植生学会誌
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原著論文
  • 中岡 望, 福川 恵利香, 比嘉 基紀, 石川 愼吾
    2020 年 37 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    1. 高知県高知市や安芸市には侵略的外来種のアカギと同属のチュウゴクアカギが植栽されている.本研究では,チュウゴクアカギの高知市潮江地区における分布・逸出状況と結実特性,種子発芽特性,実生の成長特性を明らかにし,本種の分布拡大の可能性についての検討を行った.

    2. チュウゴクアカギはアカギと同様に液果を生産し,種子は鳥によって散布される.高知市の潮江地区では,公園・街路樹として植栽されたチュウゴクアカギが9ヵ所で合計38個体確認され,その周辺では稚樹の発生も確認された.また,止まり木となるような街路樹がある場所では,母樹から離れた場所でも稚樹が確認された.

    3. チュウゴクアカギは雌雄異株である.雌雄が複数本植栽されている都市公園で果序を採取し結実特性を調査した結果,果序当たりの果実数は3-19個,果実当たりの種子数は0-6個で,健全種子率も高かった(88%以上).果実1つあたりの種子数は孤立木よりも集団で植栽されている公園の方が多かったが,両者とも大量の種子が生産されていた.

    4. 段階温度法により種子発芽実験を行った結果,チュウゴクアカギの種子は発芽に際して光要求性を示したものの,短期間の低温湿潤処理で光要求性が失われること,温度を段階的に上昇させる条件,下降させる条件でもほぼすべての種子が発芽することが明らかとなった.

    5. 実生の耐陰性を明らかにするために栽培実験を行った結果,遮光率が高くなるほど実生の伸長成長量,地上部・地下部乾燥重量ともに増加した.過湿条件では遮光率95%の実生が徒長している傾向が見られたが,遮光率70%は0%よりも生育が良好であった.このことから本種の実生は被陰環境で良好に生育する可能性があることが示唆された.

    6. 以上のことから,本種は母樹からの距離と果実食鳥の行動範囲,止まり木の分布に依存して逸出範囲を広げる可能性が示唆された.また種子は散布翌年の春にはほぼすべて発芽し,実生は被陰環境下でも良好に生育すると考えられる.今後分布域を拡大し植生に影響を与える可能性があるため,種子散布前の剪定などの管理が必要である.

  • 増井 太樹, 安立 美奈子, 冨士田 裕子, 小幡 和男, 津田 智
    2020 年 37 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    1. 本研究では国内の4つの半自然草原において火入れ地と,火入れをしていない対照地で同時期に地温測定を実施し,火入れ後の半自然草原の地温変動の特徴を明らかにした.

    2. 調査の結果,いずれの調査地においても火入れ地の方が対照地に比べ,火入れ後の日最高地温は高く,40°C以上になった地域もみられた.一方,日最低地温は火入れ地と対照地で違いがなかった.そのため,日最高地温と日最低地温の差(日較差)は火入れ地の方が大きくなった.この日較差は火入れから3-4か月間継続するものの,それ以降になると火入れ地と対照地の地温差はなくなった.

    3. 火入れ後の日最高地温は,海外の火入れ地の乾季における計測結果と同様に高くなることが示された.しかし,本研究では火入れ地と対照地との地温差がほとんどない日も存在し,日本のような温暖湿潤気候では降水が多いため,一定の乾季をもつ地域とは異なる地温変動パターンを示したものと考えられた.

    4. 地温変動が生じた要因として,火入れによりリターが消失することで,光が地面に直接当たるようになり地温が上昇したものと考えられた.火入れから4-5か月ほど経過すると火入れ地と対照地の地温差がなくなったのは,火入れ後に一度消失した植生が次第に繁茂し,光を遮ることで火入れ地と対照地が同じ環境となり地温差がなくなったものと考えられた.

    5. 日本の半自然草原で火入れを行うことで,火入れ後の地温を変化させ,日最高地温が上昇し日較差が大きくなった.このことは,火入れを行うことで,発芽適温が高い植物や,変温条件が発芽のシグナルとなっている植物の発芽を促進させ,それにより半自然草原の群落の維持に影響を及ぼしている可能性があることを示している.

  • 井上 雅仁, 高橋 佳孝
    2020 年 37 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    1. 管理放棄により樹林化した草原跡地など,管理と放棄の履歴が異なる場所を対象として埋土種子相を調査し,埋土種子からの草原生植物の再生可能性について検討した.

    2. 地上植生のうち,高さ2 m以上の立木については,「草-林区」ではクロマツのBAが最大で,幹数はクロモジが最多であった.「林-林区」はウリハダカエデ,イヌシデのBAが大きい林分であった.下層植生については,「草-草区」ではススキの出現頻度,優占度が高く,その他ワラビ,トダシバ,ネコハギ,ニオイタチツボスミレなど,草原生種が高い頻度で出現した.「草-林区」「草-林区」では,クロモジの出現頻度,優占度が高かった.

    3. 土壌サンプルから出現した植物は,「草-草区」で12種,「草-林区」で6種,「林-林区」で14種であった.そのうち草原生種は,「草-草区」では8種と多く,「草-林区」では1種のみ,「林-林区」では3種であった.土壌からの発生頻度の高い種は,「草-草区」ではアリノトウグサ,ススキ,コナスビ,オオチドメ,ニガナなど,「草-林区」ではアリノトウグサ,コナスビ,ヒサカキなど,「林-林区」ではコナスビ,イワガラミ,スズメノヤリ属の一種,ウツギなどであった.

    4. かつて草原であった「草-林区」の土壌サンプルからは草原生植物の発生が少なかったことから,埋土種子からの草原生植物の再生は困難なことが示唆された.

短報
  • 冨士田 裕子, 菅野 理
    2020 年 37 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    1. 北海道の汽水湖のうち,オホーツク海に面した濤沸湖,北海道東部地方の火散布沼,藻散布沼,トーサムポロ沼で水草の分布状況調査と塩分濃度等の測定を,カヌーを使用して水上から実施し,塩分濃度と出現水草種の関係について考察した.

    2. トーサムポロ沼ではアマモ,火散布沼,藻散布沼ではアマモとコアマモが出現し,それ以外の種は見られず,測定した塩分濃度は2.61%から3.15%の範囲であった.

    3. 濤沸湖では,アマモ,コアマモに加え,8種類の水草が出現した.濤沸湖では湖出口から5 km付近までアマモとコアマモが分布しており,さらに湖出口から遠い地点では発見できなかった.両種は,主に塩分濃度が1%以上の場所に出現していたが,コアマモは塩分濃度の低い場所でも生育が確認された.

    4. 濤沸湖の湖出口から5 km以上離れた場所では,アマモやコアマモ以外の種が出現し,それらは 塩分濃度1%以下の場所で採集され,種によって出現場所の塩分濃度に差異が見られた.本研究で測定した塩分濃度はいずれの種も,既存報告で示された各種類の出現する塩分濃度範囲内にほぼおさまっていた.汽水湖の水草の分布は,塩分濃度との関係が深く,多くの種が生育している汽水湖ほど,塩分濃度の異なる場所が湖内に存在することが示唆された.

    5. 環境省は日本の汽水湖として56湖沼をあげており,その内の半数に近い23湖沼が北海道に存在している.23湖沼のうち21の湖で過去の調査情報があるが,近年,調査がなされていない.さらに,情報のない湖も存在することから,北海道の汽水湖での定期的なモニタリング調査を実施することが必要と考えられた.

  • 高槻 成紀
    2020 年 37 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    電子付録

    1. 2018年9月30日深夜から数時間,東京地方を襲った台風24号がもたらした玉川上水30 kmの風害木の実態を記録したところ,合計111本(3.7本/km)が記録された.

    2. 樹種はサクラ属が3分の1を占めた.風害木のうち,植林されたサクラ属,ヒノキは平均直径が50 cmを上回っていたが,コナラ,クヌギなど自生する雑木林の構成種は直径30 cm前後であった.

    3. 風害木は全体に上流(西側)で少なく,下流(東側)に多い傾向があり,特に小金井地区と井の頭公園一帯に多かった.木の倒れた方位は北に偏っており,南からの強風が吹いたことを反映していた.

    4. 桜の名所である小金井地区はサクラ属以外は伐採されるため立木に占めるサクラ属の割合がほかの地区よりも高く,被害率も他の地区に比べて7.1倍も高かった.

資料・報告
  • 石田 弘明
    2020 年 37 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    1. タブノキの分布北限個体群の現状を把握するために,タブノキの日本最北限の自生地(青森県深浦町武甕槌神社の境内)において本種の全個体を対象とした毎木調査を実施し,その空間分布や樹高,胸高直径などを記録した.

    2. タブノキの分布地点の海抜は10 mから30 mまでの範囲にあった.海抜30 m地点の最寒月の月平均気温(2009年から2018年までの平均値)は-0.3°Cであった.タブノキはいずれも単幹の個体であり,その個体数は60本であった.

    3. タブノキの樹高の範囲は0.05-11.0 mで,樹高1.3 m以上の個体の胸高直径の範囲は2.9-73.2 cmであった.樹高2.0 m未満の個体数は35本(総個体数に対する比率は58.3%)で,このうち34本は樹高0.5 m未満であった.2.0 m未満または0.5 m未満の樹高階と比べると他の樹高階の個体数は2-8本と非常に少なかった.

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