都市地理学
Online ISSN : 2434-5377
Print ISSN : 1880-9499
論説
ホーチミンで働く日本人女性の就業状況と生活環境
土屋 純神谷 浩夫金 科哲
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 7 巻 p. 16-28

詳細
抄録

本研究は,ベトナムのホーチミンで就業する日本人女性を事例として,①海外就業への過程,②ホーチミンでの就業状況,③ホーチミンでの生活環境,についてインタビューし,多様化している日本人の海外就業の状況について検討することを目的とした. 2000年代のベトナムでは,海外直接投資が急速に増加し,豊富で安価な若年労働力を求めた多国籍企 業の進出が増加した結果,中国に続く世界的な製造拠点になりつつある.とくに,南部の中心地で、あるホーチミンには,日系企業だけでなく韓国系,台湾系などの企業進出が盛んであり,製造技術の集積が進んで いる.このような日系企業の進出の中で,日本人を現地で採用する動きが加速している. 本研究で調査した日本人女性では,従来の研究で検討されているシンガポールや香港と異なり,英語力を背景とした海外就業は少なかった.ベトナムの就業先は,日本人教師あるいは通訳(ベトナム語)兼事務職,日本人向け観光のグランドオペレーターなど,様々な業種にわたっており,日本人スタッフが少ないことから多くの裁量が与えられている.しかしながら,そうした職種は現地採用が多く,短期契約が中心で、あり,ベトナム人と比較して若干賃金が高い程度であるので,長期にわたって就業を継続したいと考える者は少なかった. このようにホーチミンでの就業は,日本の企業社会の硬直性と比較すると自身の裁量が発揮できるものであるが,将来のキャリア形成や展望あるライフスタイルをもたらすものではない.近年スーパーやカフェが増加し,生活環境が整いつつあるホーチミンは,多様な生き方を求めている日本人女性にとって,一時的ではあるが充実した就業・生活をもたらす選択肢となっている.

著者関連情報
© 2012 日本都市地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top