去に存在した作品・作家からどのように影響を受けたのかについて,子供自身の考察から把握させようとした。具体的には,ピカソ「泣く女」を主たる鑑賞作品,セザンヌ「果物籠のある静物」を比較作品としてキュビスムの手法の理解を主軸に据え,約140名の中学3年生を対象に教師と生徒の対話を中心とする授業を展開し,教育的可能性を実証した。そこではピカソの表現方法に対する疑問を喚起させ,そこからセザンヌの作品について不自然に感じる箇所を探すという観点に絞った授業を構築することで,生徒はキュビスムの表現形式の特徴について自ら理解を示し,更にピカソの作品のよさを深く感じ取ることができた。

  • ―大学生を対象とした観察法とKA法を用いた実践研究を通して―
    川原﨑 知洋
    2020 年 52 巻 1 号 p. 137-144
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,デザイン教育における価値発見力の育成について検討した。筆者は「学習者の価値発見力を育成するために観察法のデザインプロセスにKA法を援用することが有効である」と仮説を立て,美術やデザインを学ぶ大学生を対象に,観察法及びKA法によるデザイン課題を事例研究として行った。デザイン提案に至るまでの学習者の思考プロセス,具体的に提案されたデザイン作品,事例研究後の質問紙調査から得られた結果の分析を根拠に,観察法及びKA法が価値発見力の育成に与える影響について考察した。その結果,①価値発見力を身に付けることで,ユーザーに寄り添ったデザイン力が育成されること,②観察法によって発見されたユーザーの行動事象そのものが本質的な欲求であり,行動事象から最適解を提案するためにはプロトタイプ制作が有効であること,③KA法を用いることで本質的欲求が抽象化されてしまうため改良が必要なことが明らかとなった。

  • ―子ども心で描いた大人の絵と園児の絵―
    木谷 安憲
    2020 年 52 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    自分の中にある子ども心に意識を向けることが,実際の幼児理解にもつながるのではないかと考え,「かいてみよう子ども心」という描画活動に取り組んだ。まず学生は,自分の子ども心に触れるような描画活動をする。その後,スライドで見る実際の子どもの絵にある子ども心に触れる。その上で,複数のこども心を意識しながら,今の大人の自分として絵を描くという流れの活動だ。最終的に約9割の学生が子どもに戻れて絵が描けたと回答し,約9割の学生が子どもに戻って絵を描くことは保育の役に立つと思うと回答した。その理由として,この活動を通して子どもの気持ちが少し分かり,言葉がけなどしやすくなった,子どもたちと同じ目線で活動を楽しめ,楽しさを共有できそう,などが示された。よって,子ども心に意識を向けることは保育の役に立つという認識が得られた。今後の課題としては,技法や素材が子ども心に与える影響について考えることである。

  • ―「未来の可能性」と人間中心デザインの視点からの一考察―
    清田 哲男
    2020 年 52 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,未来の社会や社会包摂の概念を含めた美術教育カリキュラムにおける包括性の意義と,本研究で2009年から検討・実践してきた美術教育カリキュラムの多様性や包括性の位置づけを明確にすることである。美術教育の学習領域の一つであるデザインの変遷を産業革命以降,とりわけ1960年代以降のUserの捉え方の変化を追うことで概観しつつ,美術教育との関わりを整理し,カリキュラム構築に必要な要素をデザインの視点から捉えた。その上で,これまでの本研究チーム試行カリキュラムでの課題を明確にし,現在の進行している「創造性が社会と出会う美術教育(ANCS)モデル」のカリキュラムについて,「Future Cone」とよばれる,デザイン構造図と比較しつつ,人間中心デザインによる社会構築の視点,持続可能な社会の視点,未来での可能性の視点から,再定義した。

  • 栗原 慶
    2020 年 52 巻 1 号 p. 161-168
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    近代工芸が歩みを始めた明治期以降,工芸は自らの根拠となる概念を求めて多様化した。そして,その過程で提唱された民藝論による「用の美」が,現在も工芸を示す際の印象的な用語として社会に浸透している。一方で工芸の造形を巡っては,素材の特性を軸にした技術の展開が,創意と一体化を成す造形思考が示され,工芸は本質的な表現の論理を得ている。但し,一般的な解釈である工芸=用という工芸観と,常に新たな表現を求める市場との差異があることによって,工芸は未だ解りにくいものになっている。今後は,「工芸で示せること」の捉え方が一層大切になると思われる。筆者は陶芸制作を行う中で,表現する事と用の形という要素が一体化した器形制作には,工芸理解の道筋があると考えている。そこで本稿では,器形表現から享受する事項の考察を行った。器形造形には,実用を超えた感覚的・思想的機能が内在している。

  • 桑村 佐和子, 横江 昌人, 加藤 謙一
    2020 年 52 巻 1 号 p. 169-176
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    美術系大学における教員養成の改善と大学博物館の社会貢献の在り方を探るために,本論文は授業で博物館資料を用いる可能性について明らかにすることを目的としている。金沢美術工芸大学では,「平成の百工比照」という現代の工芸の技法を収集したコレクションを整備している。このコレクションは2009年から収集をはじめ,4段階を経て,2017年度より一般公開の段階に入っている。この「平成の百工比照」を工芸教育法の授業に取り入れ,学生に鑑賞の授業を構想させる課題に取り組ませたところ,次のようなことが明らかとなった。1.「平成の百工比照」のような整った資料があることによって,授業の導入の鑑賞教育がしやすい。2.「平成の百工比照」を用いる場合には,それを専門としない教員に対する支援が必要である。今後は,映像の効果的な活用,「平成の百工比照」の貸し出しの方法も検討する必要がある。

  • ―自由学園みらいかん・未就園児クラスことりぐみの実践―
    齋藤 亜紀
    2020 年 52 巻 1 号 p. 177-184
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,核家族の問題や,地域社会との関係性の変化によって,家庭環境は閉塞化し,保護者が子育てに確信が持てずに孤立してしまうことが憂慮されている一方で,家庭の教育力の強化が求められている。この要請に対し,美術が果たせる役割について自由学園みらいかん・未就園児クラス「ことりぐみ」の造形活動の実践をもとに考察した。自由学園は,大正自由教育の気運の中,設立された学校である。創立者の羽仁もと子とその長女説子は,ジャーナリスト,教育者として,幼児教育,家庭教育について先駆的な考えを示してきた。幼児が生活の中で自然に育まれる力を尊重し,家庭との協働で学ぶ力を育もうとした。「ことりぐみ」もこの教育理念に立脚している。子どもの材料の見方,考え方から試行する造形行為に大人が寄り添い,子どもを再発見することで,それぞれの家庭教育に主体性をもたらし,家庭教育支援の方向性を知るうえで貢献する力になると考える。

  • ―『ゼブラ』を題材とした追創作的鑑賞の実践を通して―
    西丸 純子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 185-192
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,国語教材『ゼブラ』を浜田の「身体の持つ心的構図」を軸に読みとり,物語の重要な文である「輪郭を包む空間を見ること」に着目し,追創作的な鑑賞活動を行った。その活動を言語と身体的経験の関わりから考察した。結果,①身体の同型的相補的対話,②教師や他者が生徒の造形活動の過程を共有することで作品が意味づけ直される対話,③重要な文を造形行為を通して「まわりが自分を作る」という作品や環境の新たな見方を獲得した対話が確認できた。一連の身体の心的構図を作品として外化する行為をとおして,環境との関わりが重層化する過程を他者(教師)と共有し,意味づけ返すことによって,深い対話が成立することが確認された。この研究により,国語教材を活用した美術科の活動における根源的な対話の可能性が示された。

  • ―主体としての子どもの出来事と語りなおすことから出発して―
    清家 颯
    2020 年 52 巻 1 号 p. 193-200
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,表現する子どもに応答していくために子どもの主題へ向けた視線から何が期待できるかを考察したものである。第一に,現代の課題に対して付けられた幾つかの可能性の道筋を確認した。次に,私たちの本源的なありようや子どもの存在論を手掛かりとして子どもと表現の出会いの必然を確認した。その後,子どもの主題を眺めながら主体としての子どもの出来事ととらえ返した。それによって描出できた子どもの思いの広がりの諸相から子どもと表現の出会いの必然を支えているものを子どもの主題の強度と呼び,それらをとらえる深度ある眼差しを想定した。そして子どもへと向けなおした視線の先に,子どもの表現の成り立ちに開示される他者理解への通路を確認することができた。考察の結果,子どもの「やりたいこと」を受けとめていくことに,私たちが子どもに応答していくための気づきが与えられることが明らかとなった。

  • ―和紙と礬水を用いた表現と実践―
    関口 喜美子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 201-208
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,和紙の表面加工(礬水)に焦点を当てた。礬水は,膠と明礬の混合液で作られ,紙や絹の滲み止めとして芸術分野で幅広く使用されている。和紙の特性と礬水の特性を組み合わせることで,新しい表現を図画工作科の教材として導入することを目指した。担当授業において,漉いたままの状態の生紙と礬水で表面加工された礬水引紙を使用した。前者の紙を用いて墨や絵具で描いた場合,色が滲み和紙下層まで浸透する一方,後者は和紙への吸水性を制御し滲み止めや色を定着させる特徴がある。実際の教育現場では,伝統素材に対する経験や知識不足のほか,教具の準備や扱いづらさなどが考えられる。特に礬水の調合は専門知識と技術を要するが,市販の礬水や水彩絵具を併用することで作品製作が可能になることがわかった。本稿では,教員及び教員志望学生が伝統素材を扱った教育的実践が可能となるよう具体的な学習内容を示した。

  • ―表現主題の生成の対比から―
    髙橋 文子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    筆者は,形レベルの「具象,半具象半抽象,抽象」と意味レベルの「事物,説話,象徴」を対にした9類型指標として「イメージ画の9パターン類型」を設定している。本稿の目的は,異なる表現主題の生成プロセスをもつイメージ画群に対して,類型による分析可能性を検討することである。具体的には,素材との関わりを経て終末にイメージが結実するにじみ絵と,導入時にコンセプトを定めたイメージドローイングを分析した。連想,見立て中心のにじみ絵のイメージ画群は類型5(半具象半抽象,説話的)と類型8(半具象半抽象,象徴的)に集中した。コンセプト型においては分散傾向を示しながらも,類型5が最も多く,全体の四分の一(26%)を占めた。これによって9類型指標が,イメージと表象のつなぎ方の質的上昇を示すルーブリックとして有効であるだけでなく,教師が学習内容をより的確に想定する手立てとなる可能性を示した。

  • ―プロダクトデザインの鑑賞における発問設計とその効果を中心に―
    竹内 晋平, 塩田 侑佳
    2020 年 52 巻 1 号 p. 217-224
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校美術科の鑑賞指導において美術の俯瞰的理解を意図した発問設計を行い,「発問-回答」のプロセスによる鑑賞的体験の言語化についての教育的効果を明らかにすることを目的とする。このため筆者らは,美術教員向けの「鑑賞発問設計ワークシート」の開発を行い,これを活用してプロダクトデザインを鑑賞する題材における発問設計,および授業構築を試みた。具体的には,学習活動の前半には実際に鑑賞する椅子についての個別的理解を促す発問を,そして後半にはプロダクトデザインの概念に関する俯瞰的理解につながる発問をそれぞれ設定した。授業実践を試行した後,テキストマイニングソフトを使用して生徒による自由記述の傾向についての視覚化を行った結果,「鑑賞発問設計ワークシート」の活用による鑑賞的体験の言語化は,生徒の俯瞰的な美術理解を図る上で有効であることが示唆された。

  • 武末 裕子
    2020 年 52 巻 1 号 p. 225-232
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    五感の中で最も原始的とみなされてきた感覚は「触覚」である。近年,その触覚を切り口とした展覧会や研究が多くみられるようになった。そうした背景や要因には触覚をキーワードとしたバーチャルでインタラクティブなメディアやシステムの開発推進,障害理解やインクルーシブ教育が国の政策として進む現状がある。また一方では,近現代彫刻の作家達の多くは触覚にインスパイアされながら表現に取り組んでおり,形態に加えて質感や素材感は彫刻を鑑賞するうえでの重要な造形要素でもあった。本論ではその歴史や近現代の彫刻家(コンスタンティン・ブランクーシ,アルトゥーロ・マルティーニ,高村光太郎 等)の彫刻作品や言葉,そして「彫刻とは何か」を論じた美術評論家であるハーバート・リードの記述,国内外の鑑賞の事例と動向から,触覚と彫刻の関係性について明らかにしていきたい。

  • ―鑑真和上坐像の造像過程にみる技法の獲得に着目して―
    竹本 悠大郎
    2020 年 52 巻 1 号 p. 233-240
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    唐招提寺の鑑真和上坐像は,奈良時代天平期に脱乾漆技法により制作された日本最古の肖像彫刻であり,鑑真和上の弟子たちの手で造像された。この史実は,弟子たちの造像過程での技法の獲得とともに,極めて写実的かつ優れた表現が得られたことを示している。技法の獲得を伴う表現は,現代彫刻においても制作者の目指すところといえる。そして,技法が獲得される試行錯誤の過程に,制作者と素材のリズムを調和させるような,脱乾漆技法固有の技法と表現の必然的関係が認められるのである。本稿は,脱乾漆技法による遺品の概観を踏まえ,筆者の制作経験と照らしつつ,鑑真和上坐像の造像過程にアプローチする。そして,奈良時代における脱乾漆技法による制作を筆者自ら実践し,試行錯誤の中から技法が獲得される過程を省察することで,表現を成立させるための脱乾漆技法の本質について考察していくものである。

  • ―マルク・シャガール作『青い天使』の鑑賞(中学3年生)を題材として―
    立原 慶一
    2020 年 52 巻 1 号 p. 241-248
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    「場面」規定及び「愛の表現」箇所の指摘行為の在り方を,鑑賞能力との関係という観点から究明する。その結果,以下の知見に到達した。生徒の美的体験を充実させるには第一に,絵の場面を「主人公の回想・夢」や「冥界の物語」とする見方に興味・関心をもたせる。第二にその方向から造形世界に着目させる。第三に造形的特徴から美的特性や主題を感受させるのである。この筋道を辿ることによって,彼らの感性は揺さぶられるのである。本題材のように文化依存性の高い作品の場合,その知識を周知させることを前提として作品を鑑賞すると,諸能力が絡み合い美的な方向で相乗効果を発揮できるのである。知的理解の裏付けを得て違和感が解消される仕方で,再び感性が活性化することで,本絵は中身の濃い物語として受け容れられるのである。

  • 辻 誠
    2020 年 52 巻 1 号 p. 249-256
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    豊かな感性は描画表現において多様性として現れる。一般に描画表現は視覚情報に基づいていると理解されているが,他の感覚情報に基づく表現でもある。筆者はこれまで,幼児を対象に視覚と触覚の統合を指向した描画活動について実践的に研究してきた。しかし,これまでの試行実践は限定的であり,定量性を欠いていた。そこで本研究では,対象とする幼児の数,園の範囲を拡大して試行実践を実施し,定量的な分析を行った。具体的には,5~6歳児を対象に,ブラックボックスに入れた対象物を触覚により認知させた後,取り出した対象物を描くという活動である。その結果,触覚による対象認知が描画に反映される傾向が認められ,これまでの研究結果を支持する結果になった。よって,触覚による対象認知を通した描画活動が,幼児の視覚と触覚の統合に基づいた表現を促し,豊かな感性を育てる教育方法につながる可能性があると考えられる。

  • 手塚 千尋
    2020 年 52 巻 1 号 p. 257-263
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,教科固有の課題構造や思考のための言語である人工物の違いが,発揮されるスキルにも差異をもたらすという仮説のもと,スキルが発揮されるようデザインされた学習環境下で展開した美術(アート)の協同的問題解決学習において,発揮される協調的問題解決スキルの傾向と特徴を明らかにすることを目的とした。協同的創造の学習活動の分析では,社会的スキルと認知的スキルのいずれかが優位に働くことが納得解の形成過程に影響を及ぼすことを確認した。「協調的問題解決」はよりよい社会をつくる上で不可欠な態度であり手段でもある。個々の感性に基づく協同的創造の学習活動は,構成員がもつ「異なるバックグラウンド」という「変数」がもたらす多様なプロセスにより納得解を形成する経験である。この学習スタイルは学習者の多様なスキルを発揮させる機会につながる点に,美術(アート)で協同的問題解決を学ぶ意義を見出すことができた。

  • ―絵画指導の地域性に着目して―
    寺元 幸仁, 秋山 道広, 初田 隆
    2020 年 52 巻 1 号 p. 265-272
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,専科教師の配置状況や研修の持ち方,児童数や文化的環境などの地域差によって,児童・教師・保護者の児童絵画作品に対する見方(評価)がどのように異なるかを,調査を通して比較検討した。結果,教師の指導性が強い作品に対して都市部教師では,指導経験年数を重ねる毎に承認度が下がる傾向が見られたが,山間部では経験年数による変化は確認できなかった。また,教師と保護者の見方(評価)はほぼ重なっており「完成度の高い写実的な作品」を好む傾向を示すが,児童の見方も学年が上がるにつれて接近していく。しかし変化の速度は,都市部に比べ山間部の方が早い。これらの結果から山間部では教師主導型授業への許容度が高いと推測されるが,主に指導観を更新する機会が乏しいことに起因していると考えられる。そこで,作品や実践事例に基づく討議,授業研究,他地域の教師との研究交流,現代的な美術に触れるための鑑賞や実技体験などの充実が求められる。

  • 南雲 まき
    2020 年 52 巻 1 号 p. 273-280
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論では「贈与」という言葉をキーワードに,現代の教育と美術との関係について読み解いていく。「教育のサービス化」という言葉が示すように,子どもたちは教育というサービスを享受する消費者として自己のアイデンティティを構築しようとしている。消費者として教育に参画するということは,要,不要を子ども自身が判断するということであり,本来必要な学びまで放棄する危険をはらんでいる。本論では,消費者として自己を確立することで,結果的に社会的弱者となる子どもに対して,美術に何ができるのかを模索している。美術活動は消費とは対照的に何もないところから何かを生み出す活動であり,また,他者に対して与える行為を内包する活動である。消費を根源とする現代の教育における問題に対するアプローチとして,美術による「贈与」の教育の可能性,有効性を提案している。

  • ―日本の伝統絵画教育の変遷と現状―
    新川 美湖
    2020 年 52 巻 1 号 p. 281-288
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    中学校学習指導要領で「美術文化の継承と創造への関心を高める」という姿勢が重視されるなか,美術科では鑑賞・表現ともに取り扱う内容の増加がこの10年間求められている。そこで本稿では第一に,絵画における美術文化教育に焦点をあて,これまでの学習指導要領と教科書内容の変遷・推移を追った。特にこの60年間で日本絵画が教科書に占める全体の割合をグラフ化し,時代とともに移り変わる伝統文化への注目度を明らかにした。第二に,現状での絵画文化学習の実態に迫るため,中学1年生247名に小学校までの学習調査を行った。その結果日本絵画の入り口として,水墨画表現が急激に定着化する一方で,内容理解に偏りがあることや,日本絵画の認知度の低さが明らかとなった。最後に,これからの中学校美術で伝統と現代をつなぎ,現代の子供の感性や創造性が刺激されるような美術教育の在り方を考察する。

  • ―5歳児実践事例「ロボット・タウンで冒険だ」の分析を通して―
    橋本 忠和
    2020 年 52 巻 1 号 p. 289-296
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は幼児のフィジカル・プログラミング教材を活用した科学遊びにおける造形活動が内包する手探りによる直感的な活動過程を「ティンカリング」を視点に分析し,従来のプログラミング的思考に囚われない幼児の造形活動の思考過程を考察することを目的としている。研究手法としては,自作した街の迷路を色シールでプログラミングできるロボットを直感的に操作して攻略する造形活動をカール・E.ワイクの「センス・メイキング理論」等を活用して分析し,文部科学省が示す「プログラミング的思考過程」との関係性を考察することを試みた。すると,創造的でありながらも直感を始点に順序性や枠組み等に捉われない「ネオ・プログラミング的思考過程」を幼児の科学遊びにおける造形活動から見出すことができた。さらに,その思考を引き出す教師の関わり方も省察することができた。

  • ―大正期及び昭和期の作品を対象として―
    蜂谷 昌之
    2020 年 52 巻 1 号 p. 297-304
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,富山県高岡市立博労小学校に所蔵される卒業記念画のうち,大正期及び昭和期に制作された高等科児童による作品を分析し,どのような作品が残されているのか,作品の種類や画題について調査を行い,その内容を報告するものである。調査では,博労校の高等科教育及び当時の図画教育の動向を踏まえ,同校高等科児童による図画作品579点を対象として,作品の傾向や教科書との関連について分析を行った。調査の結果,高等科児童作品には,1)主として当時発行されていた教科書や図画参考書の模写をはじめ,図案,静物写生画等が含まれていたこと,2)自由画教育運動の影響はそれほどみられなかったこと,3)中等教育で使用されていた図画教科書が手本として使用されていたこと,4)教科書の写生画題材を模写させるなど,自由画教育運動後,模写を重視していた実態がうかがえること,が明らかとなった。

  • 博物館実習での実践事例にもとづく考察
    林 みちこ, 寺門 臨太郎, 水野 裕史
    2020 年 52 巻 1 号 p. 305-312
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,博物館学芸員に関する資格科目の「博物館実習」において,大学が所蔵する美術コレクションを活用し,学生が主体となって展覧会を企画,運営する学内実習を行った実践事例をもとに,大学が所蔵する美術コレクションの授業教材としての可能性を探るものである。美術館の使命の第一義であるコレクションの保全と公開を実地で学ぶことのできる学内企画展は,多種多様な美術作品のなかに共通点と差異を見出し,文脈を作り上げる企画段階から,作品を調査し,展示するところまで,美術館学芸員のワークフローを一通り体験できる。また,卒業生や退職教員による買上・寄贈作品を熟覧し取り扱うことにより,同じ制作者として創作への刺激を受けることができ,国立の総合大学として唯一,芸術を専門とする教育研究組織を持つ筑波大学の特性を生かし,美術教育に資する博物館実習となっている。

  • ―「振り返りシート」から見る保育者の意識の変容―
    藤田 知里
    2020 年 52 巻 1 号 p. 313-320
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,保育者が着目する「子どものつぶやき」の傾向を明らかにした先行研究をもとに,保育者が子どものつぶやきの記録を行い,「子どもの思い」に意識的に注意を向けたことによる保育意識の変容について明らかにした。方法として,保育者が自身の保育について記録した「振り返りシート」のテクストから,①つぶやきを聴こうとする姿勢,②子どもの思いを受容・共感する姿勢,③子どもの思いを反映させた保育への工夫,④その他,の構成概念の抽出を行い分析した。①~③は,保育者が子どもの思いに寄り添う姿勢を示す概念であり,全ての概念におけるそれらの概念の割合の変化を分析の視点とし考察を行った。その結果,担任する子どもの年齢あるいは個人によって多少の差はあったが,保育者が,子どもの思いあるいは表現を受け入れ,共感する姿勢が強まり,子どもの思いに寄り添った造形活動の実現に近づくことが明らかになった。

  • 藤田 雅也
    2020 年 52 巻 1 号 p. 321-328
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論では,298名の乳幼児を対象に実施した触察行為に関する初期調査の分析から,乳幼児期の触覚による素材への関わり方の実態について把握することを目的としている。調査では,異なる重量や質感を持つ7種類の素材に乳幼児が出会う場を設定し,乳幼児の行為及び発話を動画記録した。動画記録から乳幼児一人ひとりの行為や発話内容,各素材への接触時間などを抽出・集計するとともに,年齢別・素材別によって見られる乳幼児の触察行為の特徴や変化について分析した。年齢が上がるにつれて行為や発話の出現率が高くなる傾向にあることが分かり,特に2歳児から3歳児にかけて行為の出現率に大きな差を確認することができた。また,重さや硬さなどに気づく行為と発話の関係性を見出すことができた。さらに,素材への総接触時間から,乳幼児は光沢のある素材を積極的に触る傾向があることも明らかとなった。

  • ―現在の長瀞小学校教育への継承―
    降籏 孝
    2020 年 52 巻 1 号 p. 329-336
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    昭和初期に,自由画教育運動が下火になる中で,地方のいくつかの学校では臨画教育ではなく児童・生徒の身の周りに目を向け生活を描かせる想画教育が行われていた。三大想画実践校の1つ山形県長瀞校の想画教育についてあらためて再考し,その教育が継承され,現在の長瀞小学校において教育実践されている経緯を調べると共に,その教育的意義を明らかにした。長瀞校の想画教育は,子供らを取り巻く家庭や生活に目を向けさせることを教育理念として,1教科の枠を越えた教科横断的な教育実践の取組みであった。それが,現在の長瀞小学校の教育にも継承され,児童たちは自然や生活を見つめ複数の教科をとおして俳句・書写・想画として表現され,地域の人々に認められる充実した教育活動となっていた。

  • 村上 佑介
    2020 年 52 巻 1 号 p. 337-344
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は筆者が2018年に実施した小学生を対象とした立体造形ワークショップの模様を,児童の行動分析およびアンケートを基に考察し,授業外で行われる造形活動や,触覚を意識する題材が児童にどのような印象を与えるのかを導出したものである。実践では軟質発泡ポリウレタン製のチューブを使用し,子どもたち一人ひとりが素材からイメージを膨らませて“街”をつくり,それらを組み合わせて一つの“世界”を作り上げた。実践後に行ったアンケート調査により,チューブを使用した立体造形ワークショップは,子どもたちが触ることの心地よさを感じることができるものであり,図画工作科での制作活動と比較すると,子どもたちが新しい素材と出会い,より自由に制作できる場であった。その一方で,図画工作が苦手な子どもに対する素材選択や,達成感を高めるための適切な実施時間の検討の必要性といった課題も明らかになった。

  • 山﨑 麻友
    2020 年 52 巻 1 号 p. 345-352
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校,中学校,高等学校の児童・生徒を対象とした,粘土を用いた表現に見られる発達段階をまとめることを目的とする。まず,粘土を用いた表現活動に関する先行研究から,粘土への関わりにおける特徴をまとめた。その特徴の発生順序や現れる年齢を仮定し,発達の過程を6つの時期に分け,先行研究による仮定の発達段階表を作成した。仮定への検討,修正を,今日の小学校,中学校,高等学校における粘土を用いた授業で見られる児童・生徒の活動の様子から行う。観察中に記録した動画から,児童・生徒の活動で見られた行動や発語,表情等を抽出し,分析および考察を行った。その結果,小学校第1学年および第3学年の児童の様子から,一部の特徴が仮定した年齢よりも早い段階で見られた。その特徴において現れる年齢の修正を行い,実態に合わせた現段階の発達段階表を作成した。

  • 山田 一美
    2020 年 52 巻 1 号 p. 353-360
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,第二次大戦後の図画工作・美術科の学習評価の観点に着目し,教科の目標及び評価の観点から発想・構想力の位置付けを明らかにする。そのため,その系譜の年代を4段階に区分し,「発想・構想力」の登場と位置付けを整理・検討した。その結果,発想・構想力の登場と格上げについて,次の視点が明らかとなった。1)困難や課題に満ちた現代社会にあって,知識・技能をどう活用するかが重視されてきたこと。2)教科領域の内容の知識や技能の獲得・理解のみならず,情意・認知面に重点が移行してきていること。3)評価方法が「集団準拠評価」から「目標準拠評価」へと移行してきたこと。4)形成的評価の普及により,発想・構想過程が重視されてきたこと。

  • ―ソーシャルデザインからみた美術教育の題材のあり方―
    山田 唯仁, 山本 政幸
    2020 年 52 巻 1 号 p. 361-368
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    中学校のデザイン教育では,生活や社会との関わりから生徒にデザインをする目的を持たせることが重要とされる。そこで本研究は,社会における課題の解決を目指すソーシャルデザインの考え方をふまえて題材開発と授業実践を行い,生徒によるデザインが生活の中でいきる題材について,そのあり方やデザイン教育においての有効さを示すことを目的とした。題材開発は生徒の生活に欠かせない本に着目し,これを包むブックカバーを制作する授業を実践した。授業後のアンケート調査では,美術科の学習への興味や美術に対して感じる有用さが高まったことが確認できた。またワークシートの記述からは目的や用途,ユーザーに関するコメントが増えたことがわかった。授業外には制作したブックカバーを使用する生徒の姿もみられた。本研究はソーシャルデザインをふまえた題材が中学校のデザイン教育において有効になり得る事例のひとつを示した。

  • 横田 咲樹, 髙橋 敏之
    2020 年 52 巻 1 号 p. 369-376
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,幼児期における色彩教育の研究動向について考察する。先行研究は,「発達」「嗜好」「教育」の範疇で分類することができるが,現在の研究成果は,単発的で現状の把握にとどまり,教育の改善を目的とした研究が不足していることが明らかになった。先行研究の概観からは,幼児期における色彩教育の枠組みでさえ不明瞭である印象を受ける。そこで,研究成果と今後の課題を整理しながら,包括的な枠組みを提示する。幼児期の色彩教育は,「生活体験」「造形活動」の2つの観点によって捕捉が可能である。「生活体験」と「造形活動」に関しては,螺旋状の循環性を重視する必要があり,生活体験に基づいた造形活動が生活体験の一部となることが効果的であると考えられる。以上の直観的な論述は理論的な裏付けが必要である。本論では,今後求められる研究及び保育実践の方向性を示す。

  • ~「チーム美術」の実現に向けて~
    吉澤 俊
    2020 年 52 巻 1 号 p. 377-383
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    造形美術教育は,「地域連携」や「発達段階に応じた連続性のある指導」が求められている。美術教員の孤立化,図画工作・美術専科以外の教員の苦手意識といった課題もあり,教員間および美術教育に関わる専門職間の連携の必要性が増している。そこで,連携の中心となる「コーディネーター」に着目し,(1)この10年の地域連携の意義と課題,(2)美術教育における連携実践の成果と課題についての分析を行った。その上で,(3)「美術教育コーディネーター」の育成と組織化を中心にインフォーマルな「造形美術教育における専門職間連携協働」の方法を具体的に提案している。

  • ―手工教育の実際―
    鷲山 靖
    2020 年 52 巻 1 号 p. 385-392
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,台湾総督府中学校における手工教育の研究にあたり,明治及び大正期の台湾総督府中学校第一部における手工教育の実際を考察するものである。関係文献を調査した結果,台湾総督府中学校は,実科(手工)の担当教員を一名雇用し,手工教室を建築し,身体の訓練や手指の練習を主とする科目として午後の教育課程に実科(手工)を位置付けた。実科(手工)は,明治44年より第一学年から第六学年までの必須科目となった。題材配置の特徴は,①第一学年では,木材の加工工具の構造や使用方法を学び,竹トンボや卓球ラケットなど平面的な作品の制作をおこなったこと,②第二学年,第三学年では,数種類の箱を制作したことである。このように第一部の実科(手工)は,木工題材が充実していた。金工題材については不明であるが,金工教室・木工教室の設備を十二分に活用した手工教育が実践されたことが推測される。

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