抄録
近畿地方に自生するイネ科雑草52種 (Table 1) を採集し, 葉身の表皮系の構成組織である気孔装置について, 常法のスンプ法により陰画をとり, 主として光学顕微鏡下での写真撮影によりその形態及び分布を調べた。
1) 気孔装置の大きさが同属内の種間で, 染色体数の倍数化と共に大となる傾向は, エノコログサの3種及び, ウシノケグサ属, スズメノテッポウ属の一部の種間において明らかにみられた。しかし, 他の属内では明らかでなかった (Table 2)。
2) イネ科雑草の気孔装置は, 全体としてよく似た外形を示したが, 一部の種の副細胞は亜鈴形で他の長楕円形とは異っていた。また, 同一種では葉身の上表皮と下表皮で気孔装置の形がほとんど変らず, 大部分の種においては, その大きさも同じであった。しかし, 一部の種では上表皮と下表皮の気孔装置の長径に明らかな差がみられた (Fig. 1, 2)。
3) 葉面の気孔装置の大きさ (長径) と分布密度との間には, γ=-0.52で1%レベルの有意な逆相関が認められた (Table 2, Fig. 3)。
4) 葉身の単位表面積あたりの気孔数は, C4植物の方がC3植物よりも明らかに大であった。また, 調査52種の範囲でC3植物では, 気孔がチヂミザサを除くほとんどの種で, 下表皮よりも上表皮に多く分布していた。これに対しC4植物では, 上表皮に多い種も下表皮に多い種もあった。その極端な例として, 上表皮にのみ分布するC3植物のトボシガラやナギナタガヤ, ウシノケグサ, オオトボシガラと, 下表皮に非常に多く分布するC4植物のメリケンカルカヤ, ススキなどがあげられた (Fig. 3, 4)。