2025 年 3 巻 p. 3-9
第3回和温療法学会学術集会の会長講演において、和温療法の理論的背景、多面的効果とその機序、今後の研究課題などについて講演した内容を要約して報告する。和温療法の効果があった患者さんの話や所見から和温療法の多面的効果が生まれた。和温療法の多彩な臨床効果として鹿児島大学から慢性心不全、血管不全、下肢動脈疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、軽症うつ、慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群に関する論文発表し、術後イレウス、膠原病の皮膚潰瘍、血液透析患者の皮膚?痒症にも和温療法の効果を確認している。和温療法の多面的効果の発現機序について、我々は温熱刺激、一酸化窒素、ヒートショックプロテインを介する機序を報告してきたが、温度感受性 TRP チャネルも多くのチャネルを有するため、和温療法や温泉の多様な効果の機序の一部を担っていると考えられる。患者さんから学ぶ姿勢を通じて、多彩な効果を有する和温療法が、予防医学から疾患治療やリハビリまで幅広く、さらに発展することを期待している。
This report summarizes the content of the keynote lecture delivered at the 3rd Annual Scientific Meeting of the Society of Warm Therapy, covering the theoretical background of Waon therapy, its multifaceted effects and mechanisms, and future research topics. The multifaceted effects of Waon therapy emerged from the experiences and findings of patients who responded positively to this therapy. As diverse clinical effects of Waon therapy, we have published many papers concerning chronic heart failure, vascular insufficiency, lower limb arterial disease, chronic obstructive pulmonary disease (COPD), mild depression, chronic pain, fibromyalgia, and chronic fatigue syndrome from Kagoshima University. The efficacy of Waon therapy has also been confirmed for postoperative ileus, skin ulcers in collagen diseases, and pruritus in hemodialysis patients. Regarding the mechanisms underlying the multifaceted effects of Waon therapy, we have reported pathways involving thermal stimulation, nitric oxide, and heat shock proteins. The temperature-sensitive TRP channels possess numerous subtypes, and they are also thought to contribute to some mechanisms of the diverse effects of Waon Therapy. Through our commitment to learning from patients, we anticipate that Waon therapy with pleiotropic effects will continue to evolve broadly from preventive medicine to disease treatment and rehabilitation.
2024年11月10日、鹿児島市にて開催された第3回和温療法学会学術集会において、「病者を師と為す和温療法:多面的効果の原点」と題して、会長講演を行った。本稿では、私が和温療法に携わってきた経験から、和温療法の理論的背景、多面的効果とその機序、今後の研究課題などについて講演した内容を要約して報告する。
和温療法は、鄭先生や田中信行先生らによって、鹿児島大学霧島リハビリテーションセンターで1989年12月に開始された。鄭先生が、1998年10月に鹿児島大学医学部第一内科第五代教授として着任し、第一内科で和温療法の臨床応用と研究が開始された。田中先生、鄭先生や私が所属していた第一内科の第2代教授の桝屋冨一先生は、「須為師病者」(須らく病者を師と為すべし)と書を残されており、教室のモットーであった。和温療法が、「死ぬ前にお風呂に入りたい」という重症心不全患者の願いから始まり、和温療法の効果があった患者さんの話や所見から和温療法の多面的効果が生まれた。このように、和温療法の多面的効果は、「須為師病者」という第一内科のモットーが原点にあると考え、本学会のテーマや会長講演の演題を「病者を師と為す和温療法:多面的効果の原点」とした。
鄭先生が第一内科の教授に着任し、間もなく入院された拡張型心筋症による重症心不全の症例を紹介する。この患者は、心不全により入退院を繰り返し、大動脈バルーンパンピング(IABP)の離脱が困難となり紹介された。和温療法を開始後、全身血管抵抗や平均肺動脈楔入圧が低下し、心拍出量が上昇するなど血行動態の改善が見られ、重症僧帽弁逆流に対する僧帽弁置換術を行い、最終的には IABP の離脱に成功した。この症例を契機として、和温療法の重症心不全に対する効果が医局員に広く認知され、和温療法の臨床応用や研究が進められた。
2. 下肢動脈疾患閉塞性動脈硬化症(ASO)を合併した心不全患者さんが、和温療法目的で入院していたが、心不全とともにASO の症状も改善した。当時、この効果に驚いたが、和温療法の血管内皮からの一酸化窒素(NO)の産生が示唆されており、NO の血管新生作用からASO が改善するとの機序が想起された。
次に、ASO で重症の皮膚潰瘍を伴った64歳男性患者の治療例を紹介する。本患者は、ASO により右下肢の第1趾から4趾までを切断したが、切断後の皮膚潰瘍が大きく、右下肢切断を勧められていたものの、和温療法の効果を知り、関東から鹿児島大学に入院した。入院時は、5cm 程度の深い皮膚潰瘍があったが、4か月の入院による週5回の和温療法で、皮膚潰瘍は閉鎖し、間欠性跛行も消失し退院した。退院後は、鹿児島に移住し、歩行による通院も可能で、外来での週2回の和温療法を継続し、皮膚潰瘍は増悪することはなかった1)。
3. シュエーグレン症候群患者の唾液分泌促進効果シュエーグレン症候群を合併した心不全患者が、和温療法中から唾液が出るようになった。その後も和温療法開始前は口腔内が乾燥し、しゃべるのも困難であったが、和温療法の最中から唾液が分泌され、しゃべるのも滑らかになった。和温療法による唾液分泌促進効果は、温熱刺激後、副交感神経が活性化され唾液分泌が増加したと考えられる。
4. 和温療法が有効な疾患和温療法の多彩な臨床効果は、鄭先生を中心に鹿児島大学から慢性心不全、血管不全、下肢動脈疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、軽症うつ、慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群に有用であることを論文発表してきた(表1)2), 3), 4), 5), 6), 7), 8), 9), 10), 11), 12), 13), 14), 15), 16), 17), 18), 19), 20)。本学術集会のシンポジウムでは「鹿児島からの情報発信」のテーマで、これらの原著論文の筆頭著者の今村正和先生、新里拓郎先生、宮内孝浩先生、桑波田聡先生、梅原恵先生に、また、ランチョンセミナーで「心身医療における和温療法の有用性」と題して増田彰則先生に発表頂いた。これらの疾患以外にも、術後イレウス、膠原病の皮膚潰瘍、血液透析患者の皮膚搔痒症にも和温療法の効果を確認している。
和温療法の多面的効果の発現機序について、我々が明らかにしたことに加え、今後検討すべき機序についても述べる。
1. 温熱刺激和温療法の効果発現機序として、温熱刺激による血管拡張から末梢血流量増加と温熱刺激によるエンドルフィンやグレリンの分泌、自律神経調節からのリラクゼーションの2つの系により、和温療法の多面的効果が促進されると考える。更に、基礎的な機序としては、温熱刺激の血管拡張と血流拡張による「ずり応力」を介した内皮からの NO産生とヒートショックプロテインや温度感受性 TRP(transient receptor potential)チャネルの関与が重要な働きを担っていると考える。(図1)

和温療法の多面的効果の発現機序
温熱刺激により血管は拡張し、心拍出量も増加し、循環血液量は増加するが、動静脈シャントの開大により循環血液量の増大に順応している。和温療法により末梢循環血液量が1.5倍に増加していることを確認しているが、血流量の増加により内皮細胞にずり応力がかかり、血管内皮細胞における内皮型 NO 合成酵素(eNOS)が活性化され、血管内皮から NO が産生され、血管平滑筋が弛緩し、血管が拡張する。この内皮から産生される NO は、抗動脈硬化作用に加え、血管新生作用もあり、末梢動脈疾患や膠原病の皮膚潰瘍にも和温療法が有効である機序の1つと考える。動物実験において、和温療法により eNOS が活性化されることを mRNA と蛋白レベルで確認し21)、さらに、下肢虚血モデルマウスにおいて、和温療法による NO を介した血管新生作用を報告している22)。(図2)

下肢動脈疾患マウスにおける和温療法のずり応力と Hsp90を介した血管新生 引用文献22と24の結果から作図
ヒートショックプロテイン(Hsp)は、熱刺激により発現が誘導・亢進する蛋白質で、熱などの外界環境から受ける様々な刺激に対応して、生体防御機能を発揮するストレス応答蛋白である。Hspは分子量により多くの分子多型を有し、Hsp90は Akt と eNOS を活性化して血管新生に関与、Hsp70は抗動脈硬化作用、Hsp60は動脈硬化や心疾患の急性期に上昇、Hsp32は酸化ストレス軽減作用、 Hsp27は抗酸化ストレスや抗アポトーシス効果が報告されている。これらの Hsp の分子多型が温泉や温浴、和温療法の多面的効果に重要な役割を担っている。
我々は、心不全モデルマスにおいて、和温療法による温熱刺激が Hsp27や Hsp32の発現を介して酸化ストレスを軽減することを報告した23)。また、下肢虚血モデルマウスにおいて、和温療法の温熱刺激により Hsp90が AKT をリン酸化により活性化し、活性化された AKT が eNOS のリン酸化により活性化され、NO を産生し、血管新生を促進することを明らかにした24)。(図2)
4. 温度感受性 TRP チャネル温度感受性 TRP チャネルは温熱刺激を感知し、活動電位や Ca2+ 依存性細胞応答を引き起こし、痛みや痒みの受容に関与する。温度感受性 TRPチャネルファミリーとして、transient receptor potential vanilloid(TRPV)や transient receptor potential melastatin(TRPM)などの7つのサブファミリーが存在する。さらに、TRPV には TRPV1~6の6種類、TRPM には TRPM1~8の8種類のチャネルが同定されており、様々な温度やカプサイシンやメントールなどの刺激物質の受容の役割を担っている。これらの TRP チャネルは、疾患との関連も報告されており、和温療法が関係すると思われる温度領域の TRP チャネルと疾患を表2にまとめた25)。炎症性腸疾患、膀胱機能異常、免疫異常、耐糖能異常、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病などの疾患は、今後、和温療法の効果が期待され、新しい適応疾患の拡大の参考になると考える。このように温度感受性 TRP チャネルも多くのチャネルを有するため、和温療法や温泉の多様な効果の機序の一部を担っていると考えられ、和温療法と温度感受性 TRP チャネルとの関連も研究する必要がある。
5. 温泉・温浴の多面的効果から紐解く和温療法の効果温泉や温浴には、疲労回復、冷え症改善、代謝亢進、美肌効果、ダイエット効果、免疫力亢進、運動能力向上、老化防止などの多面的効果が期待されている。温泉の効用に関しては、古来からの経験に基づき多くの効用が報告されており、温泉医学の多面的効果に和温療法の多面的効果のヒントがある。日本温泉気候物理医学会から温泉医学のエビデンスに基づいた「最新温泉医学」という本が出版されており、私も編集や執筆に携わったが、和温療法の多面的効果の臨床や研究に役立つと考える。但し、温浴と和温療法との違いとして、静水圧の影響を受ける心不全や下肢動脈疾患では和温療法が良いが、静水圧や浮力による物理作用は和温療法にはないので、その違いは理解して応用、検討する必要がある。
私は、鹿児島大学医学部保健学科の教授になってから、高齢者比率が43% と高い鹿児島県垂水市のコホート研究にも注力し、健康寿命延伸を目指したヘルスプロモ─ション科学も研究している。老化には、動脈硬化に加え、フレイル、サルコペニア、認知症、骨粗鬆症、歯周病などが関与しているが、運動のできない高齢者のフレイル、サルコペニア、認知症に対する和温療法の効果の検討は、今後の重要な研究課題と考える。
和温療法は、多面的効果を有する医学的手法であり、予防医学から疾患治療やリハビリまで幅広く貢献可能である。症例報告の蓄積や基礎的研究の進展を通じて、さらなる発展が期待される。本稿を通じて、今後の和温療法の医学研究の発展の一助になり、研究活動においても、「病者を師と為す」という理念を忘れることなく、患者さんの声を活かしながら取り組むべきと考える。「病者を師と為す」という理念を基盤に、患者さんから学ぶ姿勢を通じて、和温療法のさらなる発展を期待している。
和温療法の基礎および臨床研究にご指導、ご協力いただきました鄭忠和先生、鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学関連の池田義之先生、赤﨑雄一先生、宮内孝浩先生、窪薗琢郎先生、新里拓郎先生、藤田祥次先生、桑波田聡先生、今村正和先生、大石充先生、木原ハートクリニッの木原貴士先生、増田クリニックの増田彰則先生、大井病院の梅原恵先生、Tsukasa Health Care Hospitalの枇榔貞利先生に心から感謝申し上げます。