2000 年 59 巻 4 号 p. 307-316
日本海溝の超深海域より採集したオトヒメハマグリ科ナラクシロウリガイCalyptogena fossajaponicaの共生細菌の性状を明らかにするため, 形態観察, 硫黄含有量および同位体組成分析, 分子系統解析を行った。透過型電子顕微鏡観察により, この二枚貝の鰓上皮細胞中に多数の細菌を確認した。また, この二枚貝の軟体部の硫黄含有量と硫黄同位体組成の解析により, 硫黄細菌の存在を示唆する結果を得た。更に, この細菌の16SリボソームRNA遺伝子配列を決定し, 系統解析を行ったところ, この細菌は深海の熱水噴出域, 冷水湧出域に生息する他のオトヒメハマグリ科二枚貝の共生硫黄細菌と近縁であった。この共生細菌はガラパゴスシロウリガイ, ナギナタシロウリガイおよびフロリダ海底崖産シロウリガイ類の1種の共生細菌と単系統群を形成した。これら4種の二枚貝は他の多くのシロウリガイ類に比べて大深度に分布していた。シロウリガイ類は種ごとに垂直分布が異なることが知られているが, このような垂直分布様式の違いはそれぞれの共生細菌の影響を受けているのかもしれない。