2023 年 81 巻 1-4 号 p. 1-26
パリ自然史博物館とIRD(フランス国立開発研究所)が30年以上にわたって実施した「Tropical Deep-Sea Benthos Programme(以前はMUSORSTOM)」の様々な調査によって,インド・西太平洋から得られた試料の中から,Enixotrophon属の14種が認められた。これらすべての種について,ホロタイプと一連の調査によって得られた標本を図示した。これらの種は漸深海帯から得られ,生きた個体は250~800 mの深さを中心とする198~1,280 mの深度範囲から出現した。Enixotrophon pistillum(Barnard, 1959)では新組み合わせを提唱し,Trophon johannthielei Barnard, 1959とTrophonopsis ziczac Tiba, 1981イナヅマツノオリイレはE. pulchellus(Schepman, 1911)の新異名と見なした。またE. lochi (B. A. Marshall & Houart, 2011),E. pistillum,E. planispinus(E. A. Smith, 1906),E. plicilaminatus (Verco, 1909),E. pulchellus(Schepman, 1911),E. sansibaricus(Thiele, 1925)の6種について,新しい地理的分布を示した。ニューカレドニアからはE. lochi,E. multigradus(Houart, 1990),E. obtuseliratus(Schepman, 1911),E. plicilaminatus(Verco, 1909),E. procerus(Houart, 2001),E. pulchellus(Schepman, 1911)の6種を記録した。インドネシアからは1新種E. karubar n. sp. を記載し,MAINBAZA調査によってモザンビーク海峡から得られた1個体の未成熟標本はEnixotrophon sp. cf. E. sansibaricusとして同定を保留した。
Enixotrophon karubar n. sp.
貝殻はこの属としては中庸のサイズで,殻長は最大16.45 mm(ホロタイプ),殻長/殻幅比は1.7–2.1。殻の造りは軽く,細長く,殻頂部は尖り,体層部は膨らみ縦肋の肩が棘立つ。縫合下は緩やかに傾き,初期成殻では弱く凹むが,体層では緩く凸状となる。殻色は均一な白色。
タイプ産地:インドネシア・タンニバル諸島沖,08°42′S, 131°53′E,356~368 m。
分布:タイプ産地の他にフィリピン・ボホール海,198~624 m(死殻のみ)。
付記:本新種はHouart(1997: 291, figs 9–10)によってTrophonopsis plicilaminatus に同定され,またMarshall & Houart(2011: 106)によってE. sansibaricusの老成個体と見なされていた。その後,フィリピンから追加個体が得られ,独立した種であることが確認された。
本新種は,E. plicilaminatusとは,主螺肋P1とP2の間が広く開くこと,体層が短めで周縁がより角張り,3本(E. plicilaminatusでは5~6本)の主螺肋を持つことで区別できる。また,本新種はすべての検討個体の成殻が4~6層で,初期成殻で2本だった螺肋が体層で3本(稀に4本)となることで,E. sansibaricusと異なる(後者では5~6本)。さらに,原殻は本種のホロタイプでは保存状態が良くないが,フィリピン産の個体についてみるとE. sansibaricusより幅が狭く,細長い。