雑草研究
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畑雑草種子の生存に及ぼす加熱時間の影響
西田 智子黒川 俊二柴田 昇平北原 徳久
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1999 年 44 巻 1 号 p. 59-66

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抄録

現在, 草地・飼料畑で大きな問題になっている外来雑草の侵入経路の一つとして, 雑草種子の混入した輸入濃厚飼料が家畜に採食され, 糞が堆廐肥として圃場に還元される過程で, 生存したままの種子が圃場に散布されることがあげられている。家畜の消化作用ではすべての種子を死滅させることは不可能なため, 堆肥製造過程で雑草種子を死滅させることが, 外来雑草を蔓延させないために必要である。堆廐肥中の雑草種子は, 堆肥の最高温度が約60℃以上になれば, 発芽力を失うことが明らかにされているが, 温度の持続時間と種子の死滅率の詳細は不明である。そこで, 本実験は, 55及び60℃において, 雑草種子がそれらの温度にさらされる時間と死滅率との関係について調査した。
10種類の畑雑草種子 (ワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, イチビ, ヨウシュヤマゴボウ, ハリビユ, ホソアオゲイトウ, オオイヌタデ, オオクサキビ, イヌビエ及びメヒシバ)を, 15℃暗条件で24時間吸水させた。種子の吸水率は6~60%の範囲であった (Table 1)。これらの種子について, 55℃及び60℃の処理で, 死滅率が100%となる時間を調査した。イチビを除く9種類の雑草は, 55℃で72時間, 60℃で24時間処理すれば全ての種子が死滅した。イチビ (休眠率80%) については, 55℃では120時間, 60℃では30時間の加熱が必要であった (Table 2)。
調査した10種類の雑草の加熱耐性を, 短時間の熱処理に対する耐性 (SDHT) と, 長時間の熱処理に対する耐性 (LDHT) とを組み合わせて分類した。SDHTは60℃3時間処理での生存率により, 50%を境に低及び高耐性の2群に分けた。LDHTは, 60℃処理において1%の有意水準で生存率0%と差が無くなるまでにかかった処理時間により, 低, 中, 高耐性の3群に分類した。その結果, SDHT, LDHTともに低いオオイヌタデ, メヒシバ及びイヌビエ (第1群), SDHTが低くLDHTが中位のハリビユ及びオオクサキビ (第2群), SDHTが高くLDHTが中位のワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, ヨウシュヤマゴボウ及びホソアオゲイトウ (第3群), SDHTが低いがLDHTの高いイチビ (第4群) の4群に分かれた (Table 3)。第1, 2及び4群は, 短時間の熱処理で高い死滅率を示すが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれぞれ異なるといえる。また, 第3群は, 短時間の熱処理では生存率が高いが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれほど長くない群である。
調査した10種類の雑草種子を死滅させるための時間はイチビ種子の死滅を目安として設定すればよいと考えられたので, イチビについて, プロビット法によりLD90となる時間の95%信頼区間を計算した。その結果, 55℃では42~58時間, 60℃では10~17時間となった (Fig. 1)。
本実験の結果と既往の堆廐肥の発酵温度に関する報告とからみて, 堆廐肥が順調に発酵した場合は, イチビを含むすべての種子が死滅する温度と時間を確保できるといえる。

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