YAKUGAKU ZASSHI
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Approaches to Pharmaceutical Education and Research from the Perspective of Patients and Consumers
Hidehiko Sakurai
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2023 Volume 143 Issue 1 Pages 1-9

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Summary

This review introduces two sets of research results, one regarding patients’ and consumers’ perceptions of the pharmacist profession and pharmacy function, and the other regarding factors that influence patients’ medication-taking behavior. First, as an example of what was examined from patients’ perspectives regarding the pharmacist profession and pharmacy function, an analysis of patient response data before the introduction of the family pharmacist/pharmacy system is presented. The results clarified that the quality of medication instruction influences patients’ evaluations of pharmacists and further affects their evaluation of pharmacies, and that the main factor influencing patients’ evaluation of pharmacies is their evaluation of the pharmacists. In particular, patients who continuously used the same pharmacist and the same pharmacy were highly statistically related, demonstrating the significance of recommending a family pharmacist/pharmacy. Next, regarding patients’ medication-taking behavior, an empirical study of Japanese patients regarding the two-dimensional influencing factors was conducted. These factors, which have been the focus of recent overseas studies, included intentional nonadherence, such as skipping a dose, and unintentional nonadherence, such as forgetting to take a dose. The main influences were found to be from unintentional nonadherence and intentional non-adherence, with excessive information seeking and motivation to acquire knowledge potentially exacerbating intentional nonadherence in particular, as well as differences across diseases. These findings may contribute to supporting medication adherence in patients. In collaboration with graduate and postgraduate research students, future studies will continue to examine patients’ and consumers’ perspectives on medication adherence.

1. はじめに

薬学教育モデル・コアカリキュラムは平成25(2013)年に改訂され,平成27(2015)年より導入された.1この到達目標(specific behavioral objective: SBO)の先頭に位置付けられた「A基本事項(1)薬剤師の使命①医療人として」には「1. 常に患者・生活者の視点に立ち,医療の担い手としてふさわしい態度で行動する」とある.併せて,この「A基本的事項」と同様に6年間かけて到達すべき項目として「B薬学と社会」が設定された.この項目の最初には「(1)人と社会に関わる薬剤師」として「1. 人の行動がどのような要因によって決定されるのかについて説明できる」「2. 人・社会が医薬品に対して抱く考え方や思いの多様性について討議する」「3. 人・社会の視点から薬剤師を取り巻く様々な仕組みと規制について討議する」が掲げられている.このように,まずは薬学の専門性や薬学的視点を離れ,医療や薬物治療を受ける患者・生活者の視点に立脚することの重要性を,全体の最初の方に掲げたという点で評価されるべきものと認識している.

筆者が専門とする経済学では,特に専門性の高い財やサービスの提供者と消費者の間で,知識や情報量に差が生じることを“情報の非対称性(asymmetric information)”と称し,“市場の失敗(market failure)”の代表的な例であることを古くから指摘している.2情報の非対称性が生じることで適切なコミュニケーションや交渉がなされないことから,効率的な市場成果の実現や財やサービスの適切な評価が困難になる市場の失敗という現象に結び付くとされている.また,伝統的な経済学では,消費者は合理的な意思決定に基づく行動を取ることを前提としている.すなわち,エビデンスに基づく効果がうたわれている医薬品が正しい情報とともに提供されれば,患者は指示通り適切に服用するはずである.しかし,心理的バイアスや患者の情報処理能力,リスクへの態度などが様々に影響することから,実際には飲み忘れや飲み飛ばし・飲み残しといった多くの不順守行動が報告されている.そこで近年は,合理的な経済主体を前提とした経済理論の枠組みとは異なり,より個人の心理面などに焦点を当てた行動経済学や実験経済学,経済心理学などによる研究成果が提示されている.また,このような情報の非対称性や不合理な行動は,薬学生や薬剤師,薬学研究者がその専門性を極めようとするほどに,実際の患者・生活者の視点や行動への理解からかけ離れてしまうことを示唆するものと考えられる.よって,筆者のように薬学のバックグラウンドを持たない,患者や生活者の立ち位置により近い人間が,その視点や行動を分析し,その知見を学生や研究者と共有することは,薬学教育・研究の発展に多少なりとも貢献できるものと考えている.

本稿では,これらに関連して卒業研究生や大学院社会人研究生らとともに取り組んだ研究内容をいくつか紹介したい.具体的な研究成果としては,1つは薬剤師職能・薬局機能に関する患者・生活者視点での検討,2つに患者の服薬行動の影響要因に関する検討である.

まず,薬剤師職能・薬局機能を患者視点で検討したものの一例として,かかりつけ薬剤師・薬局制度が導入される以前の患者回答データを分析したものがある.3その結果,服薬指導の質が薬剤師の評価を規定し,更に薬局の評価を規定するという構造と,薬局評価の最大の影響要因は薬剤師評価であることを明らかにし,特に薬剤師と薬局が固定利用されている群は,その統計的関連性が高いことから,かかりつけ化の意義を実証している.

次に,患者の服薬行動については,近時海外の研究で着目されている,飲み飛ばしのような意図的なものと,飲み忘れのような非意図的なノン・アドヒアランスの2次元の影響要因に関する,おそらく日本人を対象とした初めての実証研究を行っている.4,5非意図的なノン・アドヒアランスから意図的なそれへの影響が主であることや,過剰な情報探索や知識獲得意欲が,特に意図的ノン・アドヒアランスを増悪させている可能性,更には疾患での相違も示している.このような知見の提供は,患者の服薬支援の一助に資するものと思われる.

最後に,このような患者・生活者の課題解決のためには,従来の薬学的なアプローチだけでは今後は不十分になると思われることから,社会薬学研究・教育の重要性にも言及することにしたい.

2. 患者視点による薬剤師職能・薬局機能の検討3)

患者視点による薬剤師職能・薬局機能の検討については,患者による服薬指導や薬剤師・薬局の評価等の回答データから潜在的な影響構造を検証し,本来の趣旨でのかかりつけ化のための知見を探る目的で行った.このためには,平成27(2015)年の患者のための薬局ビジョン6や平成28(2016)年度の調剤報酬におけるかかりつけ薬剤師の算定要件等が示され政策的な誘導がなされる等による被検者の認知バイアスを回避する必要があった.よって,具体的なかかりつけ薬剤師・薬局制度の概要が示される以前の2013年に薬局利用患者に行った無記名の質問紙調査によるデータを,倫理委員会の再審査を経て2次データとして利用している.

サービス研究などの先行研究を基に測定した「服用情報(medication usage information)」,「留意情報(precautionary information)」,「接遇配慮(customer service consideration)」,傾聴態度などの「患者理解(patient understanding)」,プライバシーや医療安全への対応である「管理機能(management function)」の5つの評価次元から,薬剤師の総合評価である「薬剤師評価(pharmacist evaluation)」ならびに薬局の総合評価である「薬局評価(pharmacy evaluation)」,加えて薬局の継続利用意志である「薬局ロイヤルティ(pharmacy loyalty)」への影響構造を,構造方程式モデリングで検討した(Fig. 1).更に患者の利用状況の相違で影響構造にどのような相違が生じるかを多母集団同時分析で検討した.利用状況の相違については,薬剤師は「大概いつも同じ」か,それ以外(「はじめて」または「過去に何度か」),薬局は「薬局固定(薬局はここと決めている)」か,それ以外(「薬局は固定していない」)で区分した.すなわち,薬剤師・薬局ともに非固定の「I非固定(irregular visit)」群,薬剤師のみ固定の「II薬剤師固定(same pharmacist)」群,薬局のみ固定の「III薬局固定(usual pharmacy)」群,薬剤師・薬局ともに固定の「IV双方固定(usual pharmacy and same pharmacist)」群の4群で比較検討した.

Fig. 1. Conceptual Framework

Reproduced with permission from J. Pharm. Commun., 18, 6–18 (2020). Copyright 2020 The Pharmaceutical Communication Society of Japan.

この推定結果のうち,標準化直接効果(パラメータ推定値)をTable 1に,「薬剤師評価」や「薬局評価」を介した間接効果も合わせた,「薬局ロイヤルティ」への総合効果をTable 2に示す.

Table 1. Results of Multigroup Structural Equation Modeling for Patient Groups
Parameter (standardized estimate)Whole sampleIIIIIIIV
Irregular visitSame pharmacistUsual pharmacyUsual pharmacy and same pharmacist
α1Medication usage informationPharmacist evaluation
α2Precautionary informationPharmacist evaluation
α3Customer service considerationPharmacist evaluation0.2160.1850.4260.0000.346
α4Patient understandingPharmacist evaluation0.0740.0850.1350.0000.160
α5Management functionPharmacist evaluation0.6440.6400.4760.7830.454
β1Medication usage informationPharmacy evaluation0.0960.1240.154
β2Precautionary informationPharmacy evaluation
β3Customer service considerationPharmacy evaluation0.2970.2650.4950.313
β4Patient understandingPharmacy evaluation
β5Management functionPharmacy evaluation0.1350.1710.378
γ1Pharmacist evaluationPharmacy evaluations0.4860.4660.4920.5300.706
γ2Pharmacy evaluationPharmacist evaluation
ζ1Pharmacist evaluationPharmacy loyalty0.2190.0000.347
ζ2Pharmacy evaluationPharmacy loyalty0.8970.9260.7370.9850.609
AGFI0.9030.928
RMSEA0.0670.035
n573932636751150651

Abbreviation: AGFI=Adjusted Goodness-of-fit Index; RMSEA=Root Mean Square Error of Approximation; —=not significant at a probability level of 0.05 (n.s.). Reproduced with permission from J. Pharm. Commun., 18, 6–18 (2020). Copyright 2020 The Pharmaceutical Communication Society of Japan.

Table 2. Estimation of Total Effects on Loyalty
Influence factorsWhole sampleIIIIIIIV
Irregular visitSame pharmacistUsual pharmacyUsual pharmacy and same pharmacist
Medication usage information0.0860.1150.152
Precautionary information
Customer service consideration0.3610.3250.2480.4880.459
Patient understanding0.0320.0370.0790.124
Management function0.4020.4350.5550.4090.353
Pharmacist evaluation0.4360.4320.5820.5220.777
Pharmacy evaluation0.8970.9260.7370.9850.609
AGFI0.9030.928
RMSEA0.0670.035
n573932636751150651

Abbreviation: —=not significant at a probability level of 0.05 (n.s.). Reproduced with permission from J. Pharm. Commun., 18, 6–18 (2020). Copyright 2020 The Pharmaceutical Communication Society of Japan.

「薬剤師評価」には,多くの状況下で「管理機能」,「接遇配慮」,「患者理解」の順に影響し,「服用情報」と「留意情報」はほとんど影響しなかった.また,「管理機能」はどのような状況下でも相対的に強く影響することが示された.「薬局評価」には「薬剤師評価」,次いで「接遇配慮」,「管理機能」の順に影響した.薬局継続利用意志の「薬局ロイヤルティ」には概ね「薬局評価」が影響するが,薬剤師が固定されている群は薬剤師評価が直接ロイヤルティに影響した.よって,薬剤師の接触密度が増えるにつれ,「薬剤師評価」の影響が高まることが示された.このように患者の状況によって評価ウェイトが異なることから,薬局への自発的なかかりつけ化を考えるうえで,患者が置かれた状況に合わせた服薬指導方法を再検討していく必要性も示唆された.

この研究では,自発的なかかりつけ薬局化を鑑み,継続利用意志(ロイヤルティ)を最終的な目的変数として分析したものである.薬剤師が固定されているII群とIV群は,総合効果(Table 2)でも,薬剤師評価の影響が相対的に大きい.特にIV群では薬剤師評価の影響度の方が薬局評価を上回っている.よって,本来の意味でのかかりつけ薬剤師の職能を確立することで,薬局ロイヤルティが向上し,結果として自発的なかかりつけ薬局へと結びつくことが示唆されたものと考えられる.

また,服薬指導時に薬学的に適切な情報提供を受ければ,その情報提供の水準を理解できるような,ある程度の専門的な知識を持っていれば「服用情報」,「留意情報」は薬剤師や薬局の評価に結びつくはずである.しかし,服用や留意点に関する情報提供は,薬剤師と薬局の評価双方と,当然に薬局ロイヤルティにほとんど影響しない結果であった.一方で,患者が知覚しやすいプライバシーへの配慮や傾聴態度,礼儀作法や接遇時の配慮などの評価は,相対的に強く影響していた.これらについては,患者と薬剤師の間での薬学的知識での情報の非対称性の影響の可能性が考えられた.以上から,薬学的管理上のこのような情報の重要性について,単に丁寧な説明を心がけるといった範囲を超え,患者教育や情報提供方法を工夫・改善するなどして係わり方を再検討し,患者側にその意義を理解してもらう必要性が示唆されたものと考えられる.さらには患者側の認識において,留意すべき情報の提供が薬剤師や薬局の評価,継続利用意志(ロイヤルティ)のいずれにも関連しないことは懸念すべきことであり,これに関しても指導の方略や在り方を再検討する必要性が示唆された.

3. 患者の服薬アドヒアランスに関する影響要因の検討4,5)

筆者がアドヒアランスの研究に着手したのは,2000年代後半からであり,卒業研究指導の一環によるものであった.その時期は,コンプライアンスからアドヒアランスの概念への転換期であった.当時調べてみると,海外ではこのような研究の蓄積は膨大なものがあるのに対し,7日本では内科医や看護師による研究が多く,薬剤師もしくは薬学者が服薬アドヒアランスに関する調査研究を行ったものは稀有であった.

当初は,薬剤師の職能評価や薬局の機能評価の実証研究の一端として,患者評価や満足度との関連性を検討することから始めた.総じて薬局の評価と服薬アドヒアランスの間には,ほぼ関連性がないことをインターネット調査や薬局でのアンケートデータの多変量解析で明らかにした.8,9またその後,アドヒアランスへの新たな影響要因を探索する研究に着手し,人の行動を説明するうえでの重要な影響概念として提唱された自己効力感10を援用してモデル分析を行った.11自己効力感は,行動による結果への確信である“結果予期(outcome expectancy)”と,行動への自信である“効力予期(efficacy expectancy)”で構成されるとされている.その結果,効力予期(狭義ではこれを自己効力感と称する場合もある)がアドヒアランスへの強い影響要因であり,結果予期は有意な影響を示さなかった.すなわち,アドヒアランスを高めるという目的においては,服薬指導の場面では患者自身の服薬を続けられるという自信を高める方略が重要であり,処方薬の効能・効果や有効性を強調してもアドヒアランスを改善することにはつながらない可能性が高いことを明らかにした.

さらにアドヒアランスに関する研究を進める中で,海外の研究で取り上げられるようになった,意図的中断(intentional nonadherenceまたはreasoned nonadherence)と非意図的中断(unintentional nonadherence)に着目して服薬アドヒアランスへの影響構造について検討することにした.12,13

これに関する最初の調査研究は,40歳以上の慢性疾患患者1952名に対するインターネット調査で入手したデータを基に,先行研究を基にした自己効力感(self-efficacy),効果認識(perceived effectiveness),情報探索(information search),患者参画(patient participation)等の構成概念がどのように意図的/非意図的中断やアドヒアランスに影響するかを検証した.4併せて,意図的中断と非意図的中断の因果の方向性とアドヒアランスへの影響について検証した(Fig. 2 and Table 3).

Fig. 2. Multiple Mediation Pathway Model of Medication Adherence

CFI=Comparative Fit Index. Reproduced with permission from J. Pharm. Commun., 16, 4–12 (2018). Copyright 2018 The Pharmaceutical Communication Society of Japan.

Table 3. Estimation of Direct, Indirect, and Total Effects on Medication Adherence
Illness durationPerceived effectivenessInformation searchSelf-efficacyUnintentional nonadherenceIntentional nonadherence
Unintentional nonadherenceTotal effect0.135−0.1180.319
Direct effect0.135−0.1180.319
Indirect effect
Intentional nonadherenceTotal effect0.085−0.2160.2010.630
Direct effect−0.1420.630
Indirect effect0.085−0.0740.201
Response scale for adherenceTotal effect−0.0490.071−0.0750.1710.5350.087
Direct effect−0.0490.4800.087
Indirect effect0.071−0.0750.1710.055

Abbreviation: —=not significant at a probability level of 0.05. (n.s.). Reproduced with permission from J. Pharm. Commun., 16, 4–12 (2018). Copyright 2018 The Pharmaceutical Communication Society of Japan.

結果として,非意図的中断が意図的中断に影響すること,アドヒアランスには非意図的中断の影響が最も強いことが示された.非意図的中断には自己効力感,効果認識が順に正の影響を示した.また,情報探索は意図的/非意図的中断の両者に負の影響を示したが,特に意図的中断に対してより強く影響した.

以上から,服薬アドヒアランスを促進するためには,飲み忘れなどの非意図的な中断への対策を優先すべきこと,併せて患者の自己効力感に働きかけることの重要性,また患者が過度に情報収集しているような場合は,自己判断等によるアドヒアランスへの負の影響に留意すべきことなどが示唆された.

次に行った調査研究では,慢性疾患と急性疾患の比較検討を行った.5急性期においても,例えば抗菌薬などのように,耐性菌の問題から処方され全量を原則飲み切る必要のあるものもあり,ここでもアドヒアランスが重要となる.

調査は45歳以上の一般市民約3万人を対象に,患者意識と健康に係わる行動に関するインターネットを介して実施した.分析目的から,海外の先行研究と比較可能なように,意図的中断行動,非意図的中断行動,患者エンパワメント(情報探索,知識習得(knowledge development),治療参画(decision participation)等の構成概念を測定し,構造方程式モデリングで慢性疾患患者と急性疾患患者による母集団別分析を行った.

分析の結果,急性疾患モデル(Fig. 3 and Table 4)では,非意図的中断から意図的中断への影響のパス係数のみ有意であったが,慢性疾患モデル(Fig. 4 and Table 5)では意図的中断と非意図的中断の両者間での再帰的な影響が認められた.すなわち,急性疾患では飲み忘れなどが飲み残しや飲み飛ばしなどの拒薬や服薬回避につながるのみである一方で,慢性疾患は拒薬や服薬回避が飲み忘れなどにもつながり,それが負の連鎖のようになる可能性が示唆された.また,急性と慢性では,意図的中断と非意図的中断への各影響要因からのパス係数に相違が見られたことから,それぞれの疾患特性に適した重点策を検討する必要性が示唆された.よって,継続的な通院・服薬を要する慢性患者と,抗菌薬等で完全に飲みきる必要のある急性患者では,支援策などを個別に検討する必要性が示唆された.また,先の最初の研究結果を支持するように,ここでも過剰な知識習得意欲が,不適切な知識の取得などを介して意図的な中断に結びついている可能性も示された.さらに,海外の先行研究では,患者の主体的な治療意欲の変数である治療参画がアドヒアランスに対して相対的に高い影響を示していたのに対し,日本人を対象とした本研究ではパス係数は有意ではなく,医療慣習や文化的背景の相違の影響も示唆された.

Fig. 3. Estimation in the Acute Disease Model

Reproduced with permission from J. Hous. Econ., 51, 107–118 (2020). Copyright 2020 The Japan Society of Household Economics.

Table 4. Effects of Patient Empowerment on Unintentional and Reasoned Nonadherence in the Acute Disease Model
Health involvementKnowledge developmentPerceived effectivenessUnintentional nonadherenceIntentional nonadherence
Unintentional non-adherence (total effect)0.051
Direct effect0.051
Indirect effect0.001
Intentional non-Adherence (total effect)0.036−0.2150.1750.705
Direct effect0.036−0.2150.1400.705
Indirect effect0.035

Abbreviation: —=not significant at a probability level of 0.05 (n.s.). Reproduced with permission from J. Hous. Econ., 51, 107–118 (2020). Copyright 2020 The Japan Society of Household Economics.

Fig. 4. Estimation in the Chronic Disease Model

Reproduced with permission from J. Hous. Econ., 51, 107–118 (2020). Copyright 2020 The Japan Society of Household Economics.

Table 5. Effects of Patient Empowerment on Unintentional and Reasoned Nonadherence in the Chronic Disease Model
AgeHealth involvementKnowledge developmentPerceived effectivenessUnintentional nonadherenceIntentional nonadherence
Unintentional nonadherence (total effect)−0.0610.019−0.0340.2610.0710.167
Direct effect−0.0570.2250.156
Indirect effect−0.0040.019−0.0340.0360.0710.011
Intentional nonadherence (total effect)−0.0260.124−0.2200.2330.4520.071
Direct effect0.116−0.2060.1220.422
Indirect effect−0.0260.008−0.0150.1100.0300.071

Abbreviation: —=not significant at a probability level of 0.05 (n.s.). Reproduced with permission from J. Hous. Econ., 51, 107–118 (2020). Copyright 2020 The Japan Society of Household Economics.

4. 服薬アドヒアランス研究の展望:社会薬学研究の推進にむけて

服薬アドヒアランスに関する研究は,海外では医療系の研究者のみならず,経済学やマーケティング,消費者行動論など他領域の研究者も積極的に知見を公表している.1316しかし,国内では医療の専門家の研究者が医学・薬学的見地によるアプローチで分析しているものがほとんどであり,一部にみられる質的研究などを除けば,17先述の情報の非対称性や不合理な行動を前提としたアプローチで検討されたものは,筆者の知る限りにおいてほとんど見受けられない.

しかし,この指摘はアドヒアランス研究の例に留まるものではないと考えている.筆者の認識による薬学の研究領域の分類をTable 6に示した.現在は4年制の基礎薬学もしくは創薬の概念が主体の薬学教育から,臨床薬学さらには6年制の育薬にも重心を置いた薬剤師養成教育が中心となって久しい.それであるが故に,冒頭に記したコア・コアカリキュラムの趣旨からも,医療サービスの受け手である患者・生活者の視点に都度立ち返り,多様化する人々への思いを理解しようとする姿勢と,それを通して高度化する医療の発展に寄与する姿勢を醸成する必要性は益々高まっているものと思われる.このような趣旨から,多様な人々,すなわち文字通り社会を対象とした薬学である社会薬学は一層の発展を成し遂げる必要がある.これにより,人文・社会科学系の研究者の関心も高め,従来のアプローチでは解決できなかった,患者や生活者の意識や行動に起因する医療上の問題点に関する新たな知見を得られる可能性が広がるものと考えている.筆者もその一人として,今後も患者・生活者視点に立脚した研究に,卒業研究生や大学院研究生らとともに邁進していきたいと考えている.

Table 6. Classification of Pharmaceutical Research Fields
研究領域 
Research area
主な研究対象 
Main Research Subject
主な評価対象 
Main evaluation target
基礎薬学 
Basic pharmaceutical science
モノ(物質) 
Object (substance)
実験データ 
Experimental data
臨床薬学 
Clinical pharmacy
ヒト(人体)・疾患 
Human (Human body)/disease
検査値 
Clinical laboratory data
社会薬学 
Social pharmacy
人々(社会) 
People (society)
(質的/量的)観測事象 
(qualitative/quantitative) Observed event

5. おわりに

本稿は2021年度日本薬学会北海道支部,医療薬学貢献賞〈教育部門〉の受賞講演の内容を基にしたものである.入職当時,筆者は薬学のバックグラウンドを持たず,かつ社会人経験のみで教育・研究のキャリアをほとんど有していなかった.そのような者を温かく迎え入れてくれただけでなく,教育・研究,社会貢献に真摯に取り組む姿勢を,お手本として示して頂いた北海道科学大学薬学部(旧 北海道薬科大学)の諸先生方に深く感謝したい.また,教育部門での受賞であることから,これまで筆者とともに患者・生活者視点に立脚した研究に真摯に取組んでくれた卒業研究生や大学院研究生,さらには科研費等の共同研究に加わって頂いた多くの先生方にも感謝の意を表しつつ筆を置くこととしたい.

なお,本稿で紹介した一連の研究成果の一部はJSPS科研費22530453, 26380566, 26460870, 17K03994, 20K01992の助成を受けたものである.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2021年度日本薬学会北海道支部医療薬学貢献賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
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