2022 年 54 巻 1 号 p. 361-368
本研究では,基礎造形に関する今日的な実践研究を美術・デザイン教育の課題に引き寄せ,日本の美術教育研究者や教育実践者に将来の検討課題を提供することを意図している。そこで,ものづくりをする個人,すなわち「メイカー」としての造形活動に今日的な価値を認め,その社会的・世界的な動向としてのメイカームーブメントとの関連づけから,美術・デザイン教育を拡張する可能性を示すことにした。メイカームーブメントの理念や方法論を概観して整理し,筆者の研究室における地域貢献活動として学生たちと実施したプロジェクトや筆者個人の造形体験を事例として検証した。そうして,個人の創造活動にデジタル工作機器が導入されることにより,ビットとアトム,デジタルとアナログの境界を行き来して多様な展開ができるだけでなく,個と個の積極的な情報交流を促し,その後の創造活動にも効果的な影響が見いだされることを確認した。