抄録
社会人は人生において多くの出来事を経験しており,それによって価値観や意識などに変化がもたらされる。従来,そのような出来事は転機として検討されていたが,転機の経験パターンや転機によってもたらされる変化がキャリア意識に及ぼす影響について量的に扱った研究は少ない。そのため,本研究では,転機による心理的変化がキャリア意識に及ぼす影響を検討した。
その結果,転機による心理的変化では,「新しい仕事の価値観」「新たな問題意識」「仕事以外への関心」の3つの下位側面が導出され,人との出会いによる変化を転機として考える人は「新しい仕事の価値観」と「新たな問題意識」による変化が生じやすく,結婚や子どもの出産を転機として考える人は「仕事以外への関心」による変化が生じやすかった。また,昇進や昇格、挫折や異動などの環境の変化をもたらす転機では「新しい仕事の価値観」がキャリア意識を高める一方で,重要な人との出会いなどの内的な変化をもたらす転機では「新たな問題意識」がキャリア意識を高めることが明らかになった。本研究の結果から,転機の内容に加えて,転機をどのような変化をもたらした出来事と捉えたかによって,キャリア意識に及ぼす影響が異なることが示された。