文化人類学研究
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特集論文 特集2 ともに書くことの公共人類学
境界線をめぐる運動体としての社会調査
――多文化共生に向けたパラエスノグラフィの試み――
箕曲 在弘
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2023 年 24 巻 p. 111-121

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抄録

 本稿では拙編著『新大久保に生きる人びとの生活史』[箕曲 2022]の出版に至るまでの過程を、1.5次エスノグラフィ[木村・内藤・伊藤 2020]の手法をもちいて記述することを通して、多文化共生に向けたパラエスノグラフィの可能性について検討する。とりわけ本稿では生活史という手法を選んだ理由、実習の進め方、書くことの意義、学生の学びの成果、商業出版を決定した理由に着目し、人類学者と非人類学者の協働のあり方を記述する。東洋大学社会学部の社会調査実習を担当していた筆者は、2017〜2019年の3年間、新大久保において外国ルーツの人たちへの生活史の聞き取り調査を行ってきた。当初この授業の成果物を商業出版する意図はなかったものの、学生との協働の結果、次第に筆者の意識が変わり、商業出版する意義に気づくようになった。この気づきに至った背景にあるのは、聞き取り相手の方々の人生の来歴そのものに魅力があったのに加えて、学生の書く文章が平易で読みやすく読者目線であったことだ。それに加えて、このような実習の過程および書籍の刊行という試み全体が、多文化共生に向けた運動になっていることにも気づいた。本稿ではこの意味での運動の性質として「境界線をめぐる運動体としての公共性」という考え方を提示する。

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© 2023 現代文化人類学会
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