抄録
船舶火災の出火場所は機関室系が約57%を占め、その出火源としては燃料常用タンクから溢出した油、機関燃料管などからの噴出油などに対する機関排気管の高温暴露部、発電機や電線のショートによる発火などが多くを占める。このように機関室火災では、設備的な要素と油類が事故の素因、誘因、拡大要因をなすことが多く、油の燃焼、特にプール(液面)燃焼に基づく火災拡大現象を十分に把握しておく必要がある。ただ、プール燃焼は油面への熱放射を主体とする伝熱による液面蒸発が支配要因であり、その燃焼と発煙状態は固体可燃物とは機構が異なるために、油火災は固体可燃物による一般的な火災現象とは大きく異なる。機関室火災に対する防火・消火・避難対策のためには、プール燃焼の特性、発煙特性、火災拡大条件および煙流動現象の把握を行い、火災時の機関室内気流予測を行って、火災感知器の取付け位置や避難経路を策定する必要がある。
本研究では、機関室火災における防火・消火や避難などの火災安全対策の策定の基礎とするため、灯油と軽油を用いたプール燃焼時の煙生成と煙濃度(重量濃度、減光係数、煙量)に関する計測実験を行った。計測実験では、CdSセルによる減光係数の測定、ローボリュームサンプラーによる重量濃度の測定等を行った。実験結果から、1)燃焼量と重量濃度の関係、2)燃焼量と煙量の関係、3)重量濃度と煙量の関係、4)重量濃度と減光係数の関係を調べた。
これにより、煙感知や避難・消火時の視程などに係わるデータを得て、以下のことが明らかになった。
1) プール燃焼における煙の重量濃度および煙量は、燃焼量が増加して乱流炎領域に達すると指数的に増加する。
2)火炎が乱流域近くになると、粒子径の大きい、いわゆる煤が飛躍的に増加する。
3)煙の重量濃度が増加すると減光係数も大きくなるが、その値はある一定値に収束する。