2002 年 30 巻 4 号 p. 173-181
リボ核酸 (RNA) のホモキラリティーの確立という問題に対するモデルを構築する一環として,adenylyl-(3’-5’)-adenosine (ApA) の4種の光学異性体[D-(ApA),ADpAL,ALpAD,L-(ApA)]を合成し,これまで明らかにされていないヘテロキラルなApAの構造を解析する目的で以下の検討を行った.幾つかの核酸分解酵素による分解反応で,D-(ApA)は完全に分解されるが,L-(ApA)は分解反応を受けなかった.一方,ヘテロキラルなダイマーの酵素分解反応はL型アデノシンの位置および酵素の種類に依存した.円二色性 (CD) スペクトルからD-(ApA)とALpADは右巻きらせんを,L-(ApA)とADpALは左巻きらせんを形成することが明らかになり,これらのpoly(U)との三重鎖形成能はダイマー単独でのらせんの巻き方に強く依存しており,左巻きらせんを形成するL-(ApA)とADpALはpoly(U)との三重鎖の熱安定性は大きく低下した.以上の結果から,ApAの3'-末端側残基のキラリティーがApAのらせんの巻吉方やpoly(U)との三重鎖形成能を強く支配していることが明らかになった.今回得られた知見を基に,RNAの化学進化とホモキラリティーの起源について考察した.