文化人類学研究
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特集論文
環境を奪い合う
――マルタにおけるランドスケープ、ツーリズム、市民社会――
ジェレミー・ボワセベン
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2011 年 12 巻 p. 2-15

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抄録

 伝統的に、マルタ人は、おもしろみのあるカントリーサイドを、狩猟と農業にだけ適した未開の無人の地と見なしていた。1960年代半ば、マスツーリズムが到来して以来、カントリーサイドは観光地として開発され、ホテル、マンション、合法・非合法の建造物建設が進み、建築廃材の投棄場所ともなった。マルタには、恩顧主義的な政治文化があり、政治的依頼主に建築許可が与えられて乱開発が蔓延し、建築規制を実施に移そうとすると覆される。

 1980年代末、ヨーロッパ各地と同様、さまざまな形態の過去への郷愁がわき起こり、伝統的な景観のよさも多様な観点から評価されるようになった。そして、マルタの限られたカントリーサイドでも、観光客を誘致するために、さらには1990年代には、裕福な地元と外国の投機家と別荘所有者を惹きつけるために、商業的資源として開発されたが、その開発のされ方に異議が唱えられ始めたのである。

 現在では、20に及ぶ環境市民団体が存在し、入念な調査を基にした報告書、メディアを利用したキャンペーン、公の場での示威行動を通して、数多くの政府、民間による建築開発計画に異議を申し立て、中止に追い込んでいる。

 だが、新たに覚醒した市民社会の努力にもかかわらず、マルタはその環境を破壊され、地元および外国の投機家への[土地]売却は続き、アイデンティティの独自さと将来の世代に受け継ぐ財産を消し去り続けている。

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© 2011 現代文化人類学会
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