湿地研究
Online ISSN : 2434-1762
Print ISSN : 2185-4238
与那国島の放棄水田における埋土種子相の把握事例
徳江 義宏 藤村 善安今村 史子城野 裕介
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2024 年 14 巻 p. 53-60

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抄録
日本全国で水田面積は減少傾向にあり,生物多様性や生態系サービスの損失が進んでいる.沖縄県の与那国島ではかつて水田が広く分布していたが,近年,耕作放棄で水田面積は大きく減少し,湿地性の動植物の生息環境は減少した.本研究では,与那国島の湿地性の植物の保全・再生の可能性を検討するため,島内の放棄水田の土壌中の埋土種子相を把握した.耕作放棄年代の異なる6 箇所の放棄水田で土壌を採取し,あわせて現地で採取した場所の地上植生を記録した.室内において常時湿潤,湛水0 cm,湛水5 cm と水位を変えた条件で,持ち帰った土壌をポットに撒き出して,発芽した種を記録した.実験の結果,地点によって,埋土種子から発芽した種数や個体数にはばらつきがあったが, どの地点においても湿地性の種が確認された.埋土種子から確認された種の組成は地上部とは異なっており,絶滅危惧種などの貴重な種も確認された.また,水深を深くすると種数は減少したが,湿性,水生の生育立地の種が占める割合が高くなった.ただし,長期にわたって耕作放棄された場所では,埋土種子から発芽した湿地性の種の個体数は明らかに少なく,耕作放棄後の時間経過によって種子の発芽能力が失われている可能性があると推測された.耕作放棄後の経過年数には考慮する必要があるものの,放棄水田となった場所で土壌を耕起することで湿地性の種を再生させることが可能であると考えられた.
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© 2024 日本湿地学会
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