雑草研究
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異なる高度における水田多年生雑草オモダカ (Sagittaria trifolia L.) の再生産効率の変異について
山河 重弥
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1998 年 43 巻 3 号 p. 230-236

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抄録

本研究は若狭湾から紀伊半島南端までのほぼ経線沿いの近畿地方を中心とした地域から採取したオモダカにおける再生産効率の変異およびその生育地に対する適応性について調査検討したものである (Fig. 1およびTable 1)。実験材料は海抜高度10mから610mにわたった20ヶ所の水田から採取した。
各系統の現存量と採取地の高度および地表の形態との間には明らかな関連性が認められた (Fig. 2)。一般に, 高度が高いほど現存量の最高値は小さくなる傾向が認められた。また, 日照が山陰で遮られる狭い谷間で水温の低い用水を使用する棚田由来系統の現存量は特に小さかった。高度および地表の形態は生育するオモダカに与えられる光量に大きく影響するものと思われ, 受光量の差異により個体サイズのクラインが形成されているものと推察された。
オモダカの2種類の繁殖体, 種子および塊茎の再生産劾率と個体現存量の関係は全く異なっていた (Fig. 3および4)。種子の再生産効率と現存量の間には明瞭な関係は認められなかったが, 塊茎は明らかな負の相関関係を示し, 高度が低い地域由来の大型の個体は栄養繁殖への投資率が低いことが示された。
オモダカは低高度地域では, 受光量は多いが, 最大の競合者である水稲との競合に対して高いエネルギー投資が必要となるため, 塊茎への再生産効率を低くしている。一方, 比較的高い高度の地域では, 受光量は少ないが, 水稲の生育も低高度地域に比べ旺盛ではないので競合に対する高い投資を必要としないため, 高い塊茎への再生産効率を確保している。従って, 主たる個体群維持の手段である塊茎への再生産効率が生育地の物理的・生物的両条件に適応的であることが示唆された。また, 塊茎の大きさと個数の関係においても, より高い競合力が必要とされる低高度地域では, 比較的少数の大型塊茎を生産し, 高い高度の地域では, 比較的小型の多数の塊茎を生産することによって, 個体群の維持を図っており, 生育地の環境条件に適応的であることが示された (Fig. 5)。

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