和温療法学会誌
Online ISSN : 2760-3393
和温療法の生化学
池田 義之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 2 巻 p. 2-4

詳細

近年の超高齢化社会において、心不全症例の増加や末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease: PAD)の増加が社会的問題となっている。その要因として、心不全においては動脈硬化を基盤とした虚血性心臓病や心臓弁膜症に伴う心不全ともに、高血圧等を背景とした拡張性心不全の増加が挙げられる。心不全はフレイルと密接に関連しお互い予後に影響するため、高齢者心不全症例では包括的な治療が重要となる1)。PAD は、脂質異常症、高血圧、糖尿病、腎臓病(とりわけ透析症例)などの生活習慣病や、喫煙、加齢により下肢血管に動脈硬化を生じ間欠性跛行や安静時疼痛などの症状を呈する血管疾患であり、以前は「下肢閉塞性動脈硬化症」と呼ばれていた。このPAD は、高率に冠動脈疾や脳血管疾患を合併することが知られており、かつ肢の予後のみならず生命予後も悪いという特徴があるため、やはり適切な診断や包括的治療が必要となる2)

動脈硬化性心血管疾患(Atherosclerotic Cardiovascular Disease: ASCVD)やその終末像である心不全の発症から進展における重要な因子に、酸化ストレス増大や血管内皮機能障害がある。和温療法は心不全や PAD の非薬物治療方法であるが、血管内皮機能を司る一酸化窒素(nitric oxide: NO)や酸化ストレス軽減効果が期待されるヒートショックプロテイン(heat shock protein: HSP)の活性化を軸に和温療法の効果発現機序について概説する。

Ⅰ. 和温療法とNO

ラジカルである NO は、血管の内皮細胞に存在する血管内皮型 NO 合成酵素(endothelial nitric oxide synthase: eNOS)により産生される。この eNOS は血流により血管腔に生じるずり応力(shear stress)により活性化し、L- アルギニンを基質として NO を産生して血管平滑筋細胞において可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し GTP から cGMPへの変換を促進することで血管平滑筋を弛緩させる3)。この一連の機構が血管内皮機能であるが、慢性心不全患者では血管内皮機能の低下が臨床症状や予後不良の原因となっており、その機序の一つとして末梢循環不全に伴う末梢血管でのずり応力の低下による NO 産生の低下や、酸化ストレスの増大による NO 利用の低下が挙げられる。慢性心不全や生活習慣病患者を対象に和温療法を行うと血管内非機能が改善するが4),5)、和温療法が血管内皮における eNOS のタンパク及び mRNA 発現を亢進させ NO 産生を増加させることが、心不全発症ハムスターを用いた研究により明らかになっている6)

Ⅱ. 和温療法とHSP

HSP はタンパク質の構造や質を維持するために重要な役割を果す分子であり、温熱刺激に反応して誘導される7)。アミノ酸配列が成熟したタンパク質に構築されるためには立体構造を取る必要があるが、そのために必要なアミノ酸配列の折れたたみ(フォールディング)が正しく行われることを助けることをシャペロンという。HSP はモレキュラーシャペロンとして正常な立体構造を構築するために働くだけでなく、正常な構造が構築できなかった異常なタンパク質を正しい立体構造へ修復する。 HSP には分子量の異なる様々な種類が存在するが、分子量27kDa の HSP27や 分子量32kDa の HSP32には抗酸化機能を有することが報告されてきた。 HSP27は抗酸化酵素である manganese superoxide dismutase(Mn-SOD) の発現を誘導し抗酸化効果を発揮すると同時に、抗アポトーシス効果を有る8)。HSP32は一酸化炭素とビリベルジンに分解され、さらにこのビリベルジンはビリルビンへと分解され抗酸化作用を発揮する9)。心不全発症ハムスターを用いた和温療法基礎実験により、和温療法が不全心筋の HSP32・HSP27および Mn-SOD 発現を有意に増加させ、酸化ストレスマーカーである4-hydroxy-2-nonenal 発現を低下し、心機能及び生命予後を有意に改善させることが明らかとなった10),11)。和温療法は重症の PAD 症例に対して血管を新生させ皮膚潰瘍や臨床症状を改善させるが、その機序として分子量90kDa の HSP90が増殖因子シグナルの Akt および eNOS と連関していることも明らかとなっている12),13),14)

既に和温療法は重症心不全治療の保険適応となっているが、和温療法による eNOS 活性化を介した NO 産生増大や HSP の誘導は血管内皮機能改善や酸化ストレス軽減効果により ASCVD 治療の一助となることが期待される。今後臨床データが蓄積されることが期待される。

References
 
© 2024 和温療法学会
feedback
Top