植生学会誌
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原著論文
  • 牧 玲佳, 島野 光司
    2021 年 38 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

    長野県富士見町の入笠湿原で,湿原内に見られる群落の種組成とその立地の相対光量子密度,地下水位との関係を明らかにした.クラスター分析の結果,66の地点はAからFまでの6群落に分けることができた.NMDS分析に光・水環境を重ねた結果,Aのアゼスゲ群落が湿っていて明るい立地に,Bのヤマカモジグサ群落が乾いていて暗い立地に,Cのヒメシダ群落が中庸的な立地に,Dのヤマドリゼンマイ群落がA群落ほどではないが比較的湿っていて明るい立地に,Eのヒメノガリヤス群落が地下水位は低いものの明るい立地に,Fのミゾソバ群落が湿っていて暗い立地に成立していた.草原性のヒメノガリヤス群落では,ヨツバヒヨドリ,コオニユリ,ヤナギラン,ノハナショウブなどの人目を引く高茎草本に加え,エゾカワラナデシコ,スズランやマツムシソウなども見られ,典型的な湿原植生ではないものの,湿原の価値の一つである観光面から魅力的なものと考えられた.一方で,ヤマカモジグサ群落など,比較的乾いた立地の植生は,今後,乾性遷移をしていくことが考えられ,湿原の維持という点で課題があることがわかった.

  • 鐵 慎太朗, 星野 義延, 吉川 正人
    2021 年 38 巻 1 号 p. 17-35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー
    電子付録

    1. 神奈川県東部の三浦半島の9箇所の岩石海岸に成立する草本植生を対象に,① 植生を構成する群落の把握,② 各群落の立地条件の解明,③ 保全上重要な植物種と群落の関連の把握を行った.

    2. 調査地の植生はmodified TWINSPANにより11群落に区分され,第一分割では5群落 (A-E) を含むグループと6群落 (F-K) を含むグループに二分された.主に,前者は湿地生の植物で構成される群落,後者は海崖生の植物で構成される群落だった.

    3. 区分された11群落を調査地周辺の既存群集と比較すると,A-Eはイソヤマテンツキ群集やナガミノオニシバ群集,シオクグ群集といった塩沼地生の群集に,シバが優占するFとGはツボクサ-シバ群集などに,Hはハマホラシノブ-オニヤブソテツ群集に,I,J,Kはイソギク-ハチジョウススキ群集に相当,類似していた.

    4. A-Eの5群落は,主に低海抜で湿った平坦地の隆起海食台 (もしくは波食棚) 上に成立し,各群落は水文環境 (海水もしくは淡水の供給,滞水域の有無など) や水質 (塩分濃度 (EC) の違い) の違いに応じて成立していると考えられた.一方,F-Kの6群落は,主に相対的に高海抜で乾いた海食崖上に成立し,土壌硬度,傾斜角度や関東ローム層の有無などから推測される立地の物理的な安定性などが群落の差異に関わっていると考えられた.

    5. 調査スタンドでは保全上重要な植物種 (レッドリスト掲載種,地域固有分類群) が多種記録された.岩石海岸上の草本植生は,三浦半島において生物多様性の保全上重要な存在であるといえる.

    6. 保全上重要な植物種は特定の群落 (B,C,D,G,J,K) に偏在していた.これらの群落の多くは緩傾斜地に成立しており,岩石海岸において相対的に人為的影響 (踏圧など) を受けやすいと考えられた.岩石海岸における草本群落や植物種多様性の保全にあたっては,立地環境への人為影響の程度や人為改変に対するぜい弱性が群落間で異なることに留意する必要があるといえる.

  • Adi SETIAWAN, 伊藤 哲, 光田 靖, 山岸 極, 平田 令子, Yasa Palaguna UMAR
    2021 年 38 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

    クルーブ(clove: Syzygium aromaticum L.)は,その葉から花・芽がクルーブオイル生産されることから,インドネシアにおいて重要な換金作物の一つとなっている.近年,クルーブは単作栽培(モノカルチャー:MON)で生産されることが多いが,MONはしばしば生物多様性を低下させる.本研究では,クルーブを他種と混植して栽培する混合栽培農地(MIX)の植物種多様性保全機能を評価する目的で,MIXの下層における維管束植物の出現傾向および林床の微環境をクルーブMONと比較した.MIXとMONそれぞれ1林分に20 m×100 mのプロットを設置し,その中に規則的に配置された1 m×1 mのコドラート20個において,出現した維管束植物を記録するとともに,土壌含水率(SWC),開空度(SF),コドラートの総植被率(UVC)およびリター被覆率(LC)を計測した.2プロット全体で46種が確認され,うちMIXには40種,MONには17種が出現した.MIXではMONよりも出現種の生活形組成が多様であり,出現種の半数を超える22種が森林生植物であったが,MONでは森林生植物は4種しか出現しなかった.また,MIXでは在来種の種数が23種と多かったが,MONでは外来種の比率が高く,在来種は8種であった.さらにMIXではコドラートあたりの平均種数が多く,コドラート間の出現種の非類似度も高かった.これらの結果から,MIXはMONに比べて森林生植物や在来種の多様性を保全する機能が高いと考えられた.林床の微環境のうち,SWCとSFはMIXとMONでほぼ同様の値を示し,今回調査したMONの物理環境はMIXと同等に不均一であった.コドラートあたりの種数とSFの間にはMIXとMONの両方で正の相関が認められた.一方,MONのUVCとLCはMIXに比較して値の変動幅が狭く,UVCは30%以下,LCは6%以下であった.UVCはMIXとMONの両方で出現種数と正の相関が認められたが,LCはMIXでは種数と負の相関が,MONでは正の相関が認められた.以上の結果から,MONではプロット全面で高頻度に行われるクルーブリターの採取が,地表攪乱として植物の定着を阻害することにより出現種数を減少させ,また光環境の不均一性による植物種多様性の維持・創出効果を阻害していると考えられた.これに対してMIXでは,リター採取に伴う地表攪乱がMONよりも緩和されることにより,物理環境の不均一性の効果が担保され,これがより高い種多様性の維持につながっていると結論付けられた.

  • 設樂 拓人, 鈴木 伸一, 中村 幸人
    2021 年 38 巻 1 号 p. 49-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,北東アジア大陸部に広域分布し,日本に隔離分布しているチョウセンミネバリ(カバノキ科)が日本の本州中部山岳において,どのような森林植生に生育するのかを明らかにするために,チョウセンミネバリが出現する森林植生(以下,チョウセンミネバリ林)の種組成およびその生育立地の調査を行った.本州中部山岳地域の19地点のチョウセンミネバリ林においてBraun-Blanquetの植物社会学的手法による植生調査を行った結果,本州中部のチョウセンミネバリ林は,(1)撹乱後に成立した若い林分であるヤシャブシ-チョウセンミネバリ群落,(2)渓谷沿いのがん角地や斜面中・下部,谷部にかけて針広混交林として成立するウラジロモミ-チョウセンミネバリ群落,(3)冷温帯の極相種であるブナやトチノキなどの落葉高木と,ヤマハンノキやミズナラといった二次林に多く出現する落葉広葉樹が混生するトチノキ-チョウセンミネバリ群落,(4)サワグルミ,カツラなど渓畔林の落葉広葉樹から構成されるサワグルミ-チョウセンミネバリ群落の4群落に区分された.さらに本研究では,本州中部のチョウセンミネバリ林で得られた植生調査資料をKrestov et al. (2006)による北東アジア大陸部のモンゴリナラクラスの植生調査資料と比較し,日本のチョウセンミネバリ林の種組成の特徴を検討した.その結果,北東アジア大陸部と日本のチョウセンミネバリ林の生育立地は類似していたが,種組成は大きく異なっていた.北東アジア大陸部ではチョウセンミネバリは冷温帯汎針広混交林(アムールシナノキ-チョウセンゴヨウオーダー)の標徴種であるのに対し,日本ではチョウセンミネバリ林はブナクラスに区分され,チョウセンミネバリは特定の植生単位の標徴種ではなく,複数の群落に出現する随伴種に区分された.

  • 阿部 聖哉
    2021 年 38 巻 1 号 p. 67-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

    近年,大規模な植物社会学的調査データが世界中で収集され,データベースとして様々な目的に活用されている.日本でも,植生図の作成に伴って収集された植生調査データがデータベースとして公開されている.こうした大規模な植生データベースを分類する際に,従来の植物社会学的な表操作では多くの時間と労力を要していた.本研究では.日本の海浜植生を分類するために,最近開発された自動化アプローチであるISOPAMを適用し,伝統的な手法による分類と比較した.従来の手法では,42の草本群落と11の低木群落が分類され,そのほとんどが既報告の植物社会学的植生単位に対応していた. 一方,ISOPAMは同じデータセットを自動的に16の植生単位に分類した.両者は,データ数の多い主要な群落ではよく一致したが,データが少ない植物群落は他の植生単位に統合され,ISOPAMでは分類されなかった.ISOPAMなどの自動分類手法は,大規模なデータセットに対して大局的なパターンを分類するのには適しているが,データ数の少ない群落や外れ値の検出は難しいと考えられた.大規模なデータを精度良く効率的に分類するには,植物社会学的に識別された調査データをトレーニングデータとした教師付分類手法の開発と,ラベル付き植生調査データの蓄積が必要である.

  • 高槻 成紀, 植原 彰
    2021 年 38 巻 1 号 p. 81-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー
    電子付録

    1. 山梨県の乙女高原は刈取により維持され,大型双子葉草本が多い草原であったが,2005年頃からススキ群落に変化してきた.この時期はシカ(ニホンジカ)の増加と同調していた.

    2. 主要11種の茎を地上10 cmで切断し,その後の生存率と植物高を継続測定したところ,双子葉草本9種のうち6種は枯れ,生存種も草丈が低くなった.これに対して,ススキとヤマハギは生存し,植物高も減少しなかった.

    3. ススキを,6月,9月,11月,6・9月に刈取処理をし,5年間継続したところ,ススキの草丈は11月処理では180-200 cmを維持し,6月区ではやや低くなったまま維持した.これに対し,9月区と6・9月区では草丈が経年的に減少した.

    4. シカの採食は双子葉草本には強い影響があるが,刈取処理よりは弱いから,ススキにとっては影響は弱く,乙女高原でのススキ群落化はシカの影響と考えるのが妥当であると考えた.

    5. ススキ群落内に設置した15 m×15 mのシカ防除柵4年後の群落はススキが大幅に減少し,双子葉草本が優占した.群落多様度指数は柵外はH′ = 0.85だったが,柵内はH′ = 2.64と3倍も大きくなった.

    6. 上層の優占種が大型双子葉草本からススキに変化することで,ヒメシダのような地表性の陽性植物が増加し,ミツバツチグリの場合,ススキ群落では低い草丈で面的に広がったが,双子葉草本が密生していると被度は減少して葉柄を伸長させた.

    7. シカの影響は1)シカの嗜好性(不嗜好植物は食べない)の違い,2)採食に対する植物の反応(成長点のいちの違いによる再生力など)の違い,3)その結果による上層の優占種の変化による下層植物への間接効果,という異なるレベルで起きていることを示した.

  • 吉川 正人, 星野 義延, 大志万 菜々子, 大橋 春香
    2021 年 38 巻 1 号 p. 95-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー
    電子付録

    1. 尾瀬ヶ原の湿原植生に対するシカ個体数増加の影響を明らかにするため,高層湿原,中間湿原,低層湿原,林縁低木林および河畔林のうち,代表的な10の群集・群落について植生調査を行い,1960年代に得られた同一の群集・群落の調査資料と種組成や生活形組成を比較した.

    2. 1960年代との種組成の差異は,高層湿原や中間湿原の群落よりも,低層湿原 (クロバナロウゲ-ホソバオゼヌマスゲ群集,ミズバショウ-リュウキンカ群集,ノダケ-ゴマナ群落) や林縁低木林および河畔林の群落 (ノリウツギ-ウワミズザクラ群落,ハルニレ群集) で大きかった.

    3. 生活形組成では,多くの群落で大型の直立広葉草本の割合が減少し,叢生グラミノイドや小型の非叢生グラミノイドの割合が増加していた.種組成の違いが大きかった群落は,大型の直立広葉草本を多く含む群落であった.

    4. 群落間の種組成の類似度は,中間湿原と低層層湿原の相互の群落間で1960年代よりも大きくなっており,群落間の種組成が均質化する傾向が認められた.

    5. 以上から,尾瀬ヶ原においてはとくに低層湿原と湿原周縁部の低木林や河畔林にシカの影響が強く表れていると考えられた.そのため,これらの群落を優先的に保全することが重要であることを提起した.

  • 石山 琴子, 安江 恒, 井田 秀行
    2021 年 38 巻 1 号 p. 119-129
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー
    電子付録

    1. モニタリングサイト1000の志賀高原おたの申す平コアサイトで優占しているオオシラビソ個体群の肥大成長や繁殖を制限する要因について検討するため,年輪幅および種子生産量の時系列変動と気候要素の変動との関係を調べた.

    2. コメツガとオオシラビソが混交する1 ha (100 m×100 m)の調査区内から様々な直径のオオシラビソを40個体抽出し(平均胸高直径25.2 cm),成長錐を用いて地表から50 cmの高さでコア試料を採取した.

    3. コア試料は読み取り顕微鏡を用いて年輪幅を測定した.全個体の年輪時系列データについてクロスデイティング,標準化,自己回帰モデリングを行い,生育地を代表する年輪幅時系列(以下,クロノロジー)を構築した.

    4. クロノロジーと気候要素の間について単相関分析を行った結果,年輪幅は前年11月および当年4月の平均気温・日最高・日最低気温の月平均と有意な正の相関を示し,前年7月の日最低気温の月平均と有意な負の相関を示した.また,前年5月と7月の降水量とそれぞれ有意な正と負の相関を示した.

    5. オオシラビソの当年の年輪幅と種子生産量の間にはトレードオフの関係がみられた.一方,種子生産量と翌年の年輪幅の相関は認められなかった.

    6. 種子生産量と気候要素の関係を一般化線形モデルにより解析した結果,春や秋の気温(4月の日平均,5・10月の日最高,11月の日平均・日最高)が翌年の種子生産量に負の影響を与えていた.8月の日最低気温は当年の種子生産量に負の影響を与えていた.一方,夏の気温(7月の日平均・日最高・日最低および8月の日最低)が翌年の種子生産量に正の影響を与えていた.降水量では6月と8月が当年の種子生産量に負の影響を与えていた.日照時間では5月が当年と翌年の種子生産量に負の影響を与え, 4月と6月が当年,7月が翌年の種子生産量に正の影響を与えていた.

    7. これらの結果から,地球温暖化による春や秋の気温上昇はオオシラビソの肥大成長を活発化させる半面,繁殖への資源投資を減少させることが推察された.また,夏の気温上昇や日照時間の増大は繁殖を促進するが,春の日照時間の減少や夏の気温上昇および降雨量の増大によって種子生産量は抑制される可能性がある.

    8. 今後の気候変動が当地のオオシラビソ個体群の肥大成長や種子生産量に影響を与える可能性があることから,それに伴う森林動態への影響を早期に把握するためにも当調査区でのモニタリングの継続が不可欠である.

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