本研究の目的は,バドミントンの未熟練者が野球の投球動作およびバレーボールのスパイク動作のトレーニングを行うことによる,バドミントンのスマッシュ動作への影響を明らかにすることであった.本研究ではバドミントン部に所属する女子中学生31名を対象とし,被験者を統制群,投球群,スパイク群の3つの群に無作為に分類した.統制群はスマッシュ練習を3セット,投球群は投球練習を2セットとスマッシュ練習を1セット,スパイク群はスパイク練習を2セットとスマッシュ練習を1セットの配分とし,約1か月間に全11回のトレーニングを行った.上半身7か所(両肩,両大転子,対象腕の肘,手首および手先)とラケットヘッドにマーカーを貼付した上でスマッシュ動作を撮影し,3次元動作解析を用いて介入前後で比較を行った.分析項目は上半身各セグメント重心の速度とラケットヘッド速度,さらにスイング開始時とインパクト時における肩を原点とした時の肘の投射方向の位置とスイング中の累積移動距離とした.本研究の結果,投球群とスパイク群ではバドミントンにおけるスマッシュ動作の改善に以下の影響があった.
1. インパクト時のラケットヘッド速度を算出した結果,有意に増加した.
2. 上半身各セグメント重心の速度を算出した結果,上腕の最大速度が有意に増加した.
3. 上半身各セグメント重心の速度のデータから最大速度の出現時点を比較した結果,胴体,上腕,前腕,手の順で最大速度が出現する者が増加した.
4. 肘の投射方向の位置を比較した結果,分析開始時点で投射方向に対して肘が肩よりもより後方にある状態となった.
以上の研究結果から,バドミントンの未熟練者が野球の投球動作またはバレーボールのスパイク動作を適切な動作の習得のために行うことは,スマッシュにおける運動連鎖の改善と速度の増加に有益であると考えられる.加えて,スポーツ指導の現場において,目的とする動作のトレーニングのみでなく,類似した動作のトレーニングを選択し,それを行うことの重要性も示していると考えられる.