当学会は「経営システム」を研究対象としており、それはヒト,カネ,モノ,情報をはじめとするさまざまな要素により構成されている。このような構成要素をもつ経営システムを稼働させるには、多くのエネルギーが投入され、また、それにより、コストが増大する。そのため、なるべく少ないエネルギーでシステムを稼働できるよう、人間は改善を繰り返してきた。20世紀初頭、T型フォードを大量生産し、自動車を各家庭に普及させた米フォード・モーター社は、標準化、単純化、専門化を基礎とした改善活動により、経営システムの多様性・複雑性を低下させ、企業活動を低エネルギー化し、その効率性を高めた。しかしながら、市場が成熟化すると、消費者のニーズが多様化し、こうした一車種のみの大量生産では、それに応えることが難しくなった。反対に、このニーズに対して多品種少量生産で柔軟に対応しようとすると、どうしても経営システムが複雑化して、企業活動に費やされるエネルギーが増大してしまう。本研究では、このような「低エネルギーと高ダイバーシティ」の研究視座と、それらの間に横たわるトレードオフ問題について述べるとともに、シャノン・エントロピーを発展させた数理モデルによりこの問題を記述し、その特徴を説明する。