抄録
宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼の湖岸植生を対象に,1976 年と2012 年に撮影された空中写真を用いてその変遷について分析した.1980 年に生じた洪水の影響で,岸際に分布していたマコモ群落は激減し,その後の高水位管理にともなう浸食等により群落は消失していた.また,ヨシ群落の一部も浸食によって岸際側から消失していた.この結果,沼の湖岸植生全体の面積は1976 年の122.3 ha から59.9 ha に半減した.1970 年代以前の沼の湖岸は,水田を中心に,ヨシやマコモ,アシカキやジュンサイなど地域住民が資源として利用する二次的自然環境で構成されていた.しかし,湖岸が公有地化された後は,水田跡地を中心に樹林化した.このような湖岸植生の変化にともない,伊豆沼・内沼
では生態系への影響や,沼と地域社会との関わりの減少といった問題が生じている.伊豆沼・内沼の自然再生事業では,これらの問題の解決に向けて,さまざまな観点に基づき湖岸植生を適切に管理していくことが重要だと考えられた.