2020 年 52 巻 1 号 p. 105-112
本研究は前回,前々回に引き続き,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。ルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法として,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグダラのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。特にアトリビュートである香油壺の表現は圧巻である。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行うなかで,前々回は石膏盛り上げ技法に用いられた材料の同定を目的に実験を行った。前回は材料をどのように成形したのか,その方法について実験実証を行った。どのような材料でどのように盛り上げを施したのか再現した。今回はクリヴェッリ画業の源流を辿り,技法解明の原点に迫る。