2018 年 13 巻 p. 77-91
本研究の目的は,日本の都市におけるエスニック・セグリゲーションないしエスニック集団の集住に関わる諸研究の動向を整理し,その課題を検討することにある.既存研究は,日本のエスニック集団の量的変化に対応する形で,以下の3 つの方向性から展開してきた.①近代都市史の文脈で,主として在日朝鮮人を対象とした,植民地主義に関わる側面も加味した形での集住地区に関する事例研究,②第二次世界大戦後,シカゴ学派社会学由来のコミュニティ研究あるいは都市下層研究における,エスニック・セグリゲーション研究にも通じる知見の蓄積,③1980 年代以降の「ニューカマー」の増加に着目した,都市とエスニック集団との関係への再焦点化,である.これらの研究を通じて,日本の都市におけるエスニック集団の集住形態は,欧米とは異なる特徴的なエスニック集団人口の推移を反映しており,そのことが都市空間の歴史的形成過程と関わっていることが指摘されてきた.エスニック・セグリゲーションへの着目,とりわけ通時的な観点からの考察は,日本の都市空間の形成を(ポスト)植民地主義とグローバリゼーションの双方に関わるものとして捉え,そこから日本の都市のあり様を考察することにもつながりうる.その意味で,欧米に比べてこのトピックへの関心が低い日本においても,今後更なる研究の蓄積が期待される.