植生学会誌
Online ISSN : 2189-4809
Print ISSN : 1342-2448
ISSN-L : 1342-2448
原著論文
志賀高原に生育するオオシラビソ個体群の年輪幅および種子生産量と気候要素の関係
石山 琴子安江 恒井田 秀行
著者情報
ジャーナル フリー
電子付録

2021 年 38 巻 1 号 p. 119-129

詳細
抄録

1. モニタリングサイト1000の志賀高原おたの申す平コアサイトで優占しているオオシラビソ個体群の肥大成長や繁殖を制限する要因について検討するため,年輪幅および種子生産量の時系列変動と気候要素の変動との関係を調べた.

2. コメツガとオオシラビソが混交する1 ha (100 m×100 m)の調査区内から様々な直径のオオシラビソを40個体抽出し(平均胸高直径25.2 cm),成長錐を用いて地表から50 cmの高さでコア試料を採取した.

3. コア試料は読み取り顕微鏡を用いて年輪幅を測定した.全個体の年輪時系列データについてクロスデイティング,標準化,自己回帰モデリングを行い,生育地を代表する年輪幅時系列(以下,クロノロジー)を構築した.

4. クロノロジーと気候要素の間について単相関分析を行った結果,年輪幅は前年11月および当年4月の平均気温・日最高・日最低気温の月平均と有意な正の相関を示し,前年7月の日最低気温の月平均と有意な負の相関を示した.また,前年5月と7月の降水量とそれぞれ有意な正と負の相関を示した.

5. オオシラビソの当年の年輪幅と種子生産量の間にはトレードオフの関係がみられた.一方,種子生産量と翌年の年輪幅の相関は認められなかった.

6. 種子生産量と気候要素の関係を一般化線形モデルにより解析した結果,春や秋の気温(4月の日平均,5・10月の日最高,11月の日平均・日最高)が翌年の種子生産量に負の影響を与えていた.8月の日最低気温は当年の種子生産量に負の影響を与えていた.一方,夏の気温(7月の日平均・日最高・日最低および8月の日最低)が翌年の種子生産量に正の影響を与えていた.降水量では6月と8月が当年の種子生産量に負の影響を与えていた.日照時間では5月が当年と翌年の種子生産量に負の影響を与え, 4月と6月が当年,7月が翌年の種子生産量に正の影響を与えていた.

7. これらの結果から,地球温暖化による春や秋の気温上昇はオオシラビソの肥大成長を活発化させる半面,繁殖への資源投資を減少させることが推察された.また,夏の気温上昇や日照時間の増大は繁殖を促進するが,春の日照時間の減少や夏の気温上昇および降雨量の増大によって種子生産量は抑制される可能性がある.

8. 今後の気候変動が当地のオオシラビソ個体群の肥大成長や種子生産量に影響を与える可能性があることから,それに伴う森林動態への影響を早期に把握するためにも当調査区でのモニタリングの継続が不可欠である.

著者関連情報
© 2021 植生学会
前の記事
feedback
Top