都市地理学
Online ISSN : 2434-5377
Print ISSN : 1880-9499
論説
アジア太平洋における国際金融の域内構造
ラウラヤイネン リスト
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2007 年 2 巻 p. 1-16

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抄録

本稿は,国際金融に関する8つの指標を用いて,世界経済におけるタイムゾーンの3極のひとつを担うアジア太平洋地域での国際金融センターの評価を行った.対象とした都市は東京,香港,シンガポール,上海である.分析は各都市の有する数値を比較したうえで指標ごとの順位づけを行い,最後にそれらのメジアンを集計して最終的な得点とした.結果は,第1位が東京で,香港とシンガポールは2位タイ,そして4位が上海となった.この順位はある程度予想通りであった.ただし第1位の東京の地位は,相対的にも絶対的にも,他のタイムゾーンで卓越するニューヨークやロンドンに比べると遥かに弱いものである.すなわち,近い将来に4都市の順位が変化する可能性が非常に高い.特に経済発展の著しい中国を後背地にもつ上海は,中国の通貨「元」が変動相場制に移行し,金融取引の透明性の向上と法整備,規制緩和等といった外国人投資家に有利な市場に変われば,当タイムゾーンにおける国際金融の最大の中心地となる可能性を秘めている.香港は中国への返還により地理的には国内の辺境となり,上海に比べて不利な位置にある.ただし,香港の保持する長い期間に及ぶ国際金融センターとしての経験は,この都市がオフショアセンターとして生き残っていく可能性を大いに示唆する.シンガポールの状況も香港と類似しているが,香港に比べると,インドや中東地域との繋がりが強いという優位性を有している.東京は上海の最大のライバルとなろう.東京市場はこれまで幾度も自由化を試みているが,社会的な諸事情からいずれも不十分であったし,将来的にもどちらかといえば楽観視できないという点では上海に似ている.東京と上海のどちらが勝つかは,地理的・経済的というよりも,政治的・社会的といった極めて不確定な要素に依存している.

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© 2007 日本都市地理学会
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