2024 年 2 巻 p. 9-18
骨格筋への温熱刺激は、筋緊張を緩和して痛みを軽減する治療方法として利用されている。最近では、筋組織への温熱刺激の繰り返しが筋肥大を誘導するストレスであるという研究知見が報告され、温熱刺激と骨格筋の適応について注目が集まるようになってきた。温熱刺激による骨格筋適応において、細胞内シグナル因子として作用する筋細胞質内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変動はその鍵を握っている。細胞のセンサー機構としての役割を担う28種類のCTRPチャネルタンパク質において、TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)は温熱刺激に応答して[Ca2+]iを直接的に制御する。成熟した哺乳類の骨格筋細胞では、TRPV1は細胞膜ではなくCa2+貯蔵庫としてのオルガネラである筋小胞体に存在する。本総説では、骨格筋細胞においてCa2+の役割の多様性を解説し、温熱刺激による[Ca2+]i変化のメカニズムに焦点を当てた。さらに、繰り返しの温熱刺激とCa2+ホメオスタシス関係性から、骨格筋適応の範囲や温熱を利用した治療戦略への展開について考察した。
生体組織に対する全身あるいは局所的な温熱刺激は、身体の様々な適応を導く手段として治療やリハビリテーションに利用されている。例えば、全身性の温熱刺激となるサウナ浴は心臓血管系の機能改善を導くことが報告されている1)。運動による心臓血管系の機能改善において、サウナ浴が相乗的な役割をもつことも報告されている2)。また、一般的なサウナ浴よりも低温であるサウナ浴(和温療法、室温60℃、15分間+30分間の安静保温)が心不全患者に対する安全で効果的な治療法として確立している3)。局所的な温熱刺激は、関節などのリハビリテーションにおいて、筋緊張の緩和や疼痛軽減などを目的として実施されることが多い。さらに近年では、骨格筋組織への局所性の温熱刺激は骨格筋肥大を誘発する可能性が指摘され4),5),6),7)、新規の筋肥大アプローチとして注目されている。
本総説では、骨格筋を対象として、筋組織の温度変化と筋細胞質内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の関係性に着目した。細胞内Ca2+ は筋収縮と弛緩の制御に加えて、筋細胞内のセカンドメッセンジャーとして筋タンパク質の合成と分解に関与する8)。さらに、神経伝達物質の放出や代謝調節など多くの細胞機能を制御する9)。そのため、細胞内では多様なCa2+ 制御システムが存在している。例えば、細胞の熱感知機構としての役割をもつイオンチャネルである Transient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)は全身の組織にある様々な細胞に発現し、温熱刺激に反応してCa2+ 透過性を制御する10)。骨格筋細胞内においても、TRPV1の発現が確認されており、細胞内の温度環境は細胞内Ca2+ 恒常性を制御する直接的な因子である。本総説は、骨格筋細胞内Ca2+ の役割の多様性を指摘した上で、温熱刺激と細胞内Ca2+ 恒常性の変化による細胞適応のメカニズムを解説し、温熱刺激による生体適応の可能性と治療やリハビリテーションへの応用について考察することを目的とした。
骨格筋細胞内におけるCa2+ の役割は多様であるが、ここでは筋収縮制御とタンパク質合成および分解の機構について、図1に概要を示した。

骨格筋細胞内におけるCa2+(カルシウムイオン)の多様な役割 活動電位が筋小胞体(sarcoplasmic reticulum: SR)に伝わると、リアノジン受容体(ryanodine receptor 1: RyR1)を介して細胞質内にCa2+ が放出され筋収縮が生じる。放出されたCa2+ は筋小胞体Ca2+ 輸送 ATPase(SERCA)によって直ちにSR 内に取り込まれる。カルセクエストリン(calsequestrin: CASQ)はSR に存在するCa2+ 結合タンパク質である。CASQ はSR 内のCa2+ 濃度の変化を感知し、RyR の活性化を調節する。さらに、筋細胞内のCa2+ はカルシウム結合タンパク質との会合を介して、細胞内シグナル伝達を活性化させ、タンパク質の合成および分解を調節する。
骨格筋の収縮及び弛緩は筋細胞内 Ca2+ 濃度([Ca2+]i)が制御している。筋収縮は活動電位が横行小管まで伝達され、筋小胞体(sarcoplasmic reticulum: SR) に存在するリアノジン受容体(ryanodine receptor 1 : RyR1)からCa2+ が細胞質へ放出されることにより誘発される。放出されたCa2+ が筋小胞体Ca2+ 輸送CATPase(SERCA)の作用によって再びSR へ取り込まれることにより骨格筋が弛緩する。カルセケストリン(calsequestrin: CASQ) は、SR 内腔で大量 のCa2+ と結合してCa2+ 貯蔵の役割をもつタンパク質である。CASQはRyR1開口確率を調節することにも寄与する11)。 CASQ を欠損したマウスモデルでは、収縮機能低下に加えて、温熱環境下のストレス耐性が低下して致死率が顕著に増加することが報告されている12)。したがって、筋細胞ではSR に発現するCa2+制御タンパク質は、収縮機能と安静時のCa2+ 恒常性において重要な役割を果たしている。
2. タンパク質の合成と分解筋収縮の[Ca2+]i の増加をトリガーとして標的遺伝子が発現調節を受けることが知られている13), 14)。その代表的なシグナル伝達経路の上流因子として細胞内Ca2+ 結合タンパク質であるカルモジュリン(calmodulin: CaM)が挙げられる。CaM は[Ca2+]iの変化を感知し、さらにCaM 結合タンパク質の機能制御を介して細胞機能を活性化あるいは抑制する。タンパク質のリン酸化反応は細胞内シグナル伝達において重要であり、その多くがCa2+/CaM依存性タンパク質リン酸化酵素(CaMK)によって触媒される15)。CaMK は筋肥大やミトコンドリア生合成遺伝子の発現を制御する複数の転写因子を活性化する16)。例えば、CaMKII は、[Ca2+]i の増加に応じて核内に移行し、筋原性の血清応答因子(serum response factor: SRF)や筋細胞エンハンサー因子2(myocyte enhancer factor 2: MEF2)などの転写因子を活性化して、筋肥大を誘導する。また、カルシニューリンは、CaM 結合タンパク質であり、セリン/スレオニンタンパク質ホスファターゼである。活性化されたカルシニューリンは活性化CT 細胞核因子(nuclear factor of activated T cells: NFAT)を脱リン酸化する。NFAT は細胞質から核へと移行し、MEF2などの特定の転写因子を活性化するほか、タンパク質分解制御に関与するAtrogin-1とMuRF1などの活性を抑制して、骨格筋のサイズ(筋量)を維持することに貢献する17)。AMP 活性化プロテインキナーゼ(adenosine monophosphate-activated protein kinase: AMPK)は、グルコースや脂肪の酸化に関与する代謝調節因子であるほかに、タンパク質分解とオートファジーを活性化する18)。AMPK は AMP:ATP 比に加えて[Ca2+]i の変化に依存したCaMK キナーゼ(CaMKK)を介しても活性化される19)。また、Ca2+が関与するタンパク質分解経路としてカルパイン経路が存在する。カルパインは細胞内のCa2+ 濃度の上昇により活性化し、タンパク質を合成する重要な経路の1つである Protein kinase B mammalian/ mechanistic target of rapamycin(Akt-mTOR)経路の活性を阻害する20)。
骨格筋組織においては、温度感受性チャネルであるTRP チャネル(Thermo-TRPs)が存在する。哺乳類ではThermo-TRPs のうち9種類のチャネルをもち、それぞれのチャネルが様々な活性閾値を持つことが報告されている21)。Thermo-TRPs に含まれるTransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)は43℃の高温環境下で活性化することが報告されている22)。さらにTRPV1に対する持続的な温熱刺激は開口率を上昇させるため、しばしば43℃以下においても活性化を認める。カプサイシンはTRPV1のアゴニストであり、カプサイシンを介したTRPV1の活性化は、細胞内におけるCa2+ の異常な蓄積を誘発しTRPV1を脱感作させることが報告されている23)。TRPV1は酸性化においても活性化し、pH 依存性に活性閾値が変動する24)。TRPV1は細胞膜とSR 膜上に存在することが、マウス筋管細胞において確認されている25)。一方、成体マウス26)やラット27)の筋線維では、細胞膜上には発現が確認されず、SR 膜上においてのみ TRPV1が存在することが報告されている。
[Ca2+]i は細胞膜外からのCa2+ 流入またはミトコンドリアやSR 内の細胞内Ca2+ 貯蔵庫からの流出によって増加する。図2に示したようにラットを用いたin vivo バイオイメージングモデル実験では、筋組織への40℃の温熱刺激20分後に[Ca2+]i の有意な上昇が確認された28)。この観察結果はTRPV1阻害薬であるカプサゼピン(CPZ)によって抑制された。これらの実験結果は、温熱刺激誘発性の[Ca2+]i の上昇がSR 膜上のTRPV1に依存する現象であることを示している。

ラットin vivo バイオイメージングモデルにおける温熱負荷(40℃)時の骨格筋細胞内Ca2+ 濃度変化 対照群(CONT)、温熱刺激群(Heat 群)、温熱刺激+ TRPV1阻害剤投与群(Heat +CPZ 群)における安静時(-10分時、0分時)から40℃の温熱負荷(10分時、20分時)によるCa2+ 濃度変化を示す画像データ。Heat 群では筋線維毎にCa2+ 濃度が増加する動態(赤色を帯びている)を示したが、Heat +CPZ 群では完全にその動態が抑制された。(文献28)より、著者ら改変)
間質相互作用分子(STIM)タンパク質は、SR膜上に存在するシグナル伝達タンパク質として、多くのチャネル、トランスポーター、シグナル伝達分子と相互作用する29)。STIM タンパク質はTRP チャネルと同様に膜貫通型チャネルである。STIM タンパク質に含まれるSTIM1はSR に貯蔵されたCa2+ の枯渇を感知し、細胞膜上のCa2+選択的なOrai1チャネルを介して細胞外空間からCa2+ を取り込む30)。これはSR 内のCa2+ を再充填する1つのメカニズムであると考えられている。 STIM1/Orai1は、温度活性化カチオンチャネルとしての可能性も示されている。例えば、Hela 細胞を用いた単一細胞Ca2+ イメージングでは、STIM1は35℃以上で活性化し細胞内へのCa2+ 流入を引き起こすことが実証された31)。さらに、STIM1を介したCa2+ の流入は、非選択性Ca2+ 透過性チャネルであるTRPC チャネルを活性化するという知見もある32)。Yuan らが作成したSTIM ノックアウト細胞モデルでは TRPC3、TRPC5にチャネルの活性化が阻害された32)。STIM1/ORAI1依存性Ca2+ シグナルは、骨格筋の最適な発達ならびに張力機能において重要であることが示されているが33)、温熱刺激に対する応答性については直接的な証明がなされていない。
3. Ryanodine receptor 1(RyR1)骨格筋の機能は運動のための収縮力を生み出すことであり、収縮と弛緩は[Ca2+]i の急速な変化によって制御されている。筋線維膜では横行小管(transverse tubule)の電位センサーであるジヒドロピリジン受容体(DHPR)とリアノジン受容体1型(RyR1)Ca2+ 放出チャネルの連携によって収縮が開始する。筋小胞体は、SERCA(sarco/ endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase pump)によるCa2+ 取込によって効率的に輸送が行われるため、収縮によってSR 内のCa2+ が枯渇することはない34)。筋収縮では、筋細胞内の温度が40℃を超えることが確認されており35)、筋収縮時はRyR1とTRPV1のそれぞれが活性化される可能性がある。Lotteau らはTRPV1由来のCa2+ がRyR の活性化を調節するTRPV1/RyR クロストーク説を提唱している26)。この機構は、TRPV1からのCa2+放出による[Ca2+]i の上昇が相乗的にRyR からのCa2+ 放出量を増大させることを示唆している。一方、Ikegami らは、ラットin vivo モデルにおいて、RyR1阻害薬であるダントロレン(DAN)負荷によって温熱刺激による[Ca2+]i の上昇は阻害されないことを報告している28)。つまりLotteau らとは対照的に温熱刺激誘発性の[Ca2+]i の上昇は RyR に由来せず、TRPV1に依存するという知見を提示した。さらに、Ikegami らは、温熱刺激による[Ca2+]i 増加の反応が筋収縮によって減弱するという結果を報告している28)。現在まで、筋収縮とTRPV1の脱感作のメカニズムは不明であるが、 TRPV1は長時間または繰り返し活性化すると脱感作が生じることが報告されており、そのプロセスは[Ca2+]i に依存する36,37)。Docherty らの研究によるとラットの背根神経節ニューロンにおいてCa2+ およびカルモジュリン阻害剤を投与した群においてTRPV1の脱感作応答は減弱することが報告されている38)。これらのことから、温熱刺激によるTRPV1からのCa2+ の放出と筋収縮によるRyRからのCa2+ の放出によって細胞内におけるCa2+ の過剰な蓄積が生じた場合、TRPV1の活性化は抑制を受けることが考えられる。TRPV1/RyR1クロストークについて不明の点が多く残されているものの、図3に示されたように、筋収縮依存性の熱発生では、TRPV1の抑制機構が存在することが予想される。筋収縮時のTRPV1/RyR1クロストークは、Ca2+ 恒常性を保ち、筋収縮機能を維持することに貢献する。さらに、これらの機構は暑熱環境下の運動持続を可能にする生体システムとして注目される。

温熱刺激と筋収縮の組み合わせが骨格筋細胞内Ca2+ 恒常性を維持する機構 筋収縮時の細胞内温度はCTransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)の活性化閾値を超える。したがって、筋収縮時は、TRPV1とリアノジン受容体(ryanodine receptor 1: RyR1)の両方を活性化させる可能性がある。しかしながら、筋収縮と温熱刺激を同時に負荷した実験では、TRPV1の不活性化によって筋細胞内のCa2+ 恒常性を維持する機構が作用する。この作用機序として、1.RyR と TRPV1の直接的なクロストーク、2.TRPV1に対するカルシニューリンや AMPK(Adenosine monophosphate-activated protein kinase)による抑制的なフィードバック経路の関与が考えられる。
温熱負荷時の[Ca2+]i の上昇はSERCA によるCa2+ 取り込み量の減少が寄与することも報告されている。温熱負荷時のSERCA の機能障害によりSR のCa2+ 蓄積量が減少することが実証されている39)。このSERCA の機能障害は温熱刺激によって産生される活性酸素種(ROS:Reactive oxygen Species)が関与する。これまでラットin vitro モデルにおいて、46℃の熱を5分間処置した摘出骨格筋では、ROS 産生が30倍程度も増加することが報告されている40)。熱によるSERCA 機能障害は、抗酸化剤であるTiron を添加すると減弱することが確認されていることから、温熱刺激時のROS 産生はCa2+ 恒常性に深く関与している39)。
ヒト、動物、細胞レベルの研究により40℃以上の温熱刺激が筋肥大を誘発することが報告されている4),5),6),7)。骨格筋肥大を誘発するタンパク質合成において重要な細胞内シグナルであるAkt-mTOR 経路が温度依存的に活性化することから41)、温熱刺激が誘発する骨格筋肥大はAkt-mTOR 経路を介する可能性がある。CaM 結合タンパク質であるカルシニューリン(CaN)は、温熱刺激によって増加して筋肥大を誘導することが報告されている5)。さらに、ヒト骨格筋においてレジスタンス運動後の温熱刺激がAkt-mTOR シグナル伝達を亢進させることから42)、温熱刺激とレジスタンス運動の組み合わせはより効率的な骨格筋肥大方法である可能性がある。
除神経モデルマウスに対して40℃の温熱刺激を慢性的に暴露した(1日1回30分:計8回)実験では、除神経による筋萎縮が抑制された43)。この実験では温熱刺激によって除神経誘発性のオートファジーが抑制されたことも報告しており、温熱刺激が外傷性神経損傷誘発性の筋萎縮に対して有用である可能性を示唆している。
糖尿病は骨格筋萎縮を引き起こし、筋疲労を増大させる44)。これまでの研究でSR からの細胞内へのCa2+ 放出量の減少により[Ca2+]i 恒常性が損なわれることが糖尿病誘発性筋萎縮を誘発する可能性が示唆されている45)。Nonaka らはストレプトゾトシン(STZ)モデルラットを使用して温熱刺激が糖尿病誘発性筋萎縮の治療に有用であるかを検証した46)。この実験では42℃の温熱刺激を負荷した後(1日1回30分:週5回を3週間)長趾伸筋(EDL)において糖尿病誘発性筋萎縮が抑制され、温熱刺激が糖尿病性の筋萎縮を抑制することを示唆している。しかしながら、STZ 投与ラットにおいて、骨格筋内の TRPV1のタンパク質量の減少と温熱刺激に対する TRPV1の感受性の低下が報告されている47)。さらに、温熱刺激に対して、[Ca2+]i が増加しにくいことが確認されている。したがって、糖尿病モデルの温熱療法には、このようなTRPV1のチャネル特性を考慮する必要性があるだろう。
2. 骨格筋の再生応答これまでの研究により、温熱刺激は骨格筋再生を促進することが報告されている。Takeuchi らの研究によると、圧挫損傷直後に温熱刺激を負荷したラットではマクロファージの移動、衛星細胞の増殖および分化が促進された48)。さらにブビパカインを投与し骨格筋損傷を誘発したラットでは、温熱刺激暴露群において筋再生の指標であるPax7陽性核の数が増加した49)。温熱刺激が誘発する骨格筋再生におけるメカニズムにおいてもカルシニューリン(CaN)が注目されてきた。CaN は再生筋に非常に多く存在し、温熱刺激によって活性化することが示されている49)。一方、CaN 阻害薬の投与は筋損傷からの再生プロセスにおいて未成熟な筋管形成、石灰化、炎症応答などの誘導することが指摘されている50)。これらの知見を統合すると温熱刺激によって活性化したCaN が骨格筋の再生プロセスに効果的な役割を持つ可能性が考えられる。
3. ミトコンドリア量の制御温熱刺激は、ミトコンドリア遺伝子転写カスケードを活性化し、マウスの骨格筋においてミトコンドリア量の増加と酸化能力の向上を誘導する51)。温熱刺激によるミトコンドリア量の増加にはTRPV1の活性化が関与している可能性がある。TRPV1のアゴニストであるカプサイシンを食餌によって摂取したマウスでは、PGC-1α発現が増加し、ミトコンドリア生合成を促進して持久性運動能力を高めることが報告されている25)。これらの適応現象はTRPV1欠損マウスでは見られなかった。したがって、持続的なTRPV1活性化による継続的なCa2+ 放出はCaMKII を活性化し、p38MAPK のリン酸化を介してPGC-1αの転写レベルを高める経路が考えられている52)。熱ストレス誘導性分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)72の過剰発現は、マウス骨格筋のミトコンドリア量を増加させることが報告されている53)。TRPV1遮断は熱ショック因子1(HSF1)の核内移行を抑制してHSP70発現を減弱する54)。骨格筋組織において、 TRPV1活性化とHSP 発現の関係性には不明の点が多いが、温熱刺激は、TRPV1活性化ならびにHSP発現を介して、ミトコンドリアの生合成を高めることによって有酸素能力を亢進する骨格筋適応を導くことが考えられる。
骨格筋への温熱刺激は、運動トレーニングが誘導する骨格筋適応と類似した筋肥大やミトコンドリア量の変動を導くことが明らかにされてきた。運動トレーニングと温熱刺激の共通点は細胞内Ca2+ 恒常性の変化を誘導することである。そのため本総説では、温熱刺激に対する細胞内Ca2+ 恒常性と骨格筋適応の関係に焦点を当てた。しかしながら、温熱下の細胞内環境とCa2+ 恒常性について未解明な点が多く残されている。その理由として、Ca2+ 恒常性に関係する生体システムの多様性があり、実際に生体内には非常に多くの種類のCa2+ 制御チャネルや細胞内Ca2+ 結合タンパク質が存在している。温熱刺激に着目しても熱刺激を感知するチャネルは複数存在し、さらに化学的および物理的刺激のセンサーとして28種類のCTRP チャネルタンパク質が発現することが哺乳類において確認されている55)。本総説が着目したTRPV1-RyR1というCa2+ チャネル間のクロストークについても温熱応答に関して未解明な点が多く残されている。さらに、骨格筋組織への温熱刺激は、筋細胞に加えて、組織内の神経や血管系を構成する他の細胞種との相互関係性を解明することも必要となってくる。
最近、温熱刺激とは対照的に筋組織への冷却刺激が細胞内Ca2+ レベルを増加させることが明らかにされ56)、冷却刺激の繰り返しによって、筋細胞の増殖や肥大を誘導する可能性がラットモデルにおいて報告されている57)。温熱と冷却刺激という細胞において全く異なる細胞内の温度環境変化によって、共通した筋肥大の骨格筋適応が導かれる点は興味深い現象である。また、細胞内Ca2+ チャネルは、カフェインやカプサイシンのような薬理的な作用を受けるため、温熱や冷却などの物理的な刺激と薬理作用物質との組み合わせによって骨格筋適応が異なる可能性も考えられる。
さらに、温熱刺激の対象となる個体の特性にも注目する必要がある。例えば、糖尿病モデルでは、細胞内Ca2+ 恒常性や熱感知機構が変化している45),47),58)。また、細胞内Ca2+ 恒常性には性差59)やエイジング60)の影響が報告されている。したがって、温熱刺激を利用した骨格筋適応の臨床応用は、これらの視点を包括的に考慮して実施されるべきである。さらに、臨床へのプログラムの確立のために、温熱刺激プロトコール、薬物との併用、対象となる個体の特性などに関する基礎的な知見を積み重ねる必要性がある。