都市地理学
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論説
ヴェルサイユ体制下のChristaller
幾何学と景観のはざまで
杉浦 芳夫
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2020 年 15 巻 p. 1-46

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抄録

Christaller は1933 年に『南ドイツの中心地』を出版した直後に,ドイツの行政領域再編を論じた論文を親ナチ的地理学雑誌に発表した.そして1934 年以降,ベルリン大学において国家学・歴史地理学を専門とする急進的民族主義者Walther Vogel の「ドイツ帝国歴史アトラス」作製プロジェクトに加わる一方で,ナチスに協力的な同大学自治体学研究所でも研究に携わった.これらの経験を踏まえて,Christaller はナチスの教育行政方針と親和性がある自治体地理学(Kommunalgeographie)を提唱するに至る.自治体地理学の実証研究事例が,後にフライブルク大学において教授資格請求論文として認定された,1937 年出版の『ドイツ帝国における農村集落様式といち場ばまち(=その自治体組織との関連性』であった.Christaller はこの著書において,市町M 段階中心地)を核とする 市場統一体に基づく農村自治体再編論を展開し,実際に市場統一体シェーマに沿った大規模な農村集落建設を実現し得る場は,入植地確保の点から見て東欧などの国外にしかないことを暗に認めている.さらに,市場統一体の幾何学的模式図(=農村集落システム理念図)にはドイツ農村に特徴的な集落や農地,林地といった景観的要素が描き加えられており,この景観への配慮はChristaller を抜擢した東方占領地総合計画(Generalplan Ost)の統括責任者Konrad Meyer が目論んだドイツ景観の東方地域への移植計画と符合するものであった.

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