2020 年 52 巻 1 号 p. 193-200
本論は,表現する子どもに応答していくために子どもの主題へ向けた視線から何が期待できるかを考察したものである。第一に,現代の課題に対して付けられた幾つかの可能性の道筋を確認した。次に,私たちの本源的なありようや子どもの存在論を手掛かりとして子どもと表現の出会いの必然を確認した。その後,子どもの主題を眺めながら主体としての子どもの出来事ととらえ返した。それによって描出できた子どもの思いの広がりの諸相から子どもと表現の出会いの必然を支えているものを子どもの主題の強度と呼び,それらをとらえる深度ある眼差しを想定した。そして子どもへと向けなおした視線の先に,子どもの表現の成り立ちに開示される他者理解への通路を確認することができた。考察の結果,子どもの「やりたいこと」を受けとめていくことに,私たちが子どもに応答していくための気づきが与えられることが明らかとなった。