抄録
本研究は呼称・契約期間・労働時間 3 つの要素によって雇用形態を分類し,各雇用形態の処遇と雇用形態間の移動性についての分析・考察を行った。既存の研究の多くが正規・非正規雇用間の処遇差を説明するにあたって呼称が重要であるとの立場をとっており,本研究においても呼称による説明力の大きさを確認した。
雇用形態間の移動性に関する分析においては,登用(同一企業内での非正規から正規への移動)に着目した。分析の結果,男性では正社員(呼称)であることが登用確率を上げる点,女性では雇用形態による直接の効果はないものの正社員(呼称)の中で賃金水準が高い者ほど登用確率が上がる点,登用後においても男女ともに正社員(呼称)からの登用者が高位に位置づけられる点など,ここでも呼称による説明力が示された。
しかしながら,非管理職に対する訓練状況や雇用形態間移動の一部の現象では,契約期間や労働時間による影響も観察された。労働政策が客観的な労働契約条件に依拠せざるを得ない状況をも鑑みれば,呼称・契約期間・時間の条件を橋渡し的に分析対象とする研究が今後求められる。また,改正労働契約法等の影響も含め,より長期的な分析が必要とされる。