YAKUGAKU ZASSHI
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Development of Prediction Methods for Drug–Drug Interactions Based on the Construction of Physiologically Based Pharmacokinetic Models for Hepatic OATP Substrate Drugs and Endogenous Substrates
Takashi Yoshikado
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2023 Volume 143 Issue 1 Pages 11-19

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Summary

Quantitative prediction of the potential for drug–drug interaction (DDI) is essential to guarantee the safety and efficacy of drugs. DDI screening, modeling, and prediction is standard practice in the pharmaceutical industry. This review describes our work on (1) the establishment of a standard framework for determining physiologically based pharmacokinetic (PBPK) model structures and parameters useful for quantitatively analyzing DDIs via hepatic organic anion transporting polypeptides (OATPs). By analyzing clinically observed DDIs involving several statins as substrates, and cyclosporin A and rifampicin as inhibitors, similar in vivo inhibition constants for OATPs by each inhibitor were obtained, regardless of the substrate. (2) We took a PBPK modeling-based approach to define rate-determining processes in hepatic elimination of several OATPs and CYP3A dual substrates using our clinical DDI data with specific inhibitors for OATPs and CYP3A. Essential in vivo parameters (the passive diffusion/active transport ratio in the uptake, and the fraction of intrinsic clearance in the total drug elimination from the hepatocytes) dominating the rate-determining process in hepatic elimination were estimated quantitatively. (3) Finally, using our clinical DDI data with rifampicin, we established a PBPK model for coproporphyrin I (CP-I), which is expected to act as an endogenous substrate (biomarker) supporting the prediction of DDI involving hepatic OATPs. Our PBPK modeling-based approach with several in vitro experiments using CP-I and OATP probe substrates (statins) demonstrated the usefulness of the translation of the effect of an OATP inhibitor on CP-I pharmacokinetics into that on OATP probe substrates in drug discovery and development.

1. はじめに

医薬品の体内動態を決定する要因として,肝臓に発現するトランスポーターは代謝酵素と協調して重要な役割を担っている.肝臓の血管側に発現するorganic anion transporting polypeptides(OATPs, Fig. 1)は,高脂血症治療薬や経口血糖降下薬,ヒトC型肝炎治療薬や抗がん剤などのアニオン性薬物の肝取り込みに関与しており,医薬品の研究開発においては,薬物動態の個人差のみならず,薬物間相互作用(drug–drug interaction: DDI)の観点で注目されてきた.そのきっかけの1つとなったのが,いずれも高脂血症治療薬であるセリバスタチンとゲムフィブロジルとのDDIであり,重篤な副作用(横紋筋融解症)の誘発が大きな問題となった.1最終的にセリバスタチンは市場からの撤退を余儀なくされたが,ゲムフィブロジルグルクロナイド(代謝物)がCYP2C8によるセリバスタチンの代謝を非可逆的(mechanism-based inhibition)に阻害するとともに,OATPsによる肝取り込みも阻害する複雑なDDIにより,横紋筋融解症のリスクが増大すると考えられた.2このような経緯から現在では,医薬品候補化合物のDDIリスクを段階的に予測しながら,より安全な化合物を選択したり,DDIをマネジメントする臨床開発を進めたりすることが当然のように行われている.

Fig. 1. Detoxification System in the Liver

では,DDIを予測するにはどのような方法があるのか.薬物代謝酵素もしくはトランスポーターの阻害を介したDDIを例にすると,医薬品候補化合物の前臨床開発においては,理論上考え得る最大濃度が持続するstaticモデルを用いて,in vitro試験で得られる阻害定数(Ki値)との比較を行うことによりDDIリスクを評価する.3いわゆるfalse-negativeを出さないための予測であるが,この段階では医薬品候補化合物の数が多く,それぞれについて詳細なpharmco kinetics(PK)パラメータを得ることは困難であることから,理にかなっている.一方,相互作用薬・被相互作用薬それぞれの血中濃度推移を考慮するdynamicモデル[生理学的薬物速度論(physiologically based pharmacokinetic: PBPK)モデルなど]は,より実態に即した精緻なDDIリスク評価を可能とする.近年では,添付文書においても,モデル解析を基にしたシミュレーションによりDDIリスクを評価した結果が記載されるようになってきている.不必要な臨床DDI試験を極力減らすとともに,必要な臨床DDI試験の計画にも役立てることで,医薬品の臨床開発の効率化に貢献することが期待されている.しかしながら,dynamicモデルでは多数のPKパラメータを組み込む必要があり,その中には実験で測定することが困難な「未知」パラメータも含まれることから,解析に長い時間と膨大な労力を要する場合が珍しくない.

PBPKモデルは,薬物の体内での動きを生理解剖学的及び薬物依存的なパラメータ群を用いて記述した数理モデルであり,近年では,PBPKモデル解析に特化した市販のソフトウェアを用いた予測も盛んに行われている.その多くの例では,種々のin vitro試験から得られたパラメータを用いるbottom-upアプローチが取られているが,モデルの合理性やin vitro–in vivo補外(in vitro–in vivo extrapolation: IVIVE)の精度や信頼性等の問題から,ヒトにおける複雑なDDIを説明することは困難なケースも依然として多く存在する.筆者は,PBPKモデルを用いてDDIを高精度に予測する方法論の構築を目指し,上記bottom-upアプローチを一部取り入れつつ,臨床データを基に重要なパラメータを推定するtop-downアプローチによる研究を重ねてきた.本総説では,特にOATPsのプローブ基質薬と内在性基質が関与するDDIのPBPKモデル解析に焦点を絞って概説する.

2. 肝OATP1Bを介したDDI予測のためのPBPKモデル構築法の標準化

筆者は,肝臓のOATP1B1とOATP1B3を介したDDIをターゲットとし,PBPKモデルを用いて定量的に予測する方法論の標準化を試みた.具体的には,臨床DDIデータに対する非線形最小二乗法に基づいたフィッティングを行うことで,基質薬及び阻害薬のPBPKモデルについてパラメータを最適化し,新たなDDIの組み合わせについて予測可能とするための方法論である.基本的にはtop-downアプローチであるが,一部の比較的信頼性の高いパラメータについてはIVIVEによりモデルに導入(bottom-upアプローチ)したことから,最近ではmiddle-outアプローチとも呼ばれるものである.

OATP1B基質薬ピタバスタチンもしくはフルバスタチンとOATP1B阻害薬シクロスポリンとのDDI,4,5ならびにピタバスタチンもしくはプラバスタチンとOATP1B阻害薬リファンピシンとのDDIについて,6,7 PBPKモデルを構築した.モデル構造はWatanabeらによって報告されたもの8を基にした.また,スタチンは腸肝循環することから,これも組み入れた.

PBPKモデルには各種のパラメータが含まれ,それらは生理解剖学的で薬物非依存的なパラメータ(臓器容積や血流速度等)と,薬物依存的なパラメータ(血漿/組織タンパク結合率,クリアランス等)に分けられる.更に後者の中でヒトでの情報が得られやすいものとして尿中未変化体排泄率があり,実験的にある程度の精度で測定してPBPKモデルに適用可能なものとしては,血漿中及び組織中タンパク非結合率(fp, ft)やOATP1Bによる肝取り込みや受動拡散による膜透過クリアランス等が挙げられる.ただし,実験的に測定できるといっても実験条件にある程度依存する上,PBPKモデルにそのまま適用できない場合は,信頼できるスケーリングファクターを求めてくる必要がある.この点が個人の采配でどうとでもなってしまう問題点があった.筆者はこの問題点に対して,自グループのみならず他グループも含めて実験データを精査するとともに,そのパラメータをPBPKモデルに標準化された方法で適用し,種々のDDIを説明可能かどうかを検討した.また,肝取り込みや代謝,胆汁排泄などの素過程のクリアランスを,そのままパラメータとして用いることは困難と考えた.なぜなら,基本的に非線形最小二乗法によるフィッティングでは,未知パラメータに初期値を入れて計算を開始する必要があるが,素過程クリアランスについて初期値を決めることはin vitro–in vivoの乖離により容易でないからである.筆者は,肝取り込みにおける受動拡散/能動輸送クリアランス比(Rdif)や,肝消失律速過程を決定づけるハイブリッドパラメータ(β値,後述)を用いてPBPKモデルの微分方程式を記述する工夫を施した.例えばRdifについては比を取っていることから,各素過程クリアランスの初期値を入力するよりもin vitro–in vivoの乖離が少ないと考えられる.

構築したPBPKモデルの未知パラメータを求めるために,ヒトにおけるスタチン単独投与時とOATP1B阻害薬併用時の血中濃度推移に対して非線形最小二乗法に基づいたフィッティングを実施した.リファンピシンが阻害薬となる臨床DDIデータを解析した結果,ピタバスタチンとのDDIで0.23 µM,プラバスタチンとのDDIで0.19 µMという類似したKi値が得られた.また,シクロスポリンが阻害薬となるDDI事例においても,ピタバスタチンとのDDIで0.012 µM,フルバスタチンとのDDIで0.0096 µMという類似したKi値が得られた.これは,in vitroにおいて基質薬とシクロスポリンをco-incubationしたときに得られたKi値よりも低く,あらかじめシクロスポリンでpre-incubationしたときに得られたKi値に近かった.9更にピタバスタチンについては2種類の阻害薬とのDDIを解析したが,ピタバスタチンのPKパラメータ(肝臓における見かけの固有クリアランスCLint,all等)は近いものが得られてきた.したがって,基質薬及び阻害薬の組み合わせを変えても相互作用を予測可能であることが示唆された.

本研究成果を基に,標準化されたPBPKモデルを用いたDDI解析の方法論を提唱した(Fig. 2).この標準プロトコルを用いて,筆者を含むアカデミア及び製薬企業の研究者が多数のDDI事例(トランスポーターと薬物代謝酵素の両方が関与する複雑なDDIを含む)について解析をこれまでに実施してきた.引き続き製薬企業等での医薬品研究開発過程で適用されることが期待される.

Fig. 2. Workflow of a in Vivo Parameter-optimization Method Using Physiologically-based Pharmacokinetic (PBPK) Models to Describe Hepatic OATP-mediated DDIs

Image reproduced from Clin. Pharmacol. Ther. 100(5), 513–523 (2016), upon permission.

3. 肝消失における律速過程を明らかにするための臨床研究

上記PBPKモデルを用いたDDI解析では,臨床DDIデータを説明する上で本質的なパラメータ(CLint,all, Ki値)は求まったものの,それ以外のパラメータは必ずしも定まったわけではなかった.特にβ値については,いくつかのケースで場合分け(固定)した上で解析するのが限界であった.これは血中濃度推移のみを用いたフィッティングだけで肝消失の律速過程を決めることの困難さを示唆していると考えられた.肝消失が膜透過律速型の薬物に関して,見かけの肝固有クリアランス(CLint,all)は,能動輸送及び受動拡散による肝取り込み(PSact,inf + PSdif,inf=PSinf),血管側排出(PSeff),代謝(CLint,met)及び胆汁排泄(CLint,bile)で構成される(Fig. 3).これがいわゆる拡張クリアランス理論(Eq. 1)である.10

  
(1)
Fig. 3. Sensitivity Analyses of β Value Using PBPK Models for Four OATP/CYP3A Dual Substrates

The dark gray lines represent fitted blood concentration–time profiles of orally administered bosentan (A), repaglinide (B), clarithromycin (C), and simeprevir (D), in control phase. The light gray lines represent simulated blood concentration–time profiles in DDI phase using the Ki,u,CYP3A value of itraconazole (0.45 nM) determined from the DDI data of midazolam vs. itraconazole (E) and various β values (solid: basic β for each drug, broken: 1.5- or 3-fold the basic β, and dotted: 0.33-fold the basic β). The dark gray vertical arrow shows the timing of the oral administration of the substrates; the black horizontal arrow shows the 1 h intravenous infusion of itraconazole. a Yoshikado T. et al., Pharm. Res. 34, 1570–1583 (2017); b Predicted from in vitro. Data reproduced from J. Pharm. Sci. 106(9), 2739–2750 (2017), upon permission. (Color figure can be accessed in the online version.)

肝取り込み後に代謝を受ける薬物では,このβ値の大小で受ける影響が異なってくる.理論的に,β値が小さい薬物は,DDIによる代謝酵素阻害時の影響が大きいと考えられ(取り込み律速+代謝律速),逆にβ値が大きいと代謝酵素阻害時の影響が小さいと考えられる(取り込み律速).これまでに,OATPs及びcytochrome P450 3A(CYP3A)のdual基質となるアトルバスタチンと,OATPプローブ基質薬プラバスタチン,CYP3Aプローブ基質薬ミダゾラムをマイクロドーズで同時投与し,それぞれの特異的阻害薬(リファンピシン及びイトラコナゾール)を併用した臨床DDI試験が実施され,OATP阻害はアトルバスタチンの血中濃度を顕著に上昇させたものの,CYP3A阻害による影響は最小限であることが示された.7アトルバスタチンはβ値が大きいことによるものと考えられ,OATP/CYP3A dual基質薬のDDIを予測する際には拡張クリアランス理論に基づく肝消失律速過程の見積もりが非常に重要であることが示唆された.

筆者は,肝消失律速過程に関する定量的な解析を更に進めるために,OATP/CYP3A dual基質薬(ボセンタン,レパグリニド,クラリスロマイシン及びシメプレビル)について,OATPもしくはCYP3Aの阻害による血中動態の変化を明らかにするための自主臨床試験に携わった.11リファンピシン(OATP1B阻害薬)の併用によりOATP/CYP3A dual基質薬の血中濃度が上昇したが,イトラコナゾール(CYP3A阻害薬)併用時にはクラリスロマイシン,シメプレビル及びミダゾラム(CYP3Aプローブ基質薬)のみ顕著な血中濃度の上昇が見られた.

本臨床試験におけるDDIのAUC上昇率(AUCR)をもとに,肝消失の律速過程を決定付けるβ値と,肝取り込み過程の阻害による影響を決定付けるRdif(=PSdif,inf/PSact,inf: Fig. 4)を拡張クリアランス理論に基づき算出した.続いて,各基質薬についてPBPKモデルを構築し,併用薬非存在下での血中濃度推移を再現した後,上述の研究9で示したリファンピシンによるin vivo Ki値と,本研究11におけるイトラコナゾール併用時のミダゾラムのAUCRを説明可能なCYP3Aに対するin vivo Ki値を用いて,各基質薬について相互作用時の血中濃度推移をシミュレーションした.上述の拡張クリアランス理論で算出したβ値を基準値としたsensitivity analysis(Fig. 3)及びRdifを基準値としたsensitivity analysis(Fig. 4)を実施することで,ボセンタンの場合は肝消失の律速段階が肝取り込み過程にあること,またレパグリニドの場合は代謝に占めるCYP3Aの寄与率が低いことにより,CYP3A阻害時の両薬物の血中濃度上昇が限定的なものであったことが示唆された.12以上,拡張クリアランス理論並びにPBPKモデルを用いた研究を通じて,肝取り込み・代謝の両方が関与するような複雑な薬物間相互作用の定量的な予測には,β値やRdifのようなパラメータの精密な推定が重要であることが示された.

Fig. 4. Sensitivity Analyses of Rdif Using PBPK Models for Four OATP/CYP3A Dual Substrates

The dark gray lines represent fitted blood concentration–time profiles of orally administered bosentan (A), repaglinide (B), clarithromycin (C), and simeprevir (D), in control phase. The light gray lines represent simulated blood concentration–time profiles in DDI phase using a reported in vivo Ki,OATP for rifampicin (0.23 µM) and various Rdif values (solid: basic Rdif for each drug, broken: 1.5- or 3-fold the basic Rdif, and dotted: 0.33-fold the basic Rdif)  The dark gray and light gray arrows show the timing of the oral administration of the substrates and rifampicin, respectively. a Yoshikado T. et al., Pharm. Res. 34, 1570–1583 (2017); b Assumption. Data reproduced from J. Pharm. Sci. 106(9), 2739–2750 (2017), upon permission. (Color figure can be accessed in the online version.)

4. OATP内在性基質をバイオマーカーとして用いたDDI予測法の提唱

臨床的な意義が明確であるトランスポーターを医薬品候補化合物が阻害する可能性がある場合,選択的基質薬(プローブ)を用いた臨床DDI試験の実施が提案されてきたが,開発期間及びコストがかかることから,事前に十分な検討がなされた上で実施されるべきである.近年,トランスポーターの内在性基質が明らかになりつつあるが,これは臨床開発初期の投与量漸増試験等において血漿中の内在性基質濃度を測定することにより,ある程度DDIリスクを評価可能なことを意味する.OATP1Bの内在性基質としては,ビリルビン及びそのグルクロン酸抱合体,各種胆汁酸,ヘム合成中間代謝物であるコプロポルフィリン,ある種の脂肪酸(ジカルボン酸)などが知られる.13その中で,コプロポルフィリンI(coproporphyrin I: CP-I)は,生体内でほとんど代謝を受けず,OATP1B阻害に対する高い感受性及び特異性,更には少ない日内変動が示されており,15最近では少なくない製薬企業でOATP1Bを介したDDIのバイオマーカーとして用いられつつある.

筆者は,OATP1B内在性基質をDDIのバイオマーカーとして活用するために,PBPKモデル解析を基にした研究を進めてきた.まず,多様なOATP1B内在性基質の体内動態におよぼすOATP1B阻害薬(リファンピシン)の影響に関する臨床研究に携わった.14続いて,当該自主臨床試験で得られたリファンピシン経口投与(300 mg及び600 mg)時のCP-I血漿中濃度推移の変化をPBPKモデルで解析することを試みた.CP-IのPBPKモデル構造(Fig. 5)については,OATP1Bプローブ基質薬であるスタチンと類似した動態特性を示すことが示唆されたことから,前述の標準化したモデル構造9をベースとした.ただし,CP-I自体は肝臓内もしくは造血系で生合成されるため,生合成速度(vsyn)をモデルに組み込んだ.また,CP-IはMRP2の基質にもなることが報告されており,16また臨床濃度のリファンピシンはOATP1BのみならずMRP2を阻害することがpositron emission tomographyプローブ([11C]TIC-Me)を用いた臨床試験から明らかにされたことから,17 MPR2によるCP-Iの胆汁排泄をリファンピシンが阻害するメカニズムも組み込んだ.リファンピシンのPBPKモデルについては,筆者が提案した標準的な方法論が基となり,阻害・誘導を含む多様なDDIを説明可能としたAsaumiらの包括的なモデルを用いた.18

Fig. 5. Structure of PBPK Models for Coproporphyrin I (CP-I)

CLint,bile, intrinsic clearance of biliary excretion; CLint,met, intrinsic clearance of hepatic metabolism; CLR, renal clearance; EHC, enterohepatic circulation; FaFg, intestinal availability; fB, protein unbound fraction in blood; fH, hepatic protein unbound fraction; HC, hepatocytes; HE, hepatic extracellular space; ka, absorption rate constant; Kp,tissue, tissue/blood concentration ratio; ktransit, transit rate constant for EHC; PSact, intrinsic active uptake clearance on sinusoidal membrane; PSdif,inf, intrinsic influx clearance by passive diffusion on sinusoidal membrane; PSeff, intrinsic efflux clearance on sinusoidal membrane; PStissue, permeability–surface area product in tissue; Qtissue, blood flow rate in tissue; vsyn, rate of synthesis of CP-I; Vtissue, tissue volume.

まず,非線形最小二乗法に基づいたフィッティングにより,リファンピシン存在下及び非存在下でのCP-I血中濃度推移を説明可能なパラメータを推定した.可能な限り未知パラメータを減らすために,肝臓におけるCP-Iの膜透過に係わるパラメータ(前述のRdif)や血漿中及び肝臓内タンパク非結合率(fp, fh)は接着性ヒト肝細胞を用いた実験により測定した.また,MRP2に対するリファンピシンのKi,MRP2は,PETプローブ臨床試験17で得られた胆汁排泄クリアランスの変化率より算出した値(0.87 µM)で固定して解析することとした.最終的にCP-IのPK及びDDIプロファイルを表現する上で鍵となるであろう3つのパラメータ(vsyn, CLint,all, Ki,OATP1B)が求まってきた.注目すべきはin vivoKi,OATP1Bであり,約0.1 µMと,上述のスタチンvs.リファンピシンの解析9で得られたKi値と比べて,40–60%程度の値であったことから,Ki値の基質依存性が考えられた.19このようなKi値の基質依存性については,Izumiらが既に報告している.20

続いて,同じ臨床試験においてOATP1B基質薬として投与された4種類のスタチン(ピタバスタチン,ロスバスタチン,フルバスタチン,アトルバスタチン)の血中濃度上昇に補外するための研究を実施した.まず,OATP1B発現系を用いてin vitro Ki値を評価したところ,CP-Iよりもスタチンに対して1.5–3.6倍高値であったことから,in vitro Ki,OATP1Bの比(statin/CP-I)をCP-IのPBPKモデル解析で得られたin vivo Ki,OATP1B(CP-I)に乗じることで,スタチンのin vivo Ki,OATP1B(statin)を算出した.続いて各スタチンのPBPKモデルを用いた予測結果として,スタチンの血中濃度推移及びAUCRはin vivo Ki,OATP1B(CP-I)をそのまま用いるより,in vivo Ki,OATP1B(statin)を用いた方が良好に再現できた.したがって,リファンピシンによるOATP1B阻害の基質依存性を考慮することで,より正確なDDI予測を行う方法論を提唱した(Fig. 6).

Fig. 6. Standardized Workflow to Predict DDI Involving a New Chemical Entity (NCE) Using Coproporphyrin I (CP-I) as an OATP1B Biomarker

その後の展開として,クラスターガウスニュートン法(cluster Gauss–Newton method: CGNM, http://www.bluetree.me/CGNmethod_for_PBPKmodels)と呼ばれる新しいパラメータ推定法を用いて,CP-Iを例としたOATP1B内在性基質のrobustなPBPKモデルの構築法に関する研究に取り組んでいる.CGNMは未知パラメータが一意に定まらないことを仮定し,多数のパラメータセット初期値を発生させた後,すべてのパラメータセットについて血中濃度推移等のデータに対するフィッティングを行い,データを説明可能なパラメータセットを同時に得ることができる.CP-Iの臨床データを解析することにより,リファンピシンによるOATP1BのKi値,CP-Iの肝固有クリアランス及び生合成速度は狭い範囲で得られたことから,OATP1B阻害によるCP-I血中濃度変化のプロファイルを再現する上で鍵となるパラメータであることが示唆されている.見方を変えれば,他の未知パラメータが必ずしも定まらなくても,CP-IをDDI予測に活用する上で支障のないrobustなPBPKモデルを構築できたことから,他のDDIバイオマーカー(ビリルビンや各種胆汁酸,腎トランスポーターの内在性基質等)にも応用可能と考えている.

5. おわりに

PBPKモデルを用いた定量的なDDI予測の流れと現状について筆者の係わった研究を軸に辿ってきた.PBPKモデル自体は歴史があり,先人の知恵をもとにして今がある.理論としては確立していると言ってよく,近年はソフトウェアも充実しているが,その適用法には注意しないといけないポイントが少なからず存在する.より簡易なモデルに比べて緻密であるがゆえに,「間違いが起こりやすい」とも言える.依然として明らかにすべき課題,そして標準化すべき方法論が多とあることから,引き続きそれらに取り組んでいく所存である.PBPKモデルは,生体における現象をメカニズムに基づき精緻に記述するという点で,薬効/副作用モデル(pharmacodynamics/toxicodynamics model: PD/TDモデル)と連結され得るものである.DDIや個人差を含むPKプロファイルを必要十分なレベルで正確に記述できていなければ,薬効及び副作用の予測において思わぬ落とし穴があるかもしれない.筆者は現在,臨床薬理学の視点も持ちつつ,モデリング&シミュレーション(modeling and simulation: M&S)による予測法の標準化に必要な理論の構築や,M&Sに基づいた新しい生体内メカニズム(PK及びPD)の発見を目指して研究を進めている.

謝辞

本研究を実施するにあたって,理化学研究所における在職時よりご指導を賜りました城西国際大学薬学部の杉山雄一特別招聘教授に深く感謝いたします.また,本研究に対して多くの有益な助言を賜りました青木康憲先生(城西国際大学薬学部/AstraZeneca),楠原洋之先生(東京大学大学院薬学系研究科),前田和哉先生(北里大学薬学部),千葉康司先生(横浜薬科大学薬学部)に心より感謝いたします.更に,本研究は理化学研究所杉山特別研究室(当時)ならびに横浜薬科大学薬学部臨床薬理学研究室で実施したものであり,ご協力いただきましたスタッフ及び研究室メンバーの皆様に厚く御礼申し上げます.本研究は日本学術振興会科研費(24229002, 17K15536, 19H03392, 20K07209)のご支援により実施されたものであることから,ここに御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2021年度日本薬学会関東支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
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