2024 年 2 巻 p. 5-8
現在長寿大国のわが国ではあるが、長寿=幸せかどうかは健康寿命によると考える。わが国では平均寿命と健康寿命の差が約10年程度の開きがある。獨協医科大学がある栃木県では、循環器病対策推進計画において全体目標として2040年までに、『3年以上の健康寿命の延伸』及び『循環器病の年齢調整死亡率の減少』を目指すとしている。これらを達成するために個別施策として1)循環器病予防の取組の強化、2)循環器病の医療、介護及び福祉等に係わるサービスの提供体制の充実、3)循環器病患者等を支えるための環境づくり、4)循環器病対策を推進するために必要な基盤の整備を掲げている。なかでも心不全対策は非常に重要なポイントであり、現在の心不全パンデミックから少しでも脱することが重要であると考える。心不全パンデミックの今、心不全診療は医療・介護負担が非常に大きい。当院の心不全入院患者数を示すが(図1)、右肩上がりに増加しており、複数回入院される患者が増えている。わが国の心不全患者は退院後1年以内に約25%が再入院すると報告されている1)。やはり再入院を抑制することが私たちの直面している超高齢化社会において非常に重要であることは明らかである。

心不全入院患者数推移
和温療法の開発背景や効果については、鄭忠和先生が和温療法学会誌 Vol1『和温療法の過去・現在・未来』2)で詳細に述べられているのでぜひご参照いただきたい。
当院では、前任の井上晃男先生の強い要望により2012年12月に和温療法を導入し、第1例目を鄭忠和先生指導のもと施行した。68歳女性、拡張相肥大型心筋症で治療困難として他院から紹介された患者である。心不全状態安定後に和温療法を1日1回、計10回施行前後での各指標を提示する(表1)。やはりなんといっても %FMD(Flow mediated vasodilation)がこれだけ改善したことに大変驚いた。これは和温療法による NO の増加によって血管内皮機能が改善するのだが、わずか10回でこのような効果が発現することを目の当たりにした。その後2023年11月13日現在までに、心不全及び閉塞性動脈硬化症に対し延べ254例(平均年齢71.7歳)の患者に施行している。特筆すべき点はこれまでに重篤な合併症なく施行できていることである。
ここで薬物治療抵抗性心不全に対する和温療法の効果について述べたい(第71回日本心臓病学会にて発表)。薬物治療抵抗性心不全患者11例に和温療法を計20回施行し前後の変化を観察した。結果は、心エコー上は、左室拡張末期径は72±8から70±8mm、左室駆出率は24±11から31±10%、 CO 3.0±1.0から3.8±1.1 L/min、BNP は1960±260から1110±84pg/ml といずれも改善していた。僧帽弁閉鎖不全症の程度は severe → severe 3名、 severe → moderate 1 名、moderate → moderate 4名、moderate → mild 3名、三尖弁閉鎖不全症は、severe → mild 1 名、moderate → moderate 3 名、moderate → mild 3 名、mild → mild 2 名、mild → trivial 2名と改善した。和温療法の急性効果は、前負荷・後負荷軽減による心拍出量増加、及び肺血管抵抗の改善によってもたらされると報告されている3)。また、和温療法の eNOS/NO 産生系に及ぼす効果は、eNOS は肺動脈血管内皮にも存在しており、和温療法を継続することで NO の産生が亢進し、肺動脈の拡張、ひいては三尖弁閉鎖不全症の改善につながると考える4)。
包括的高度慢性下肢虚血とは、末梢動脈疾患において、虚血による安静時痛や下肢潰瘍、壊死が少なくとも2週間以上改善せず持続するものとして定義されている。CLTI の予後は正常人に比べて非常に悪い5)。当院では佐久間理吏教授がこの疾患に積極的に対応している。
CLTI に対する第一選択治療法は血行再建術であるが、補助療法として LDL アフェレシス、レオカーナ(吸着型血液浄化器)、脊髄電気刺激法、腰部交感神経ブロック、血管新生療法、遺伝子治療(ヒト HGF 遺伝子)、高気圧酸素療法、そして和温療法がある。やはり EVT に補助療法をうまく取り入れ、包括的に介入することが患者の QOL 改善につながる。当院での EVT 症例数(図2)と和温療法を導入した CLTI 症例数(図3)を提示する。和温療法は CLTI 患者の全身の血管から NO を産生し、血管拡張作用、血管新生作用等で全身の循環血流を促進し、心地よい発汗とともに気分も爽快にする優れた治療法である。

当院の EVT 症例数

当院の和温治療導入されたCLTI 症例数
我々は本学微生物学増田道明名誉教授のもと、和温療法器を用いて風邪コロナウィルス229E 株のウイルス力価の変化を測定した。その結果、LLC- MK2細胞を用いたTCID50法でのコロナウィルス力価は20分でほぼ不活化した6)。
本学再生医療センター小尾正太郎准教授は、温熱刺激がTRPV1/PKC/CREB 経路を介して骨格筋からのマイオカインIL-6産生を誘導することを基礎実験において証明した7)。骨格筋由来のIL-6は筋肉量を増やすといわれており、和温療法がフレイルに対しても有用である可能性が示唆される。
1.包括的リハビリテーションに活用
・リハビリテーション認定施設及び回復期リハビリテーション病棟で活用
・老人保健施設での活用
2.高齢者医療に活用:予防・治療
・脳血流の促進-認知症の予防対策及び進行抑制
・フレイル対策
・和温地域連携
・QOL の向上と再入院の抑制
・医療費軽減
3.治療抵抗性の疾患に自施設で検討、さらには多施設無作為比較臨床治験
和温療法は非侵襲的で特記すべき副作用がなく、心不全や閉塞性動脈硬化症をはじめ、多岐にわたる疾患に対して効果的な治療法である。今後もさらに臨床応用の範囲を広げ、多くの患者のQOL 改善、さらには健康寿命の延伸に貢献することが期待される。
これまで和温療法を導入施行するに当たり、導入していただきました井上晃男先生、指導していただいております鄭忠和先生、そして医療スタッフならびに心臓・血管内科 / 循環器内科秘書の皆様に感謝の意を表します。