植生学会誌
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原著論文
長野県入笠湿原における植生とその水分・光環境
牧 玲佳島野 光司
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2021 年 38 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

長野県富士見町の入笠湿原で,湿原内に見られる群落の種組成とその立地の相対光量子密度,地下水位との関係を明らかにした.クラスター分析の結果,66の地点はAからFまでの6群落に分けることができた.NMDS分析に光・水環境を重ねた結果,Aのアゼスゲ群落が湿っていて明るい立地に,Bのヤマカモジグサ群落が乾いていて暗い立地に,Cのヒメシダ群落が中庸的な立地に,Dのヤマドリゼンマイ群落がA群落ほどではないが比較的湿っていて明るい立地に,Eのヒメノガリヤス群落が地下水位は低いものの明るい立地に,Fのミゾソバ群落が湿っていて暗い立地に成立していた.草原性のヒメノガリヤス群落では,ヨツバヒヨドリ,コオニユリ,ヤナギラン,ノハナショウブなどの人目を引く高茎草本に加え,エゾカワラナデシコ,スズランやマツムシソウなども見られ,典型的な湿原植生ではないものの,湿原の価値の一つである観光面から魅力的なものと考えられた.一方で,ヤマカモジグサ群落など,比較的乾いた立地の植生は,今後,乾性遷移をしていくことが考えられ,湿原の維持という点で課題があることがわかった.

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