2022 年 54 巻 1 号 p. 9-16
絵本の美術的本質は「場面転換」にあることを吉本隆明の言語表現論を援用して提起した。個々の作家や絵本特有の転換の拍子があることを指摘し,その拍子による転換の類型化を試みた。絵本の美術教育的意義はこの場面転換の感受・理解・創出である。しかし,美術科教育で場面転換の教育はなされていないどころか,それ以前に美術関係学習指導要領に「絵本」の語すらない。現実の学校教育で絵本は様々な形で取りあげられているもののほとんどが言語やコミュニケーションの手段として扱われているのが実態である。また,中学生及び大学生に対して質問紙調査と絵本制作を実施して,彼らの絵本に対する意識を調査した結果,絵本の場面転換は意識されていなかったが,教育可能性は十分にあることがわかった。