2023 年 13 巻 p. 75-83
2 種のモウセンゴケ属植物(モウセンゴケ,トウカイコモウセンゴケ)の分布と各生育地の土壌水環境との関係を,湧水に涵養される小規模な湧水湿地(岐阜県可児市)での土壌水分の連続観測と水質の測定に基づき検討した.現場測定した誘電率から換算した土壌含水率(体積含水率)の変動は2種の分布の相違と明瞭な関連を示した.モウセンゴケは含水率0.4 m3 m-3 以上の状態が恒常的に維持される湿潤な環境に,またトウカイコモウセンゴケは少雨期には0.1 m3 m-3 以下になる乾燥した環境に生育していた.2 種の生育場から採集された土壌からの抽出水のイオン組成には,恐らく乾燥化による塩分集積のために差が認められ,特にK+,NH4+ の濃度がトウカイコモウセンゴケの生育地区で相対的に高かった.土壌含水率及びその日変動,現場の土壌からの抽出水のイオン組成の比較からは,少雨期にはモウセンゴケに供給される水は湿地上部に浸透した雨水由来の滲出水に,トウカイコモウセンゴケは難透水層下部の湿った層からの吸い上げや露により涵養されている可能性がある.