YAKUGAKU ZASSHI
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Evaluation and Clarification of Enterohepatic Interactions in Pharmacokinetics
Hiroshi Arakawa
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2023 Volume 143 Issue 2 Pages 101-104

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Summary

The evaluation and prediction of pharmacokinetics in humans is important in the field of drug discovery and development. Generally, human pharmacokinetics is predicted using physiologically based pharmacokinetic models that include physiological and physicochemical (drug) parameters obtained from in vitro assays. Specific organ dysfunction, such as liver disease, also affects the functions of other organs, causing unexpected pharmacokinetic fluctuations. I investigated the effect of cholestasis on intestinal drug absorption in mice subjected to bile duct ligation (BDL). The intestinal absorption and permeability of imatinib was decreased in BDL mice compared with sham-operated mice, and this may be attributed to the up-regulation of the efflux transporter, breast cancer resistance protein. However, a single-organ experimental system cannot predict such pharmacokinetic changes. To overcome this challenge, I investigated a microphysiological system (MPS) equipped with intestinal and hepatic cells for pharmacokinetic evaluation. The glucuronidation of triazolam was significantly increased in an enterohepatic MPS compared with a single-culture system. These results suggested that the elucidation of organ interactions requires the use of an MPS loaded with human cells in combination with laboratory animal studies. In this review, I present the results of my evaluation of organ interactions using animal models and MPSs in the Award for Young Scientists from the Pharmaceutical Society of Japan, Hokuriku Branch.

1. はじめに

医薬品の研究開発において,ヒト肝臓由来ミクロソームなどのin vitro実験系から薬物動態パラメーターを取得し,physiologically based pharmacokinetic(PBPK)モデルを用いてヒト薬物動態の予測が行われる.1一方,腎障害や肝障害など臓器機能が低下した患者では,臓器障害のない患者と比較して,特徴的な薬物動態を示すことがある.これら患者における薬物動態予測が課題となっているが,臓器障害の程度に伴う薬物動態パラメーターの変動を定量化する必要があり,単独臓器由来試料を用いたin vitro試験によるボトムアップアプローチやヒト血中濃度推移の解析によるトップダウンアプローチだけでは限界がある.そのため,どのような,またどの程度の疾患で,どの程度の薬物動態変動が引き起こされるかを評価するうえで,実験動物を用いた検討が有用である.しかし,実験動物を用いた検討では様々な因子が複雑に絡み合うため,そのメカニズムの同定が容易ではない.近年,任意の臓器細胞を搭載し,培地を灌流することで共培養を行うmicrophysiological system(MPS)2の開発が進み,臓器間相互作用の解明が可能になりつつある.本総説では臓器間相互作用の観測と解明を目的として実験動物及び腸肝搭載MPSを用いた検討を紹介する.

2. 動物モデルを用いた臓器間相互作用による薬物動態変化の解明

肝障害時では,薬物代謝酵素の分子種や個人差により変動の程度は異なるものの,薬物代謝酵素活性が低下し,多くの薬物の血中濃度は上昇する.3一方,ニロチニブなど一部の薬物は肝障害により血中濃度が低下することが知られている.4この原因として肝障害に伴う胆汁分泌の低下による消化管での薬物溶解性の低下に加え,消化管に発現する薬物トランスポーターの発現変動が想定される.実験動物を用いた検討が既になされており,例えば胆管結紮動物では肝障害に伴い消化管の薬物排泄を担うbreast cancer resistance protein(BCRP)が発現上昇する.5この発現上昇は,肝臓の機能低下を補うため消化管における薬物を含めた異物の吸収を抑制する防御反応と考えられるが,肝障害に伴う消化管薬物トランスポーターの発現変動に伴い,実際に薬物の吸収が変動するかは不明であった.筆者は胆管結紮による胆汁うっ滞モデルマウスを用いた検討を行い,種々の薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの基質となる薬物の消化管吸収への影響を調べた.6その結果,胆管結紮を施したラットの消化管におけるBCRPのタンパク質発現量上昇を観察し,それに伴い分子標的薬イマチニブの消化管吸収が低下することを見い出した(Fig. 1).またBCRPの発現上昇メカニズムとして,胆汁うっ滞時の血漿成分によるアリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor: AhR)の活性化が示唆された.また,薬物動態の変動要因として,異なる臓器間のみならず,同一臓器内の異なる細胞種間でもシグナルのやりとりがある.筆者は小腸内分泌細胞に発現する味覚受容体に着目し,甘味成分が小腸上皮細胞におけるペプチドトランスポーターの膜発現量を増大させ,その活性を上昇させることを明らかとした.7このように,疾患モデル動物を用いることで,疾患が引き起こされた臓器以外の臓器機能変化に起因する薬物動態変動の評価が可能となる.

Fig. 1. Reduction of Intestinal Absorption of Imatinib in Rats with Bile Duct Ligation

Reproduced with permission from J. Pharm. Sci., 108(9), 3130–3137 (2019).

3. 腸肝連結MPSを用いた薬物動態解析

臓器間相互作用の解明においては,動物モデルを用いた解析が有効であるが,様々な臓器が複雑に絡み合うため,基盤となるメカニズムの探索は難しい.また,用いる動物モデルのヒトとの相同性や薬物動態制御タンパク質の種差も問題となる.そのため,臓器間相互作用の解明には既存の動物モデルとともに,複数のヒト臓器由来細胞を共培養した実験系を用い,解析していくことが必要と考えられる.MPSは,微小循環させた培地が血流を,培養された細胞が臓器を模倣する細胞培養系である.解析したい臓器由来細胞のみを搭載したMPSを用いることで,特定の臓器間相互作用を解明することが可能となる.過去にMPSを用いた薬物代謝研究がなされていた8ものの,これまでの研究の多くはMPS自体の開発に重きが置かれ,薬物代謝や毒性などの観察例に留まり,ヒトでの薬物動態をどの程度反映し得るか,どういった速度論的解析が妥当かなどの基礎的検討が十分ではなかった.そこで,消化管(Caco-2細胞)及び肝臓(HepaRG細胞)を搭載したMPS薬物動態評価系を産業技術総合研究所の杉浦,金森らとともに構築し,第I相及び第II相代謝反応を受けるトリアゾラムの定量的動態評価を行った.9その結果,共培養によりトリアゾラムのグルクロン酸抱合体生成量が著しく上昇する共培養効果を見い出し,またトリアゾラム及びその代謝物の臨床血中濃度推移のスケーリング手法の開発に成功し,異物排泄に及ぼす臓器間相互作用を世界に先駆けて提示した(Fig. 2).9また,より生理的な細胞を用いた臓器間相互作用を観測するため,iPS由来小腸上皮細胞とヒト肝キメラPXB細胞をMPS上で共培養し,消化管細胞による肝薬物代謝活性への影響を調べた.10その結果,CYP3A4など主要な代謝酵素の代謝活性が単独培養と比較し共培養により増加した.この活性増加の分子メカニズムの同定には至らなかったものの,各代謝酵素のmRNA発現量の増加を伴っていたことから,小腸上皮細胞から分泌される何かしらの伝達物質により転写活性の増大を引き起こしていることが示唆された.上記2つのMPSを用いた検討結果から,小腸と肝臓には異物代謝機能を調節する臓器間相互作用が存在することが示唆された.今後,この分子メカニズムを明らかとすることで,より詳細な薬物動態予測が可能になることが期待される.また現在でも引き続きMPSを用いた薬物動態評価における有用性を明らかとすべく,工学系研究者との共同研究を行っている.11,12

Fig. 2. Evaluation of Triazolam Metabolism in an Enterohepatic Microphysiological System

Reproduced with permission from Lab. Chip., 20(3), 537–547 (2020).

4. 臓器間相互作用を観測するプローブ薬と評価系の開発

臓器間相互作用を観測及び解明するためには,化合物の体内動態を規定するトランスポーターや代謝酵素の機能を経時的に評価することが必要となる.そこで,特にトランスポーターの機能をin vivoで観測可能なプローブの開発を行っている.その成果の一つとして,尿酸アナログを利用した尿酸トランスポーター(urate transporter 1: URAT1)のin vivoプローブの開発に成功した.13尿酸の血清中濃度は,主に肝臓における生合成及び尿中への排泄によって調節され,特に腎臓における尿酸再吸収トランスポーターURAT1の阻害薬は,高尿酸血症の薬物標的となる.しかし,尿酸は一部の霊長類を除く実験動物においてウリカーゼによりアラントインへ代謝されることに加え,ヒトに比べてプリン代謝速度が速いため,URAT1阻害による薬理効果の評価が容易ではない.そこで,ウリカーゼに耐性のある化合物を尿酸アナログとして投与することによって,in vivoにおけるURAT1活性の評価系構築を試みた.その結果,1-メチル尿酸や6-チオ尿酸がウリカーゼに耐性を持つ新規URAT1基質として見い出された.さらに尿酸アナログの一つして見い出されたオキシプリノールは,実験動物に投与後に尿中排泄クリアランスを測定することにより,プリン代謝の種差を考慮せずにURAT1活性のin vivo評価が可能であることが示された.このようなin vivoあるいはチップ上で利用可能なトランスポーターや代謝酵素の機能プローブの開発により,臓器間相互作用のより詳細な解明に寄与することが期待される.

5. おわりに

薬物動態を制御する薬物トランスポーターや薬物代謝酵素は個別の機能解明が進んでいるものの,疾患時における機能変化については評価ツールの構築も含め,研究が発展途上である.今後も異分野融合研究を展開しながら,安全性の高い医薬品創出あるいはより安全な薬物療法に貢献する研究を展開していきたい.

謝辞

本研究の遂行にあたりまして,多大なるご指導を頂きました金沢大学医薬保健研究域薬学系教授 加藤将夫先生,玉井郁巳先生,中島美紀先生,また高崎健康福祉大学大学院教授 荻原琢男線先生に謹んで感謝申し上げます.また,MPS研究で多大なご指導を賜りました東京大学大学院教授 酒井康行先生並びに産業技術総合研究所 杉浦慎治博士に深謝申し上げます.本研究成果の一部は,JSPS科研費16K18865,AMED課題番号19be0304201h0002,中冨健康科学振興財団並びに薬学研究奨励財団による助成を頂きました.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2021年度日本薬学会北陸支部学術奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
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