VTuberのサイン・筆跡は,ファンにとって,そのVTuberの実在性を確かに感じられる人格徴表であり,かつ,顧客吸引力・パブリシティ価値を持つ財として,グッズ化され取引の対象にもなっている.本研究では,現在のVTuber界隈において,サイン・筆跡が価値あるものとして扱われる実情を観察に基づき整理・記述した.また,しばしば「中の人はいない」とも言われてきたVTuberに,「直筆」のサインが存在することが特に違和感なく受け入れられている現状を踏まえ,VTuberのサイン・筆跡の特殊な存在論を考察した.その上で,こうしたサイン・筆跡の持つ経済的価値を法的に保護する手段として,パブリシティ権の適用可能性を検討した.結果として,VTuberのサイン・筆跡は,その市場規模・潜在的価値に比し,いまだ法的保護について十分な検討がなされていない未開拓の領域であることも分かった.